私だって、ヒーローに。
「ごめんね、ごめんねっ……!!」
先生の治療を終えてから、すぐに俺の元へ来た苗字。
私がグズグズしなければ、もっと早く動けていれば、と言葉を零しながら震える手で俺の体を触る。
つい先程先生を負かしたその時は凛々しく冷えきった瞳をしていたのに、今やもうその表情は恐怖に歪んでいて、ついには泣き出してしまった。
「大丈夫、俺はちゃんと苗字に救けられたよ。」
「でも、こんなになるまで、……私、」
「……勇気出して戦ってくれたんだろ。先生とのやり取り聞いてたらわかった、………ありがとな。」
「で、でも……すぐに動けなくて、……轟くん沢山痛い思いを、」
ぽろぽろ涙を零しながら俺の傷を癒していく。
その表情がなんとも健気で、どうしたら安心してくれるのかわからなくなる。
「こんなの大した事ねぇよ。……それにしてもあんなに戦えるなんて知らなかったからな、もっとお前の事を知りたくなった。」
だから、これから教えてくれよ。そう言って安心させようと笑いかけたが、むしろ泣かせてしまった。なんでだ。
◇
ボロボロと先生の前で泣き、轟くんの前で泣き、それをクラスの皆に見られてもう恥ずかしさの極み。
しかもその上でなんで戦えたこと黙ってたんだよー!と色んな人に言われて、申し訳なさの極み。
その結果、放課後。
「…………いい加減帰りな、いつまでいる気だい。」
「……精神が落ち着くまで。」
「馬鹿言ってんじゃないよ。ここはあんたの寝床じゃないんだ。」
そう言ってリカバリーガールに布団から引っ張り出される。
「良かったじゃないか。」
「……何がですか?」
「ちゃんと、制御して個性使えたろ。」
制御。確かに、それはそうだ。
相澤先生の腕を動かせなくする程度、と言うのが実践出来た。日頃治療に使っていた繊細なコントロールが活きたのだろう。
「それならあんたも戦える。戦って治す事も出来る。かなり有望なヒーローの卵じゃないか。」
「…………でも、私。この使い方はもうしたくないです。」
相澤先生の苦痛に歪む顔。それが、あの日の父親を思い出させて、今でも胸にじくじくと嫌な痛みを残している。
「……化け物、らしいので。」
「………………そんな昔に言われた言葉より、今日言われた言葉を大事にしな。それが今のあんたを示す言葉なんだから。」
今日、言われた言葉。
大丈夫、俺はちゃんと苗字に救けられたよ。
「………………。」
「化け物なんかじゃない。あんたは、ヒーローになるんだからね。」
「勝つのも大切なことだ。だけど、そこまでしなくて良い。攻撃するのを軸にしなくて良い。」
「守る力にするんだよ、人を守って人を救ける力。」
「守る……?」
「そうだよ。」
優しくグローブをつけた私の手を握るリカバリーガール。
「その力でヴィランから人々を守り、その力で傷を癒して救けるんだ。」
それなら、怖くないだろう?そう言って微笑む。
………………それなら。
「……はい、怖くない。」
「なら、これからはどちらの使い方も訓練あるのみだ。イレイザーや他の連中にたっぷり扱いてもらいな!」
「……はい!」
「わかったならさっさと帰りな、私も暇じゃ無いんだよ。」
そう言うとぺっ、と保健室から放り出される。あ、扱い……。
でも心は凄くスッキリした。うん。なんか、大丈夫な気がする。
よし、帰ろう。
◇
「……あ。」
「……え?……何、してるの?」
少し浮き足立って、なんならスキップでもしそうな勢いで下駄箱へ行くと、轟くんが立っていた。
帰りのHRが終わったのは既に30分以上前。リカバリーガールに放り出されるのも納得するぐらいには経時しているのだが。
「あ…………っと、……待ってた。」
「…………え!?わ、私を?」
「あぁ。……その、勝手に悪ぃ。」
「い、いや全然…………でもなんで?」
目の前にいるイケメンは、少しだけ迷ったように目を泳がせ、そして目を伏せて黙り込む。
入口の扉から夕陽が差していて、元々綺麗なお顔が更に際立って綺麗に見える。
こうして見ると本当にイケメンだよなぁ、轟くん…………透ちゃんがきゃあきゃあ言うのもよくわかる。
「……今日の事、やっぱり心配だったから。」
「っえ?…………あ、そ、そうだよね……ごめんね大泣きしたりして、ほんと。」
その綺麗な顔をぼーっと見ていると、急に彼は顔を上げて視線がかち合う。そして放った言葉は私も心当たりがあり、居心地が悪くなってしまう。
「いや、それは良いんだけど。…………何か聞いてやれることがあるなら、助けてやれることがあるなら助けたかったから。」
だから。と下駄箱に来て私の靴がまだある事を確認して待っていたのだと言う。
や、優しいっ……!!筆記テストでもお世話になったが、本当におおらかで優しい人だ。凄い。
「ふふっ……本当に轟くんは優しいね。」
「……別に、そんなんじゃねぇよ。ただ気になったから。…………どうなんだ?何か助けてやれそうか。」
「うーん……。」
1番もやもやした部分は先程、リカバリーガールに聞いてもらって、納得のいく答えを導き出せた。
だから、彼にわざわざ話を聞いてもらわなくても。と思ったけれど、
「…………私の話、聞いてくれる?」
彼は言った。お前の事を知りたくなった、と。
それはまぁ、突然個性を使って戦い始めたら気になるものは気になるだろう。
だからそれを伝えるのと、こんな葛藤をしていたからあなたを苦しめてしまったのだと言う、言い訳でも並べさせてもらおうか。
「あぁ、勿論。」
「ありがとう!」
優しい轟くんが頷くとわかっていて、私はどう伝えようか、どんな言い訳なら彼も納得するのかな。なんてシミュレーションを始めた。