夏のある日
「プール?」
「えぇ!苗字さんもどうでしょうか……?」
「い、行きたい!むしろ行かせてください!!」
まさか八百万さんに誘われるとは。意外な。
聞くところによると、夏休みは遠出は辞めなさいと学校からの指示があり、つまらないと言う話になって、
学校のプールで遊べば良いのでは?となったらしく、お誘いされた。
「そうですか!嬉しいですわ!良ければ耳郎さんも誘っておいて頂けると嬉しいのですが……。」
「うん!わかった、聞いておくね。」
「ありがとうございます!」
そう言うとまた別の女子に声をかけに行った八百万さん。
はぁ……美人。美人だなぁ…………。
それにおっぱいも…………でか…………。
あれかな、推薦入学は実力と顔やらスタイルやらなんやら良くないと駄目なのかな。ほら、轟くんだって足の長さとんでもないし。顔は言わずもがな。
流石推薦入学者。わくわくと声をかけてきたあの様子も可愛くて仕方がない。
私も見習ってみようかな…………いや駄目だ……おっぱいが足りない…………。
私は溜息をひとつついて、響香ちゃんの元へと向かった。
◇
「男子はトレーニングなんだぁ……大変だねぇ。」
「ね、夏休みまでトレーニングとかよくやるわぁ。」
さんさんと日光が降り注ぐ中、少し休もうという事でプールサイドにて男子たちが泳ぐ様子を眺める。
うぉ…………轟くん筋肉すごっ…………バッキバキじゃん、その上にあの澄ましたお顔が乗ってるとか、ずるすぎるな。女の子は皆落ちちゃうよ。
「そういえばさ、名前って轟と仲良いよね。」
「え、そうかな?……轟くんと仲悪いのなんて爆豪くんぐらいじゃない?」
仲悪い、と言うか一方的に毛嫌っていると言うか。
「いや、そういうんじゃなくてさ。他の人とより、轟も名前と話すの楽しそうって言うか。遠目に見てても2人は仲良いなぁ、って思うよ?」
「そう……なんだぁ…………確かに仲は良い方だと思う。」
似た境遇を持っているというのもあって、お互い会話するのは楽だ。轟くんは聞き上手だから話してて楽しいし。
でもだからと言って、物凄く仲良しって訳でもない。普段は私は響香ちゃんと、彼は緑谷くんや飯田くんと一緒にいるのだから。
たまに顔を合わせたり、授業でペアになったり。そう言った時に話すぐらいで、別段特別仲が良いってことは無いと思う。
「その程度かぁ…………ねぇ、名前って好きな人とかいないの?」
「え!!?い、いないよ。そんなの。きょ、響香ちゃんじゃあるまいし。」
「は!?ウチだっていないけど、」
「え、嘘?上鳴くんの事好きなんじゃ、」
「はあああああ!!?」
「うわ、う、うるさ。」
「そんな訳!!無いでしょ!!誰があのうぇいなんか!!」
「ええぇ……?」
その割には上鳴くんの事気にするし、うぇい状態で誰より笑うじゃないか。
絶対に響香ちゃんは上鳴くんの事が好きなんだと思ってたのに。…………いやでもこれは、肯定と見ても良いのかな……?
「とにかく!!絶対違うから!!もう!!」
ぷりぷり怒ってプールに戻って行ってしまった響香ちゃん。ありゃりゃ……。
「……喧嘩したのか?」
ん?と思って声の方を振り返ると、水も滴る良い男。
「うわっ!?」
「お、悪ぃ。」
その悪ぃ、って本当に悪いと思っているのだろうか。ご自身の顔の良さをちゃんとわかっているのだろうか。
ばくばくばく、うるさい心臓を落ち着かせながら改めて轟くんを見ると、今度はバッキバキの筋肉が目に入ってしまって
「ぐぅっ……。」
「え、ど、どうした。苗字。」
くっそぅ…………どこを見ても見てられない。心配しているその表情すらイケメンだ、なんなんだイケメン。私が耐性無さすぎなだけ?
「………………なんでもないよ。……えっとね、響香ちゃんとも喧嘩……では無いと思う。」
たぶん。真っ赤になって否定してたし、たぶん上鳴くんが好きなのは本当だし、怒ってるんじゃなくて恥ずかしくなっちゃったのだろう。
「そ、そうか。…………何の話してたんだ?」
私の隣に座り込んだ轟くん。あれ、トレーニングは良いのかな。と思って男子の方を見ると、なんだかレースが始まっていた。
それに女子たちも集まっていて、大盛り上がり。いつの間に。
「……あれ、轟くんは参加しなくて良いの?」
「ん、さっきやって来た。決勝戦待ちだ。」
なんと。こんなとこでも実力者。絶対個性使ったでしょ、今見ていても皆に個性使いまくっててろくに泳いでない。
「そ、そっか……響香ちゃんとは恋の話をしてたんだよ。」
「…………………………………………恋。」
「た、溜めたね。」
「恋……………………。」
「そう、恋。響香ちゃんはきっと上鳴くんの事気になってるんだろうなって思って言ったら、顔真っ赤にしてあっち行っちゃった。」
「……そうだったのか。」
「うん、だから喧嘩じゃないと思う。」
「………………苗字も気になる奴とかいるのか?」
「いや、私は……。」
全然、と言おうとした所で轟くんを見ると、思っていたより近くにいて。その綺麗なオッドアイや長いまつ毛がこちらを向いていた。
か、かっこいい……。そう思った時にきゅん。
「…………苗字?」
さらり、いつの間にか乾いた轟くんのさらさらな髪が首を傾げると同時に流れる。
無意識にその髪へ手を伸ばして、指を差し込む。
するり。抜けていく綺麗な髪。
「……………………いる、みたい。」
「…………え?」
「気になる人、いるみたいだ。」
今知ったけど。なんて言葉は隠して。
今はただ、不思議そうにこちらを見ているだけでいて?