夏休みも明けて、新学期が始まった。
轟くんのいない、新学期。いやそもそも違う学校だけれども。
日常生活から轟くんはいなくなってしまって、飼っている猫の名前も酷くつまらなそうにしている。面食いめ。
彼からの手紙はまだ来ておらず、なんだかんだ言って忙しいのかな?とか、やっぱりめんどくさくなっちゃったかな?なんて思って、少しだけ楽しみにしていた分少しだけ落ち込んだ。
今日も買い物袋を手に提げて歩く、いつもならもう少ししたら轟くんが帰ってきて、飼っている猫の名前がタイミング良く脱走する。
いつも窓とか扉とか気をつけてるのに、何故かいつも脱走してるんだよなぁ。泥棒になったら捕まえられなさそうなうちのアイドル。
しかしながらそれも暫くないので、轟家の方面へ向かうこともめっきり減った。これはこれでやはり寂しい。
家に着いてポストを開けて、中身を抜き取り家の中へ。
適当に机の上に置いて、冷蔵庫へ食材たちを詰め込んでいく。
よし。先にお風呂にでも入ってしまおうかな。そう思って机の横を通り過ぎる、そして戻る。
明らかに印字では無く手書きの文字が見えたから。
ガサ!と郵便物の中から手書きの文字を見つけて抜き取ると、書いてあったのは我が家の住所と私の名前。裏を返せば、轟焦凍、そう書いてあった。
「と、轟くん……!!」
すっかり諦めていた彼からの手紙。本当に送ってきてくれるなんて……!と少しその場で小躍りをする。
うわああ見たい、見たい、けど、今はやる事沢山あるし…………全部終わらせてからゆっくり読ませて貰おう!
そう考え、自分の部屋へそっと置き、まずは風呂場へと向かった。
◇
ぺりぺり。封を開けていく。
入っていた便箋を抜き取り、開くとそこには
「…………轟くん……字まで綺麗なの……?」
まずはこれだ。これにしか目が行かなかった。
綺麗に並べられた文字達。丁寧に書いてくれたのだろうな、と思う一方。女子力でとりあえず大差をつけて負けたのを痛感した。
散々綺麗な文字を見させて頂いて、頭から読み始める。
『夏休みぶりだけど、元気にしてるか。夏バテしてねぇか、ちゃんと食べてるか?』
…………優しいっ。
うっ!!と泣きそうになる。
『俺は寮に入って、クラスの皆と生活してる。案外楽しい。でも、姉さんたちや苗字と会えねぇのはやっぱり少し寂しい。』
「…………私もだよ、轟くん。」
聞こえるはずもないのに、返事をしてしまう。
『最近ヒーロー免許の仮免試験に落ちた。失敗と未熟さの結果だった、でも補講があるから1からやり直しって訳ではねぇけど、周りは皆受かってるから少し焦ってる。』
………………あの轟くんが……試験に落ちた…………!?
いや、そりゃまぁヒーロー免許の試験だから頭の良さだけでは無いだろうけど、彼の個性は非常に強くて彼自身も体育祭で見た通り、とんでもない人だと思っていたのだが……。
それでも周りは皆受かってるって、とんでもないエリート達と生活してるんだね、轟くん……!?
『学校と家事、両立してくの大変だと思うけど頑張れよ。何か悩みとかあったらいつでも電話してくれ。それとは別にお前の近況も知りたいから、返事待ってる。』
轟焦凍。最後にそう書かれて終わっていた手紙。
轟くん、大変そうだな…………私なんかとは比にならない。
……返事、かぁ。
私は用意しておいたレターセットを取り出して、机に広げて頭を悩ませるところから始めた。