近況

夏休みも明けて、新学期が始まった。


轟くんのいない、新学期。いやそもそも違う学校だけれども。


日常生活から轟くんはいなくなってしまって、飼っている猫の名前も酷くつまらなそうにしている。面食いめ。


彼からの手紙はまだ来ておらず、なんだかんだ言って忙しいのかな?とか、やっぱりめんどくさくなっちゃったかな?なんて思って、少しだけ楽しみにしていた分少しだけ落ち込んだ。


今日も買い物袋を手に提げて歩く、いつもならもう少ししたら轟くんが帰ってきて、飼っている猫の名前がタイミング良く脱走する。


いつも窓とか扉とか気をつけてるのに、何故かいつも脱走してるんだよなぁ。泥棒になったら捕まえられなさそうなうちのアイドル。


しかしながらそれも暫くないので、轟家の方面へ向かうこともめっきり減った。これはこれでやはり寂しい。


家に着いてポストを開けて、中身を抜き取り家の中へ。


適当に机の上に置いて、冷蔵庫へ食材たちを詰め込んでいく。


よし。先にお風呂にでも入ってしまおうかな。そう思って机の横を通り過ぎる、そして戻る。


明らかに印字では無く手書きの文字が見えたから。


ガサ!と郵便物の中から手書きの文字を見つけて抜き取ると、書いてあったのは我が家の住所と私の名前。裏を返せば、轟焦凍、そう書いてあった。


「と、轟くん……!!」


すっかり諦めていた彼からの手紙。本当に送ってきてくれるなんて……!と少しその場で小躍りをする。


うわああ見たい、見たい、けど、今はやる事沢山あるし…………全部終わらせてからゆっくり読ませて貰おう!


そう考え、自分の部屋へそっと置き、まずは風呂場へと向かった。





ぺりぺり。封を開けていく。


入っていた便箋を抜き取り、開くとそこには


「…………轟くん……字まで綺麗なの……?」


まずはこれだ。これにしか目が行かなかった。


綺麗に並べられた文字達。丁寧に書いてくれたのだろうな、と思う一方。女子力でとりあえず大差をつけて負けたのを痛感した。


散々綺麗な文字を見させて頂いて、頭から読み始める。


『夏休みぶりだけど、元気にしてるか。夏バテしてねぇか、ちゃんと食べてるか?』


…………優しいっ。


うっ!!と泣きそうになる。


『俺は寮に入って、クラスの皆と生活してる。案外楽しい。でも、姉さんたちや苗字と会えねぇのはやっぱり少し寂しい。』


「…………私もだよ、轟くん。」


聞こえるはずもないのに、返事をしてしまう。


『最近ヒーロー免許の仮免試験に落ちた。失敗と未熟さの結果だった、でも補講があるから1からやり直しって訳ではねぇけど、周りは皆受かってるから少し焦ってる。』


………………あの轟くんが……試験に落ちた…………!?


いや、そりゃまぁヒーロー免許の試験だから頭の良さだけでは無いだろうけど、彼の個性は非常に強くて彼自身も体育祭で見た通り、とんでもない人だと思っていたのだが……。


それでも周りは皆受かってるって、とんでもないエリート達と生活してるんだね、轟くん……!?


『学校と家事、両立してくの大変だと思うけど頑張れよ。何か悩みとかあったらいつでも電話してくれ。それとは別にお前の近況も知りたいから、返事待ってる。』


轟焦凍。最後にそう書かれて終わっていた手紙。


轟くん、大変そうだな…………私なんかとは比にならない。


……返事、かぁ。


私は用意しておいたレターセットを取り出して、机に広げて頭を悩ませるところから始めた。