私たちの個性
「ご、ごめん!!遅くなった!!」
「……いや、俺も今来たところだ。」
仕事が中々終わらず、轟くんとの約束に遅れてしまった。
「なら良かった……あっつい。」
「冷やすか?」
「いやいや、偉大なプロヒーロー様の個性をこんな事に使っちゃ駄目だよ。」
「お前だってプロヒーローだろ。」
「……そうだった。」
「っふふふ。ほら、行くぞ。」
「うん!」
変装も板に着いた彼の隣に並び立つ。
立派な彼の隣は、少しだけ息苦しい。…………でも、
それなりに胸を張って隣を歩けるぐらいには、それぐらいには、自分自身を誇れているようだ。
◇
「今年も凄かったな、卒業式。」
「卒業式?……………………あぁ、あ、あれか。」
個室に通され、美味しすぎるご飯を口に運んでいると言われた言葉。
「毎年なんでだろうね…………冗談でだったらまだ心痛めなくて済むんだけど。」
彼らは本気なのだ。毎年毎年。
本気で、好きです。と愛を伝えてきてくれる。
でも、私は未だに初恋が忘れられないままで。
「…………それもそうだよな。」
ふふ、と笑った彼の恋人としてじゃなくても良いから、隣にいたいと願っているんだ。
「……轟くんは、彼女出来た?」
「…………………………なんで。」
少しだけむ。とした様子。え、なんで!?
「いや、……今日も生徒たちに聞かれてね。学生時代ショートって彼女いたの?って。適当に流しておいたけど……だいぶ前に聞いた時はいないって言ってたけど、今はどうなのかなって。」
実は胸が張り裂けそうな思いで聞いてるなんて、轟くんは想像もしてないだろうけれど。
「……いねぇよ。苗字は?」
「……私も。婚期逃しそうだなぁ。」
良かった、と安堵しながらなんて事ない顔して同調する。
ちゃんと隠しきれてるかな、この重すぎる片想い。
蓋をしても溢れて溢れて止まらない愛。
彼に、どうか伝わっていませんように。
◇
「美味しかったねぇ……。」
「な、あそこリピートだな。」
「だね!…………ん?」
何やら聞こえる騒がしい声。
これは。嫌な予感で彼を見るとやはり。
「轟くん、」
「あぁ、行こう。」
走り出す。悲鳴が聞こえる前に、助けを求める声が聞こえる前に。
………………と慌てて現場にたどり着くと既に拘束されて、抵抗して暴れているヴィランと、
対応したであろうデクくんとダイナマイトくん。
そんな彼らを囲うようにしているファンや民間人、報道陣。
「きゃああ!!デクー!こっちむいてー!!」
「ダイナマイトー!!かっこいい!!きゃああ!!」
「…………良かった、既に拘束済みだった。」
「みたいだね……解決済みで安心したよ。」
「だな。それにしても苗字反応速かったな。」
「……一応看護教諭なので、生徒の声には敏感でないといけないから。」
そう言ってへらりと笑えば、なるほど。と頷いた彼。
「じゃあ帰ろうか。」
「そうだな。」
あの二人がいるなら大丈夫だろう、そう踏んで踵を返そうとした時。
視界の端で何かが、
振り返る前に体を動かす。拘束を抜け出して民間人へ襲いかかったヴィランの片腕を触れ、細胞を壊す。
そしてもう片腕は轟くんによって凍らされ、地に膝を着いたヴィラン。
「と……ショート!!それにヒーロー名も!来てたんだね。」
「あぁ、たまたまな。」
「うん、たまたま見かけて!」
「けっ!!舐めプ野郎、手出してんじゃねぇよ!!」
「辞めてよダイナマイト……ショートくん達が気づいてなかったら、被害出てたかもしれないんだよ?」
「うるっせぇよ!!」
ぎゃーすぎゃーすと騒がしくなってしまった。そしてショートくんがいる事にも気づかれ、辺りは黄色い歓声などで騒然とする。
「ごめん、ショートくん。ちょっと君の個性頼りたいんだけど……。」
「ん、わかった。…………手伝ってくるから、」
「うん、帰ってるね。頑張って!」
そう言って踵を返そうとすると
「…………おい、てめぇはこっちだ。」
「ぅぇっ!?」
「あ!そうなんだ、負傷してしまった民間人の方々がいて、救護班来るまで時間かかりそうだから……。」
「そ、そうなんだ……それなら任せて!」
「ありがとう!」
◇
「少し傷見ますね?痛かったら言ってください。」
凛々しい表情で被害者と接する苗字。
「え、やばー!生で初めて見た!」
「やっぱ綺麗だよなぁ…………テレビで見るよりずっと綺麗だ。」
周囲にいる民間人の声が聞こえて、褒められるのは良い事だが、好奇の目に晒されるのはおかしいだろう。と彼女達の前に被さるようにして立った。
「…………うん、塞がった。」
「流石だね、ヒーロー名!」
「いえいえ、これぐらいで良ければお易い御用だよ。」
それじゃあ、と俺にもアイコンタクトを取り現場から去ろうとする苗字。
しかし好奇の目は変わらず苗字を捉えていて。俺は咄嗟に被っていた帽子を被せた。
「わっ!?」
「被ってろ、注目されてるから。」
「ぅお、はい、……あ、ありがとう。」
「ん、気をつけて帰れよ。」
「了解!」