トラウマ

「ほら、早くしろ。こんな事している間に人質は苦しんでるぞ。」


先生の言葉と、ぐぅっ。と聞こえた轟くんの呻き声に焦燥感が増す。


「良いか、俺はお前を合格させたくなくてこのテストを受けさせてるんじゃない。」


先程から何度も言われてる。でも、それは、それはやっぱり出来ない。


「出来るのに、やらない、やれない。それを乗り越えさせるテストだ。」


先生は何を知ってる?何を根拠に何を、話して、


「苗字……っ!!」


「と、轟くん……!!」


また強く捕縛布が縛り上げられた彼の体に食いこんで、痛みから呻いている。


早く、早く助けないと。でもどうやって。先生に近づいても近接攻撃されて、なんなら今ここを動いても捕縛布が追いかけて来るんじゃ。


「ほら。轟が苦しんでるぞ、早くしろ。」


そう言いつつ、こちらに手を出してこない先生。


あくまで私が動き出すまで何もしない、そう言っている。


どうして、そんなこと。私はこの力でヒーローになりたいのに、なるって決めたのに。どうして。


求められていることはわかっているのに、頭と体は動かない。


苦しむ轟くんが見えていながら、1歩も動けない私は、私は。





「相澤先生は何を……?」


「…………………………トラウマを、乗り越えさせるテストだよ。」


「トラウマ……?」


リカバリーガールの言葉に首を傾げる。トラウマとは。


「…………あの子はね、養護施設の出身なんだよ。」


「…………え?」


「本当の親に育てられてない、暗い暗い目をしている時に私は出会った。」


出会った、って。雄英に入る前からリカバリーガールと苗字さんは知り合いだったのか……。


「あの子はね、当時今のような個性の使い方を知らなくて。ただただ隠れるようにして生きていた。」


「隠れる?どうして……。」


「…………あの子の父親は、元ヒーロー志望でね。でも個性に恵まれずそれを言い訳に途中でヒーロー科を退学してしまった。」


「しかし、生まれた子供が持っていた個性は自分とも妻とも違う突然変異。その個性の真相を知った父親は、この個性ならきっと最強のヒーローになれる。そう思った。」


「…………最強の。」


どこかで聞いたような、話だ。


親に押し付けられる未来。子供の個性を伸ばすために必死になる。


そんなのは、まるで、まるで。


モニターの中に映る2人のクラスメイトに目を向けた。


「だから、父親は体術から個性の使い道、技など全てを娘に叩き込んだ。怖がっても嫌がっても、体を壊してもどうなっても、叩き込んだ。」


体育祭で聞いた過去と重なる。


「その結果…………壊れちゃったんだよ、あの子は。」


「…………壊れた?」


「そう。…………個性が暴走してね。」


「ぼう、そう……。」


「あの子の個性は細胞操作。それを今は治療として使っているが、当時教えこまれていたのは相手を壊す細胞操作。」


「……父親からのストレスに耐えきれなくなったあの子は、力が暴走して父親の体を壊した。」


「壊す……。」


「個性は衣類の上関係なく発動する。掴みかかってきた父親は腕から細胞を破壊され、炎症を起こし激痛と共に動かなくなる。」


「勿論そんなつもりは無かったあの子は、必死に元に戻そうとした。でも治療としての使い方なんて知らなかった。だから、壊したものを治せなかった。」


「あの子の父親は、治療の末腕に障害が残った。それでも治って良かった、そう駆け寄ったあの子を蹴り飛ばした。」


「近寄るな、化け物。そう言ったそうだよ。」


「…………酷い。」


「そしてあの子は居場所を失い、養護施設へ。自分は人を壊してしまう、触れてはいけない。そんな殻にどんどん隠れて行った時に私は出会ったんだ。」


「養護施設での怪我人を見に行った時だったんだが、あまりに辛そうな顔をしているからつい声をかけてしまってね。それで話を聞けば、凄く良い個性を持っていて驚いた。」


「それなら使いようによっては人を救える。そう教えてあげたら、段々と元気になってね。使い方を教えてください!!って言われたんだ。」


「だから、教本を沢山与えて、私の経験と共に訓練を始めた。養護施設に行った時は必ず訓練を見るようにした。…………その努力の賜物が、今の力だ。」


「そんな事が…………。」


「…………でも、今イレイザーが求めているのは人を壊す方の力だ。」


あの子は死んでも使いたくないだろうね。そう悲しそうに呟いたリカバリーガール。


それを相澤先生もわかっていて、轟くんと言う人質を使った。実際に痛めつけて判断させようとしてる。


でも、苗字さんは。…………また壊してしまうかもしれない、そんな恐怖と隣り合わせなのだろう。


自分なら。そう考えても見たが、そんな過去過ごしてきていない自分では到底わからない。


彼女がこれからどんな判断をしても、僕は。…………過去を聞いてしまった僕は、肯定する他無いだろう。

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