休息

「ふぅ…………。」


「あ、おかえり名前ー!!」


「おかえりなさいませ!」


「おかえりぃー!」


「……ふふ、ただいま!」


皆暖かい格好してぬくぬくしてる。


文化祭が終わり、更にまた秋が深まった頃。エリちゃんが学校で引き取られた事もあり、私は連日エリちゃんの元へと通っていた。


以前話した個性の練習。それに取り組むため協力して欲しいと相澤先生から言われ、勿論二つ返事で頷いた。


しかし、まぁ。1から教えるとなると案外難しくて、言葉にしても首を傾げられる日々。オールマイトや相澤先生、通形先輩たちと懸命にエリちゃんが一日でも早くこの個性を使いこなせるよう、尽力している。


その結果、毎日皆より遅く帰ってきたり休みの日も寮にいなかったりで、皆と過ごす時間は減っていた。


「……あ、おかえり苗字。」


「ただいま、轟くん。」


「毎日頑張ってるな。」


「うん、……難しいけどやりがいあるから頑張れる!」


全く進歩がない訳でもない。きっとエリちゃんは元より器用な方だと思われる、私の理解出来ない説明でもなんとか何かを掴んで実践してくれたりしている。


「エリちゃんの為に、どう教えたらわかりやすいかなぁとか考えてると楽しいよ!」


「そっか。…………でも、」


するり、轟くんの指先が目元をなぞる。


「ちゃんと寝ろよ、クマ出来てる。」


「え、う、嘘!?」


「ほんと。」


轟くんのボディタッチに驚く間もなく、クマの存在に驚く。わ、割と寝てたのにな……!?


「疲れとれてねぇんじゃねぇか?……頑張るのも良いけど、自分のことも大事にしろよ。」


や、優しい…………優しさを感じる……、それだけで私元気になれそうだよ轟くん。


「……うん、ありがとう。今日はしっかり休むことにする。」


「ん、そうしてくれ。」





……………………今日はしっかり休む、そう言っていたはずなんだが。


明日が休みという事もあり夜更かししていた連中もいなくなった共同スペース。


先に寝ていた俺だったが、ふと目が覚めて降りてくるとこれだ。


共同スペースの机に、何やら個性に関する文献を山積みにして、それらをノートにまとめている苗字。


……否、まとめていたのであろう苗字。


いつも感情豊かに揺れる瞳は瞼に隠され、そのなりを潜めている。


「…………苗字、起きろ。」


こんなとこで寝てると風邪を引く。もうだいぶさみぃんだ、温度調節出来ねぇんだから暖かくしてねぇと。


「苗字、苗字。」


体を揺すって起こそうと試みるが、起きる気配が無い。


そう言えば林間合宿の時も、一度寝ると中々起きなかったな。最終的には耳郎が水ぶっかけて起こしてたっけ。


………………無防備、過ぎねぇか。


「……こんなとこで寝て。何されても文句言えねぇぞ。」


皆が集まる共同スペース。誰の目についてもおかしくない。


…………普通なら、こんな思考回路になんてならねぇけど。自分の下心が象って見えてしまったような気がして嫌になる。


これ以上ここで眺めていても、駄目だ。いつか何かやらかす気しかしない。


深呼吸して、平常心平常心。


ぐったりとソファーに身を預けている苗字の背中と膝裏に手を入れて、持ち上げる。


平常心平常心、平常心。


これが緊急事態なら、こんな煩悩に振り回されることも無かったのかもしれない。


緩んだ気持ちから生まれた煩悩は、腕の中で健やかに眠る苗字を意識して仕方がない。


俺はもう一度深く呼吸をして、足早に共同スペースを去った。

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