最後の日
「いっけええー!!負けんな名前!!」
「押されてるよ!!気をつけて轟くん!!」
桜の蕾がちらつく頃。
ふわりと舞う炎舞を避けて、懐へ。
しかし進行方向へは氷壁が。それも読んで避けてまずは足を。
「っくそ、」
加減はしてない、もう足を動かせないほどの痛みを与えたはず。
ならばと左手から発される炎をギリギリで避けて、コスチュームや髪が少し燃えているのも気にせず、彼の腕を掴み、破壊しそのまま押し倒す。
氷壁を作られるかも、と危惧したが、押し倒した際に足へ負担がかかったらしく呻き声を上げ、一瞬の隙。
その隙を逃さず、首へ手を伸ばしその長い首を捉えた。
「っはぁ…………っはぁ…………。」
「…………くそ、最後の最後で……っ。」
悔しそうにしつつも笑った轟くん。
やっと、やっと。
振り返ると、わー!!と歓声を上げている皆。
「名前!!やったじゃん!!」
「轟ぃ、ちょっと油断したな??」
「凄かったよ!!2人とも!!」
そう言われて、やっぱり勝てたのだと嬉しさが込み上げてくる。
…………ってそれより。
「ご、ごめん轟くん!!すぐ治す!!」
「あぁ…………頼む……つっ。」
痛みに顔を歪ませている、わあああ!!そうだよね、加減なしでぶっぱしちゃったから、絶対痛いよねごめんね!!
慌てて治療に専念する。
そんな私を見て、皆は笑った。私も笑った。
最後の春が、来た。
◇
「エンデヴァーの事務所なら……あんまり遠くには行かないんだね。」
「あぁ。常闇や切島達はだいぶ遠くに行っちまうからな。」
「ね、中々会えなくなっちゃうね。」
卒業式。皆胸元に花を飾り、雄英生として最後の時間を過ごしている。
私はとりあえず響香ちゃんと話し、そして沢山お世話になった轟くん。…………大好きだった轟くんに声をかけた。
「お前は…………どこに行くんだ?」
「あー……えっと、実はプロヒーローにはすぐならなくて、」
「…………は?」
「あ、えっと、ちょっと勉強したい事とか取りたい資格とかあって。その辺終わったらプロヒーローとして採用してもらおうかなって思ってて。」
「…………遠くへ行くのか?」
「え!?いやいや。私もこの辺からは離れない予定だよ。ただ皆みたいにサイドキックにならないから、現場で会ったりとかは無いと思うけど……。」
「そっか…………。」
…………どことなく、寂しげな轟くん。
サイドキックになるもんだと思ってたかな、そうだよね普通。……なんだか申し訳ないな。
「で、でもね。私が目指してるものは変わらないよ!」
「……変わらない?」
「うん、私は、治すヒーローになるよ。」
だから皆とは少しだけ違う道を歩むかもしれない、それでも。
「いつかはきっと、皆からも見える場所まで行くつもりだから。」
「…………そっか。」
ふわり、あぁこの笑顔は苦手なんだ。本当に。心をぎゅ、と掴まれて離されない。
でも伝えなきゃ、最後なんだから。沢山のありがとうを。
「……わ、私、轟くんと出会えて良かったよ。」
「……えっ?」
「似たような境遇持ってる人なんて少ないから……気持ち分かってもらえて、一緒に頑張ろうって言ってくれた時。あの日に私救われた気がして。」
「…………。」
「それに、沢山轟くんと手合わせして。上を目指し続ける轟くんの姿見て私も頑張ろうって思わされた。凄く凄く良い見本だった。……ありがとう!」
結局あなたへ想いを伝えることは出来なかったけど、これで良かったと思ってる。
きっとこの距離が私には心地よい。これ以上は、彼のこれ以上に踏み込むのは私には難しいよ。
だから、
「……出来れば、これからも仲良くして欲しいんだけど、……たまには連絡しても良い?」
そう聞くと、目を丸くした轟くん。
「…………あぁ、勿論。…………なぁ、苗字。」
「うん?」
「1年の時。……気になる奴いるって言ってたよな。」
「ぅえっ!?」
な、なんでそんな前のこと覚えてるの!?とっくに忘れられたもんだと……。
「……そいつとはどうなったんだ?」
「え、あ、う、うーんと…………どうともなってないかなぁ。」
「……告白とか。しなかったのか?」
「ししし、しないよ!!そんな勇気無いし。」
だから轟くんは、もっと日頃告白して来た子達を大事に思ってあげてください。瞬殺だって有名だから。
「…………そっか。」
「う、うん。」
…………こうして轟くんと毎日会えるのも今日が最後か。
そう思うと急に寂しさが込み上げてきて、苦しくなる。
……この恋は、ここで蓋をしよう。辞められる訳なんかないけど、区切りをつけたい。
さらりと揺れる髪、高い鼻、綺麗なオッドアイ。
優しくて、暖かくて穏やかな轟くん。
色んな表情見てきたな、困った顔や苦しむ顔、怒った顔に……笑った顔。
全部全部大好きだった、愛おしかった。
息を止める。今息を吸ったら、零れてしまいそうで。
…………さようなら、轟くんへの恋心。
「…………………………俺は、」
「…………うん?」
「…………俺は、ちゃんと気持ちは伝えて卒業してぇ。」
「…………?」
……好きな子が、いるってことだろうか。
じくり。胸が痛むが大丈夫。密かに深呼吸をして聞き返す。
「好きな子に、告白したいってこと?」
「……あぁ。」
「そっかそっか!行っておいでよ!!早くしないと帰っちゃうかもしれないし。」
卒業式は随分前に終わってしまった。こうして雑談してない限りは、帰る人もいるだろう。
「…………………………俺は、」
「…………うん?」
そう言っても動き出さない轟くんは、しっかりと私を見据えて。
「…………苗字、俺は。」