最後の日

「いっけええー!!負けんな名前!!」


「押されてるよ!!気をつけて轟くん!!」


桜の蕾がちらつく頃。


ふわりと舞う炎舞を避けて、懐へ。


しかし進行方向へは氷壁が。それも読んで避けてまずは足を。


「っくそ、」


加減はしてない、もう足を動かせないほどの痛みを与えたはず。


ならばと左手から発される炎をギリギリで避けて、コスチュームや髪が少し燃えているのも気にせず、彼の腕を掴み、破壊しそのまま押し倒す。


氷壁を作られるかも、と危惧したが、押し倒した際に足へ負担がかかったらしく呻き声を上げ、一瞬の隙。


その隙を逃さず、首へ手を伸ばしその長い首を捉えた。


「っはぁ…………っはぁ…………。」


「…………くそ、最後の最後で……っ。」


悔しそうにしつつも笑った轟くん。


やっと、やっと。


振り返ると、わー!!と歓声を上げている皆。


「名前!!やったじゃん!!」


「轟ぃ、ちょっと油断したな??」


「凄かったよ!!2人とも!!」


そう言われて、やっぱり勝てたのだと嬉しさが込み上げてくる。


…………ってそれより。


「ご、ごめん轟くん!!すぐ治す!!」


「あぁ…………頼む……つっ。」


痛みに顔を歪ませている、わあああ!!そうだよね、加減なしでぶっぱしちゃったから、絶対痛いよねごめんね!!


慌てて治療に専念する。


そんな私を見て、皆は笑った。私も笑った。


最後の春が、来た。





「エンデヴァーの事務所なら……あんまり遠くには行かないんだね。」


「あぁ。常闇や切島達はだいぶ遠くに行っちまうからな。」


「ね、中々会えなくなっちゃうね。」


卒業式。皆胸元に花を飾り、雄英生として最後の時間を過ごしている。


私はとりあえず響香ちゃんと話し、そして沢山お世話になった轟くん。…………大好きだった轟くんに声をかけた。


「お前は…………どこに行くんだ?」


「あー……えっと、実はプロヒーローにはすぐならなくて、」


「…………は?」


「あ、えっと、ちょっと勉強したい事とか取りたい資格とかあって。その辺終わったらプロヒーローとして採用してもらおうかなって思ってて。」


「…………遠くへ行くのか?」


「え!?いやいや。私もこの辺からは離れない予定だよ。ただ皆みたいにサイドキックにならないから、現場で会ったりとかは無いと思うけど……。」


「そっか…………。」


…………どことなく、寂しげな轟くん。


サイドキックになるもんだと思ってたかな、そうだよね普通。……なんだか申し訳ないな。


「で、でもね。私が目指してるものは変わらないよ!」


「……変わらない?」


「うん、私は、治すヒーローになるよ。」


だから皆とは少しだけ違う道を歩むかもしれない、それでも。


「いつかはきっと、皆からも見える場所まで行くつもりだから。」


「…………そっか。」


ふわり、あぁこの笑顔は苦手なんだ。本当に。心をぎゅ、と掴まれて離されない。


でも伝えなきゃ、最後なんだから。沢山のありがとうを。


「……わ、私、轟くんと出会えて良かったよ。」


「……えっ?」


「似たような境遇持ってる人なんて少ないから……気持ち分かってもらえて、一緒に頑張ろうって言ってくれた時。あの日に私救われた気がして。」


「…………。」


「それに、沢山轟くんと手合わせして。上を目指し続ける轟くんの姿見て私も頑張ろうって思わされた。凄く凄く良い見本だった。……ありがとう!」


結局あなたへ想いを伝えることは出来なかったけど、これで良かったと思ってる。


きっとこの距離が私には心地よい。これ以上は、彼のこれ以上に踏み込むのは私には難しいよ。


だから、


「……出来れば、これからも仲良くして欲しいんだけど、……たまには連絡しても良い?」


そう聞くと、目を丸くした轟くん。


「…………あぁ、勿論。…………なぁ、苗字。」


「うん?」


「1年の時。……気になる奴いるって言ってたよな。」


「ぅえっ!?」


な、なんでそんな前のこと覚えてるの!?とっくに忘れられたもんだと……。


「……そいつとはどうなったんだ?」


「え、あ、う、うーんと…………どうともなってないかなぁ。」


「……告白とか。しなかったのか?」


「ししし、しないよ!!そんな勇気無いし。」


だから轟くんは、もっと日頃告白して来た子達を大事に思ってあげてください。瞬殺だって有名だから。


「…………そっか。」


「う、うん。」


…………こうして轟くんと毎日会えるのも今日が最後か。


そう思うと急に寂しさが込み上げてきて、苦しくなる。


……この恋は、ここで蓋をしよう。辞められる訳なんかないけど、区切りをつけたい。


さらりと揺れる髪、高い鼻、綺麗なオッドアイ。


優しくて、暖かくて穏やかな轟くん。


色んな表情見てきたな、困った顔や苦しむ顔、怒った顔に……笑った顔。


全部全部大好きだった、愛おしかった。


息を止める。今息を吸ったら、零れてしまいそうで。


…………さようなら、轟くんへの恋心。


「…………………………俺は、」


「…………うん?」


「…………俺は、ちゃんと気持ちは伝えて卒業してぇ。」


「…………?」


……好きな子が、いるってことだろうか。


じくり。胸が痛むが大丈夫。密かに深呼吸をして聞き返す。


「好きな子に、告白したいってこと?」


「……あぁ。」


「そっかそっか!行っておいでよ!!早くしないと帰っちゃうかもしれないし。」


卒業式は随分前に終わってしまった。こうして雑談してない限りは、帰る人もいるだろう。


「…………………………俺は、」


「…………うん?」


そう言っても動き出さない轟くんは、しっかりと私を見据えて。


「…………苗字、俺は。」

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