はじまり

「…………苗字?」


聞こえた声に顔を上げると、うっすらと瞼を持ち上げこちらを見つめる轟くん。


その動作1つでも、やっぱり生きているんだと実感して更に涙が零れ落ちた。


「…………どうしたんだよ。」


ゆったりと持ち上げられた手が私の頬に寄り添う。


そして緩慢な動きで、私の涙を拭って困ったように彼は笑った。


「と、轟くんが……自分を顧みないような勢いで、戦線に立ったって聞いて、」


もしもその時最悪の事態が起きたら。少なくともその場に居合わせた緑谷くんはそれを想像するような勢いだったと感じた訳で。


「もしも、……轟くんが命を落としてたらって……!」


「…………ごめん。」


「そしたら、本当に本当に怖くなっちゃって…………私、もうだめなの、」


「……だめ?」


「私、轟くんがいない世界で生きていけない……!!もしもって考えるだけでこんなに手が震える……。」


震える自分を抱き締めて、涙が流れるのを止められない。


彼はプロヒーロー、私もプロヒーロー。いつだって死と隣り合わせなのだ。


だからヒーローは死ぬのを怖がってはいけない、そう考えられている。いざとなった時自分の命を最優先にしてしまわないように。


でも、私は。彼には生きることを望んでしまう。


「…………苗字。」


片手が私の後頭部に回り、ゆっくりと引き寄せられ彼の胸に。


とくんとくん、彼が生きてる証が聞こえてまた少し泣いた。


「俺も、同じだ。」


「同じ……?」


「俺もお前が死ぬのなんて、考えたくもねぇ。」


「でも、俺たちはヒーローだ。…………死なねぇとも長生きするとも約束出来ねぇ。」


「………………うん。」


「…………だけど。死ぬ最後の日までお前と一緒にいたい。」


「……え?」


「いつ来るかもわかんねぇけど、出来るなら最期に見るのは苗字の顔が良い。」


それは、それって。


…………考えて、いや、でも。と考えて、でもやっぱり。


「え…………こ、……告白、だったり……?」


不躾かもしれないが、確認しないとやってられない。だって、タイミング的に今するかな!?とか思ってしまったし、勘違いとかだったら今すぐ逃げたい。


「…………プロポーズだ。」


へ。


聞こえた言葉に思わず顔を上げると、とびきり甘く微笑んでこちらを見ている轟くん。


あまりの顔面の強さに何も言えずにいると


「返事は?」


ずい。迫られ悲鳴を上げそうになる。


そんな、こんなことって。今までずっと、私たちは。


長かった日々を想い、そして顔に熱が集まるのも自覚しながら口を開く。


「……よ、よろしくお願いします!」


長い長い片想いが終わり、


並び歩いて生きていく、そんな人生のはじまりはじまり。


fin.

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