夜更け
「……あれ、轟くん?」
「………………苗字。」
こんな夜更けに何してるんだろう。
寮に入って初日。皆各々片付けをしたり、部屋王を決めたりして布団に入ったはずなんだけども。
「……何してるんだ、こんな夜更けに。」
「いやいや、こっちの台詞だよ。……私はなんか、落ち着かなくて。」
「落ち着かない?」
「ほら、今まで住んでた家じゃないから。上手く寝付けなくて。」
「あぁ……俺もだ。」
「え、そうだったの?……意外。轟くんどこでも寝れそうなのに。」
「なんだよそのイメージ。」
なんか、ぽやーっとしてるから。寝れそうじゃないか?と思って言った言葉は、彼の笑顔に繋がった。よっしゃ。
「……体はもう大丈夫か?」
「うん。元々睡眠不足と過労だったから、ご飯食べてちゃんと寝たら元気になったよ!」
「そうか、なら良かった。」
共にソファーへ座ってぼーっと時間がゆっくりと過ぎるのを感じる。
「…………ふふっ。」
「……?どうした。」
「なんか、夢みたいで。」
「夢?」
小さい頃は、世界がとても狭くて。
常に視界に入ってくるのは、怒り狂う父親。そして泣き叫ぶ母親。
気づけば母親はいなくなっていて、ただただ繰り返される訓練と言う名の暴行。
でも、私の親はあの人しかいなくて。
だから個性が暴走した時は、怖くて怖くて仕方がなかった。たった1人の親を殺してしまったかと思って。
でも、障害が残ったものの生きられた。助かった。
だから嬉しかった、安心した。でも。
たった1人の肉親の中で、私は化け物となってしまった。
あんな親でも、あんな奴でも、私は縋っていたようで。
近寄るな、化け物。そう言われた時に私の世界は全て崩れたような気がした。
だから養護施設に入っても、生きてる価値なんて見いだせなくて。ただただもう誰1人傷つけたくなくて、自分の存在を殺すように、息を潜めて生きていた。
……リカバリーガールに出会うまでは。
リカバリーガールは言ってくれた、凄い個性だと。人の役に立てる個性だと。
その言葉だけが、リカバリーガールの教えだけが段々と私の希望へと変わっていき。
父親といた頃には見向きもしなかった、目指すよう言われていた職業に目が向いた。
ヒーロー。人を、救ける職業。
私は聞いた、泣きながら、ぼろぼろのくしゃくしゃの顔でリカバリーガールに聞いた。
私も、ヒーローになれますか。と。
彼女は言った。……雄英で待ってるよ。と。
あの日から、私の人生は再び音を立てて動き出した。
勿論簡単な日々では無かった、難関と言われるだけあって勉強も個性磨きも沢山した。
でもその結果。きっと厳しいヒーロー科での日々がやって来るんだと思っていたのに。
勿論大変ではあるが、それ以上に。
「……小さい頃は想像も出来なかったぐらいに、今が楽しくて。」
沢山の友達がいて。信頼出来る親友がいて。
…………大好きな人がいて。その人と今、共に時間を過ごせているなんて。
「こんなに幸せな時間がやって来るなんて。……小さい頃の私に教えてあげたいぐらいだよ。」
「…………そうだな、俺もだ。」
似たような境遇を持つが故、気持ちが痛いくらいに伝わる。
轟くんは、これ以上なく優しく目尻を下げて微笑んだ。
ふふ、と笑いあっているとおもむろに轟くんは立ち上がり、私の隣へ。
ぼす、と座ると私の手を握った。
「…………………………え!?」
私よりずっと大きくて、沢山戦ってきた手。守ってもらった手。
それを意識するだけで顔に熱が集まるのに、なんで、そんな優しい顔して、
「………………俺も今が幸せだって、教えてやりてぇ。」
なにが、なんで、手、幸せって、どれが、!?
私は彼の言葉の真意もわからないまま、ただただ彼の前に真っ赤な顔を晒し続けた。