隠すよ

「ね!?昨日の轟くんのインタビュー見た!?」


「見た見た!!!あの……体育祭1位の……。」


「爆豪くん?」


「そうそう!!あの人も一緒にいたよね!全然喋ってなかったけど!」


轟くんかっこよかったよねー!!なんて色めく友人たち。


確かに昨日公開された、ヴィランを退治、確保までした爆豪くんという人と、轟くんのインタビューはかなりの反響を呼んでいて、


既に動画サイトでの再生回数はとんでもないことになってる、流石。流石だよ轟くん……!


暖房をつけていないと震え上がってしまうような季節になった頃、私と轟くんは変わらず手紙のやり取り、そしてたまーに電話でのやり取りもしていた。


文化祭の買い出しの時、見かけたんだよ、話しかけられなかったんだ。なんて言葉はずっと言えずに言わずに心に隠していたからか、未だに少しだけモヤモヤとしている。


今となってはどうして咄嗟に逃げるなんて事してしまったのかわからない、現に夏以来彼の顔はあの日以外見れていないのだ。なんでも良いから話しておけばよかった、と今は後悔している。


「ね、名前はどう思う?」


「え?何が。」


「轟くん!かっこよくない?」


そう言って見せてきたスマホには、インタビューに答える轟くんの姿が。


かっこいい。そりゃかっこいいさ、でもなんかそれはもう彼の中では常識と言うか。


それよりそのインタビューを見て思ってしまうのは、今も元気そうで何より。なんておばあちゃん的な感想だ、轟くんに言ったらまたその綺麗な顔を崩して笑われそうな。


「名前?」


「え、あ、うん、かっこいいよねー!」


「ね!!雄英の文化祭行けたら良かったのになぁ、来年の体育祭は入れるかな?」


「どうだろ、ヴィラン次第じゃね?」


「それなー!」





マフラーに顔を埋めて、白い息を吐く。


今日も女子力(物理)を磨きながら買い物袋を提げて家に帰る。


…………轟くん、いよいよアイドルみたいになってきたなぁ。


友人たちのような、本当に縁もゆかりも無い人からも名前と顔を覚えられ、かっこいい!と黄色い歓声を上げさせている。アイドルじゃん。


……………………なんか、ちょっと、遠いかも。


前まではほんの少し歩いて、茂みから顔を出せばすぐに会えたのに。


全然会えないし、声もあんまり聞けてない。


綺麗な文字で綴られた手紙は届くけど、彼の笑顔や笑い声はどこか遠くへ行ってしまったかのように感じる。


その内手紙も電話も、会うことも。全部出来なくなるのかな。


本当に皆が憧れる手の届かない存在になって、皆の轟くんになっちゃうのかな。


……………………それは、なんだろ。なんと言うか。


…………嫌、かもしれない。なぁ。


家に着き、ポストを開けると轟くんからのお手紙。


轟焦凍。そう手書きで書かれた文字を見て、気づけば私は家に駆け込みスマホをタップしていた。


………………って私、なに、


数回コール音が鳴ったところで正気に戻り、切ろうとした時


『……もしもし?』


「……あっ。」


『あっ、ってなんだよ。』


しまった、勢いで轟くんに電話してしまった。


しかも今なんて私が学校から帰ってきたばかりの時間、轟くんまだ寮にも戻ってきてないんじゃ、


「ご、ごめん、なんかその、勢いでかけちゃって、」


『いや、大丈夫。……ちょっと待ってろ、もうすぐHR始まるから。』


え、と思うとガサガサ。と音が鳴って静かになる。


小さく、とても小さくて言葉は聞き取れないが、恐らく先生らしき人の声が聞こえる。


え、ちょ、轟くん今通話繋ぎっぱなしでポケットとかに突っ込んだって事……?


全然切ってくれて良かったのに、なんなら間違い電話レベルなのに。なんて頭では思っていても、切らずに話を聞いてくれようとしている姿勢に、心がふんわり暖かくなった。


たったそれだけで、さっきまでの嫌な気持ちはすっとんで。


…………あぁ、やっぱり。やっぱりな、こんなに誰かのことで一喜一憂するなんて初めてで。


きっとこれは、もしかして。そんな気持ちで気づいてしまった。


……ごめんね轟くん、私友達なのに。


邪な気持ちを抱えてごめん、轟くん。


それでもあなたを好きになるのは仕方の無い事だったと思う、それだけ轟くんはかっこよくて優しくて、大事にしたいと思わせてくれる人だから。


……………それでも、ちゃんと友達続けるから許してね。


ちゃんと友達として接して、ちゃんと隠すよ、


未だにHRの続いている電話の先。それがわかってて喉を震わせる。


「…………好きだよ、轟くん。」


ちゃんと隠すよ、この恋心。