もしも
「…………っう、」
迫る攻撃を流すだけでも一苦労。でもこの場を離れると轟くんの治癒が進まない。
どうしたら。と頭を悩ませるが、やはりどちらかしか取れないだろう。
私は足に力を込めて、治癒に専念する。
「っつ!!……。」
そして迫る攻撃は、個性を使えないのでただ受けるしか。
でも私がここで粘るより、絶対轟くんを起こした方が良いに決まってる。
何より彼がいるだけで、身動きを止められるしトドメだって刺せる。攻撃力が違うのだ。
急激に襲う疲労感と、攻撃から受けた外傷。それらから視界が霞み、立っているのも……中々辛い…………。
でも、轟くんだけは。彼だけは起こさないと。彼だけが今の希望なのだ。
私は更に力を込めて、治癒を進めた。
◇
「………………?」
目を覚ますと、人影。
腹部に擽ったいような感覚があり、見ると足が。
じゃあこれは、と見上げると
「っ苗字!!」
「…………よかっ…………まにあって…………。」
至る所から血を流した苗字。よろけて倒れるところを起き上がり、抱きとめる。
彼女が視界からいなくなり、改めて周囲を見渡せばヴィランに囲まれている。
しかし怪我を負っているのは苗字だけで。俺や他の怪我人たちは怪我を負っていない。
…………1人で、乗り切ったのか……。
「ごめ…………轟くんしか……治せなくて…………。」
「もう話すな。………………あとは任せろ。」
抱き締め、力無く頷いた苗字を横たえる。
標的が俺に変わり、攻撃してくるヴィラン達ごと俺は周囲を凍てつかせた。
◇
「…………目、覚めたかい。」
聞き慣れた声に顔を向けるとリカバリーガール。
「ここは…………。」
「病院さ、あんた個性使い切ったのと出血多量で倒れたんだよ。…………すぐに私の元へ運んできた奴に感謝するんだね。」
ぼんやりとした記憶。轟くんを治して、轟くんが立ち上がった所までは見届けた。…………なら。
「轟くんは…………。」
「あんたが治した後、前線にあんた抱えたまま戻ってきたよ。そのまま私に預けて、……物凄い勢いで制圧していった。」
「そ、そうなんですか…………やっぱり轟くんを治して正解でした。」
「……まぁ、目が覚めたらあんたが血まみれになってた。なんてのも理由の一つだったかもしれないねぇ。」
「……え?」
「…………怒気に満ちていた。そう感じたよ、私は。」
怒気。…………あの轟くんが感情的になるなんて。
「相当お前がやられたのが気に食わなかったんだろう、……ただそのせいで無理し過ぎて………結局今もベッドの上さ。」
「え!?」
なら彼も怪我して病院にってこと…………
「…………2つ隣の部屋だよ。」
そう言い残してリカバリーガールは出て行った、相変わらず私の思考筒抜けなのだろうか。聞く前に答えられてしまった。
私はベッドの下に用意されてたスリッパを引っ掛け、病室を出た。
◇
静かに横たわった轟くん。色んなところに包帯が巻かれていて、命に別状は無いらしいが未だに目を覚ましていないらしい。
ここへ向かう途中、緑谷くんに作戦時の事を聞いた。まるで怒りに身を任せたように見えたと。
そのお陰で作戦は無事成功したけれど、彼は自分のことを全く顧みずに攻撃していて、心底心配になったと。
そんな話を聞いて、私までぞっとした。
静かに呼吸をしている轟くんを見下ろして、本当に、本当に命ある状態で帰ってきて良かったと思う。
もしも彼がそのままあの場で亡くなっていたら。
「………………っ。」
手足が震え、血の気が引く。
もしも、もしもでも考えたくない。いなくなるなんて。
咄嗟に眠る轟くんの手を握る。暖かい。………………生きてる。
「…………いき、てる。」
そんな分かりきったことでも、その有難みを感じてしまって涙が溢れた。
……どうしよう、轟くん。
私もう、あなたのいない世界で生きていけないみたいだ。
握った手に縋るようにして、ただただ私は彼の呼吸する音を聴き続けた。