私たちの個性

「ご、ごめん!!遅くなった!!」


「……いや、俺も今来たところだ。」


仕事が中々終わらず、轟くんとの約束に遅れてしまった。


「なら良かった……あっつい。」


「冷やすか?」


「いやいや、偉大なプロヒーロー様の個性をこんな事に使っちゃ駄目だよ。」


「お前だってプロヒーローだろ。」


「……そうだった。」


「っふふふ。ほら、行くぞ。」


「うん!」


変装も板に着いた彼の隣に並び立つ。


立派な彼の隣は、少しだけ息苦しい。…………でも、


それなりに胸を張って隣を歩けるぐらいには、それぐらいには、自分自身を誇れているようだ。





「今年も凄かったな、卒業式。」


「卒業式?……………………あぁ、あ、あれか。」


個室に通され、美味しすぎるご飯を口に運んでいると言われた言葉。


「毎年なんでだろうね…………冗談でだったらまだ心痛めなくて済むんだけど。」


彼らは本気なのだ。毎年毎年。


本気で、好きです。と愛を伝えてきてくれる。


でも、私は未だに初恋が忘れられないままで。


「…………それもそうだよな。」


ふふ、と笑った彼の恋人としてじゃなくても良いから、隣にいたいと願っているんだ。


「……轟くんは、彼女出来た?」


「…………………………なんで。」


少しだけむ。とした様子。え、なんで!?


「いや、……今日も生徒たちに聞かれてね。学生時代ショートって彼女いたの?って。適当に流しておいたけど……だいぶ前に聞いた時はいないって言ってたけど、今はどうなのかなって。」


実は胸が張り裂けそうな思いで聞いてるなんて、轟くんは想像もしてないだろうけれど。


「……いねぇよ。苗字は?」


「……私も。婚期逃しそうだなぁ。」


良かった、と安堵しながらなんて事ない顔して同調する。


ちゃんと隠しきれてるかな、この重すぎる片想い。


蓋をしても溢れて溢れて止まらない愛。


彼に、どうか伝わっていませんように。





「美味しかったねぇ……。」


「な、あそこリピートだな。」


「だね!…………ん?」


何やら聞こえる騒がしい声。


これは。嫌な予感で彼を見るとやはり。


「轟くん、」


「あぁ、行こう。」


走り出す。悲鳴が聞こえる前に、助けを求める声が聞こえる前に。


………………と慌てて現場にたどり着くと既に拘束されて、抵抗して暴れているヴィランと、


対応したであろうデクくんとダイナマイトくん。


そんな彼らを囲うようにしているファンや民間人、報道陣。


「きゃああ!!デクー!こっちむいてー!!」


「ダイナマイトー!!かっこいい!!きゃああ!!」


「…………良かった、既に拘束済みだった。」


「みたいだね……解決済みで安心したよ。」


「だな。それにしても苗字反応速かったな。」


「……一応看護教諭なので、生徒の声には敏感でないといけないから。」


そう言ってへらりと笑えば、なるほど。と頷いた彼。


「じゃあ帰ろうか。」


「そうだな。」


あの二人がいるなら大丈夫だろう、そう踏んで踵を返そうとした時。


視界の端で何かが、


振り返る前に体を動かす。拘束を抜け出して民間人へ襲いかかったヴィランの片腕を触れ、細胞を壊す。


そしてもう片腕は轟くんによって凍らされ、地に膝を着いたヴィラン。


「と……ショート!!それにヒーロー名も!来てたんだね。」


「あぁ、たまたまな。」


「うん、たまたま見かけて!」


「けっ!!舐めプ野郎、手出してんじゃねぇよ!!」


「辞めてよダイナマイト……ショートくん達が気づいてなかったら、被害出てたかもしれないんだよ?」


「うるっせぇよ!!」


ぎゃーすぎゃーすと騒がしくなってしまった。そしてショートくんがいる事にも気づかれ、辺りは黄色い歓声などで騒然とする。


「ごめん、ショートくん。ちょっと君の個性頼りたいんだけど……。」


「ん、わかった。…………手伝ってくるから、」


「うん、帰ってるね。頑張って!」


そう言って踵を返そうとすると


「…………おい、てめぇはこっちだ。」


「ぅぇっ!?」


「あ!そうなんだ、負傷してしまった民間人の方々がいて、救護班来るまで時間かかりそうだから……。」


「そ、そうなんだ……それなら任せて!」


「ありがとう!」





「少し傷見ますね?痛かったら言ってください。」


凛々しい表情で被害者と接する苗字。


「え、やばー!生で初めて見た!」


「やっぱ綺麗だよなぁ…………テレビで見るよりずっと綺麗だ。」


周囲にいる民間人の声が聞こえて、褒められるのは良い事だが、好奇の目に晒されるのはおかしいだろう。と彼女達の前に被さるようにして立った。


「…………うん、塞がった。」


「流石だね、ヒーロー名!」


「いえいえ、これぐらいで良ければお易い御用だよ。」


それじゃあ、と俺にもアイコンタクトを取り現場から去ろうとする苗字。


しかし好奇の目は変わらず苗字を捉えていて。俺は咄嗟に被っていた帽子を被せた。


「わっ!?」


「被ってろ、注目されてるから。」


「ぅお、はい、……あ、ありがとう。」


「ん、気をつけて帰れよ。」


「了解!」

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