「はいこれ!名前持ってね!!」


「ちょ!!もう無理!!私ゴリラじゃないんだから!!」


私ももう持てないんだもん!!そう言ってダンボールやら緩衝材やらビニール袋やらなんやら手に下げている友達に、私はまたひとつ今度はペンキを持たされた。


「おっっも…………。」


「大丈夫、皆同じ気持ちだよ。」


「いや絶対ペンキが1番重いじゃん。」


「気のせい気のせい。」


嘘こけ!!と叫びたくなるが、皆確かに荷物の量はえぐい。中には既に顔が見えなくなってる人もいる。


季節は巡り、秋になり文化祭の準備期間へとなっていた。


うちのクラスはお化け屋敷をやる事となり、会場作りに必要なダンボールや、看板作りに必要なペンキなど。係に別れて買い出しに来ていた。


それにしても……


「ね、ねぇ、男子はどこ行ったの!?」


「いやほんとそれな!!!」


「荷物持ちで来てもらったのに、消えとるがな!!」


「私たちのことゴリラだと思ってんじゃね?」


「ゴリラとかふざけんなよー、ゴリラなのは名前だけだっつの。」


「は???」


ゴリラじゃないよ、日々の食料調達によって鍛えられた女子力(物理)って言ってくれないかな?


無礼極まりない友人たちに青筋を浮かべていると、友人たちの視線がある方向を向いてることに気づく。


「え?どうしたの……って。」


「え!?待って!?あそこにいるのって……。」


「轟くんだよね!?やば!!」


な、………………………………えぇ!!?


見間違えるはずのない赤と白の頭。それを見つめて固まってしまう。


な。なんで。寮に入って中々外に出られないんじゃ……。


「ね、話しかけてみない?」


「いいね!!なんなら写真も一緒に撮ってもらう!?」


「い、いや!!辞めとこうよ!!」


「え?なんで?珍しくノリ悪いじゃん名前。」


いいいや、ち、違くてだな、その、


友人たちには私と轟くんが知り合いだということ、そしてなんなら手紙のやり取りをしてる事なんて話してない。


なのにここで話しかけて、お、苗字。なんて言われてみろ。明日からの学校生活は地獄だ。


「め、迷惑かもじゃん!?ほら向こうだって何かしらの用事があってここに来てるわけだし!」


「確かに……なんか向こうも文化祭っぽくね?」


「ほんとだね、ロープとか見てるし…………じゃあ何探してるんですか?一緒に探しましょうか?で、どうだ!?」


「いいね!!」


いい訳ねぇだろ!!


止まらぬ友人たちに頭を抱えたくなる、どうしよう、こんな時轟くんがイケメンだと言うことを呪いたくなる。女子の視線を集めてしまうほどのイケメン…………。


ちらり、彼のことを盗み見ると、他にも数人雄英の人達と何かを物色しているようで、こちらには一切気がついてない。


…………もう止まる気もしないし、ぱぱっと話しかけてお邪魔にならないよう立ち去るのが無難かなぁ。


そう思い、彼女らに同調しようとした時


本当に僅か、片足1歩分程度、轟くんの隣に立っていた女の子が彼に寄り添った。


とても綺麗な女の子で、スタイルも良くて。轟くんに何かを見せて真剣な表情で話している。


それに対して轟くんが何かを返して、そして、2人で笑った。


……………………息が、詰まる。


…………話しかけられる訳が無い、ここで私が出て行ったら、轟くんの恥だ。


成績優秀、実力も兼ね備えて、あんなに綺麗で、スラリと伸びた手足に豊満なお胸。


………………うっわぁ、…………お似合いだ。


越えられない大きな大きな壁を感じる。


「ほらもう、帰ろ!」


「え!?ちょっと、名前!」


「ちょっと待ってよー!」


友人たちに、轟くんに背を向けて歩き出す。なんでかな、彼の姿を目に入れているのが辛くて。


辛くて辛くて唇を噛み締めていると、手にかかっていた重みが無くなった。





「このロープとかどうかな?」


緑谷の持ってきたロープを皆で見る。


青山を吊るして緑谷が運ぶ、と言う案になったは良いが練習するにもロープが無くて話にならなかった。


なのでとりあえずその場で手の空いていたメンバーで買い出しに。外出許可は先生の送迎有りでならという事で降りた。


「このロープでは…………素材的に人を支えられるほどの強度は無いかもしれませんわ……。」


八百万の言葉に、想像する。


「…………青山が光りながら落ちてきたら壮観だな。」


………………いや、悪いが少し面白いかもしれない。


俺と同じことを考えたのか、八百万も笑いを抑えられず肩を震わせていた。


「そ、それは…………い、いけませんわ……っ!」


「……ふふっ…………危ねぇもんな………ふふっ。」


緑谷に却下されたロープを返して、他のロープを見る。


すると聞こえたのは周囲にいた学生の騒ぐ声。


「ちょっと待ってよー!!」


「ペンキ持ってんのに歩くの速くね!?」


制服を着た女子が大荷物を抱えて歩いている。文化祭のシーズンだもんな、買い出しに来る学生も多いだろう。


そう思い再びロープに視線を戻した瞬間、


「苗字!!」


…………え、


…………聞こえた、何度も呼んだ苗字が。


思わず振り返ると、同じ高校の生徒だろうか。制服を着た男が大荷物の女子に駆け寄っている。


「ペンキ重てぇだろ、てかお前よく持ててたな?ゴリラか?」


「ゴリラじゃないわ!!女子力です。」


「腕っ節強ぇ女子だな……。」


男が荷物を女子から受け取っていくと見えたのは、夏以来顔を見れていなかった苗字だった。


男の言葉に再度怒ったような素振りを見せて、笑い合う。


………………あんな顔して、学校では過ごしてんだな。


それに、あんな乱暴な言葉遣い。俺はされたこともねぇ。


じくり。


痛んだのは心、理由もわかる。わかってて、辛い。


越えられない大きな大きな壁を感じる。


俺は仲睦まじそうに会話する2人から目を背けた。