君へ贈る言葉を
ギャングオルカとの戦闘を開始した皆。
私たちは被害が来ないよう、離れて救護活動に励む。
重傷者などを手分けして運びながら、激しい攻防を遠目に眺める。
あの強い高火力の炎は、恐らく轟くんだろう。あれほどの火力を出せるのは彼しか知らない。
そして空中にて竜巻を起こしているのは、試験前に会った夜嵐くんっぽい。先生から聞いた個性だと風だと言っていたから。
なんとか協力してやってくれると良いな、と思っているとこちらに向かってきた火の手。
…………え!?
地面に伏している男の子、あ、あぶな!!と思っていると彼を引き上げた緑谷くん。
よ、良かった………………と言うかなんで火の手がこちらに。
ギャングオルカの方が酷く気になるが、こちらも忙しいのでそれどころじゃない。
救助が終われば終わりなのだ。若干心配になりつつも、続々とやってくる救助者の受け取りに集中した。
◇
「……………………嘘。」
「いや、名前は受かって当然でしょ。あれだけ救護頑張ったんだから、」
「ち、違うの響香ちゃん、轟くんが……。」
「……………………え、嘘。」
なんで、なんで轟くんの名前が無いの。
やっぱりギャングオルカとの時に何かあったんだ。だって彼が火の手を救護側へ向けるとは思えない。何かあって、あんな事になってしまったんだ。
………………声を、かけたい。でも。なんて?
私は受かってるのに、なんて声を。…………轟くんは期末テストの時、私の事気遣って声掛けてくれたのに。
彼にかける言葉が、何一つ見つからない。何を言っても傷つけてしまいそうで。
彼にかけられる言葉も見つからないまま、彼の顔も見れないまま、仮免取得試験は終了した。
◇
…………星が、綺麗だなぁ。
ふと夜中に目が覚めてしまって、外を出歩いてみる。
騒いだり、学校から出なければ怒られることも無いだろう。すん、と鼻を効かせれば少しだけ夏の匂いがする。
轟くん…………大丈夫かな。
仮免試験から数日が経過して、普段通りの生活…………まぁ緑谷くんと爆豪くんは置いておいて。普段通りの生活が始まった。
轟くんは特に大きく変わった様子もなく、特に話す機会も無いまま今に至っている。
……仮免試験、よくよく見たら爆豪くんも落ちてて、それは、まぁ、なんとなくわかるって言うか。そんな感じだけども。あと、士傑の夜嵐くんも落ちてた。…………夜嵐くんと何かあったのだろうか。
聞きたい。けど、……けど、嫌だったらどうしよう。
とりあえず補習を受けて、合格したら仮免取れるという救済措置があったがせめてもの救いだ。でも、落ちたという事実は変わらない。
…………………………でも、…………このまま彼に上手く言葉をかけられないままなのも、嫌だなぁ。
私なら何を言われたら嬉しいか、轟くんだったら私に何を言ってくれるか。考えても考えても、わからない。
「……………………はぁ。」
「でけぇ溜息だな。」
「………………………………え?」
今なんか聞こえたような。気のせいかな、だって轟くんのような声が、
「無視か?」
「……っぎゃ!!!んぐっ!」
「し、静かにしろ。俺たちまであいつらみたいに謹慎になるぞ。」
「ん、んん!!」
振り返るとやはりいた轟くん。わかっていても奇声は止められなくて叫ぶと、勢いよくその大きな手のひらを押し付けられた。確かに、危うく謹慎案件だ。
「ご、ごめん……。」
「いや、急に話しかけた俺も悪かったな。…………また眠れねぇのか?」
ふふ、と軽やかに空気を震わせた轟くん。……元気、そうだな。良かった。
「……うん、なんか夜中に目覚ましやすくて。明日休みだし眠れなくてもいっかぁ、と思ってね。」
散歩してました。と言うと、俺と一緒だな。と笑った轟くん。
「轟くんも寝付けなかったの?」
「あぁ、なんか眠れなかった。」
「そっかぁ。」
ぼけっと空を見上げながら歩く。沈黙も続く。でも、別段気まずくは無い。不思議だ、轟くんがイケメンだからかな。
「…………仮免試験の時、」
「……うぅっ!?う、うん!!」
「っははは!!なんだよその反応。」
まさか気になってたことを自ら話してくれるとは思わなくて、喉がおかしな感じに震えて裏返った声が出てしまった。
「い、いや、あの…………その、……き、気になってて。」
「……俺が落ちたことが?」
「……うん、まぁ。それもそうだけど…………何か、言葉を掛けてあげたいなって思って。」
「……え?」
「でも、何を言ったら良いのかわからなくて。……少しでも轟くんの気持ちが楽になるような言葉はなんだろう、ってずっと考えてて…………でも私、そういうの轟くんみたいに上手に出来なくて、ただ悩むことしか出来なかった……。」
情けない、本当に。自分は助けてもらったのに。
「…………ごめん、気の利いた一言さえ言えずに。」
行動でも表してあげられなかった、轟くんは期末テストの後話を聞くために残ってくれてたのに。凄く嬉しかったのに。
「……………………いや、充分だ。」
「……え?」
いつの間にか俯いていた顔をあげると、柔らかく微笑んでいる轟くん。
「それだけ俺の事で悩んでくれたんだろ?……充分だよ。」
「そんなの…………私は轟くんに救われたのに。」
「救われた?」
「……轟くんは私の話を聞こうとしてくれて、私の話聞いて一緒に頑張ろうって言ってくれたのに。……私は。」
「……それなら俺だって救われた。」
「え……。」
「こうして俺の事で悩んでくれる奴がいるんだな、って。それだけでも救われたよ。」
「そ!!そんなの!!き、きっと私だけじゃないよ。」
轟くんは人望も厚い。きっと仲の良い緑谷くんや飯田くんあたりもきっと気にしていただろう。私だけじゃない。それは轟くんの人望が故。
「それでも。」
足を止めて向き直る。
「お前がそこまで考えてくれてたってだけでも、喜んじゃ駄目か?」
そう言って無邪気に笑った轟くん。そ、そんなのは……。
「い、…………良いに決まって……ます、けど。」
夜の闇にこの赤い熱が隠れますように、そう願って私は彼から顔を背けた。