体育祭

※平和な、世界線です。











「うっわ……すっごい人!!はぐれないようにしなきゃ!!」


「そうですね!!こんなに人が集まるとは……。」


とは言え、観覧席のチケットを轟くんの家族枠として貰えてなければ、ここへ来られなかった。


なんと言っても雄英高校の体育祭。毎年テレビで見てた場所に、今年はやって来てしまった。しかも好きな人の家族枠。複雑な心境なり。


「わ!結構良い席だね!……焦凍の事、沢山応援してあげようね!」


「はい!!」


見晴らしの良い、遠くも近くもない本当に良い席でついついにやけてしまう。こんな良い席で轟くんの勇姿が見れるなんて、ご褒美過ぎるな?





暫くすると聞こえたのは、司会であるプレゼントマイクの声。


わ……!いつもテレビ越しで聞いてたけど、生で聞けるなんて!!


轟くんはA組だからたぶん最初に……


『今年もやっっぱコイツらに注目だろ??2年A組ー!!!』


「あ!!名前ちゃん!焦凍出てきた!!」


「え、どこ………………あ!!」


冬美さんの指さす方向を見ると、体操服に身を包んだ轟くんが。


「焦凍ー!!!!」


「轟くーん!!がんば」


冬美さんと声を張り上げて盛り上げるが、


「轟くん!!がんばれぇー!!!!」


「きゃー!!かっこいー!!!」


「こっち向いてー!!!」


……………………????


「え…………焦凍ったらもうファンついてるの……?」


「…………みたいですね……。」


まだ高校2年生だよ……?既にアイドルの道を歩み始めてる……?


それにあのお姉さんたちはどこから観覧席チケットをゲットしたのだろうか。執念か、執念なのか。


「あ!!ね、こ、こっち見てない!?」


「きゃー!!轟くーん!!」


え!?まさかのファンサービス!?そう思って轟くんの方を見ると、ガッツリと目が合う。


…………お?


「あ!焦凍気づいたね!焦凍ー!がんばれー!」


冬美さんが手を振ると、こちらに手を振り返す轟くん。すると奇声を上げるお姉さんたち。なんと言う連鎖。


「ほら!名前ちゃんも!」


「……轟くん!!頑張れええ!!」


そう叫ぶと、こくり。ひとつ頷きが返ってきた。ちょっとだけきゅん。と胸を高鳴らせたが、またも聞こえたお姉さんたちの奇声に色々と消えた。





「え?どれ??ちょ、轟、どこの子??」


「今あの辺に手振ってたよね??って事はあの辺って事だよね?」


「おいイケメンコラァ…………彼女にかまけて、舐めたプレイしとったら俺も舐めプって呼ぶぞコラァ…………。」


歩みを止めない轟くんに、質問を辞めない上鳴くんと芦戸さんともう何を言ってるのかわからない峰田くん。


お互いに答える気が無いのと答えさせたいのゴリ押し大会になってる。………… 競技前に何をやってるんだろう。


でも、皆が気になる気持ちもわかる。彼ら以外のクラスメイトも、クラスのイケメンである轟くんが好きな子なんて、気にならないわけが無い。


…………とは言え、


「なぁ、轟?どんな見た目?清楚系?お嬢系?」


「いや、案外ギャルかもよ?ほら、轟が優等生感微妙にあるじゃん!!」


「………………………………。」


無言を貫く轟くんを見て、申し訳ないけど面白くなってきてしまう。あの二人もあそこまで言及しなくても……。





雄英ってヒーロー科が有名だからそれしか知らなかったけど、実は色々とあるんだなぁ。まぁどこも偏差値高そうだし私には入れないけどね!!


……と言うか今から競技に参加する人達全員秀才って事じゃん、凄い……。


今更ながらに雄英って凄い…………なんて月並みな感想を携えながら眺めていると、そろそろ第一種目が始まるようで。


今年も審判はミッドナイトらしい、うわ……遠目にだけど生で見れる日が来るとは……!


もはやヒーローとは芸能人のようなものだ。人気なヒーローはテレビにも出るし、握手会やサイン会だって行う。そんな中でも人気のあるヒーロー達が、ここ雄英には集まっているのだと、続々出てくる人気ヒーローに実感させられる。


「今年の第一種目は…………と言うか今年も、これ!!」


《障害物競走》


あれ、また?珍しいな雄英が同じ種目続けるなんて。エンタメ性にも富んでる学校なのに。


「……あれ?また?と思ってる皆さん!!今年は去年とは違うわ!!」


み、見抜かれてる……。


「今年のルールは去年同様、場外にならなければ個性を使っても、何をしてもオッケー!」


「去年同様、様々な障害物があなた達を襲うわ!!」


「…………でもね?去年とは大きく違う特別ルールが存在するわ。」


「………………それは、仲の良い人と終始体のどこかを触れ合っている状態で進むこと!」


……………………??


駄目だ、馬鹿だからわからん。どういう事?


「……つまり、仲の良い人同士で手を繋いだりとか、肩を組んだりして進めって事?」


「…………なるほど!!」


ざっくりとした二人三脚か!!


「重要なポイントは、仲の良い人、という所よ!まずはグラウンドを出る地点で2人の仲の良さを見れる個性を使い、見させてもらうわ!そしてある一定の数値を超えてなければここを通れないわ!」


何その個性!?そ、そんな個性まであるんだ……あんまり使い道無さそう…………カップルとかはすぐ見つけられそう……。


「それ以降は、2人にこのピンバッチをつけるのでピンバッチ同士が離れていないか、コンピューターによって管理している中進んでもらいます!離れた場合は失格よ!」


……………………???


「……つまり、離れたらコンピューターが反応して失格扱いにされるって事?」


な、なるほど…………雄英すげぇ……そんなシステム使うんか……。


「そして最後に大事なポイント!……仲の良い人、と言うのは会場内にいる人なら誰でも良いわ!!観覧席にいる家族でも、クラスメイトでも、なんなら教師を引っ張っていってもアリよ!!」


「家族…………って事は冬美さん連れていくこともアリって事ですね!? 」


「そ、そうなるね…………焦凍がここまで来るとは思えないけど。」


そう言って苦笑いを浮かべる冬美さん。確かに……。


案外観客席からグラウンドは離れてる、その距離を走る時間ロスを考えれば、選手同士で組んだ方がよっぽど速いだろう。


でも、一定以上の仲良し…………なんとも曖昧なハードルだなぁ。


「それじゃあ競技を始めるわよ!!」


ざわめく選手たち。轟くんはもう紛れてしまって見えなくなってしまった。


が、頑張れ……轟くん……!


「3……2……1………………スタート!!」



ミッドナイトの声に合わせて、選手たちは一斉にその場でペア探しを行い、次々にグラウンドを出るゲートへ向かう。


が、


「ちなみに、仲の良さ数値が一定数足りなかったら、通せないからね!」



再度そう言ったミッドナイト。ゲートの方を見ると、ほとんどのペアに対してコンクリートのような壁が邪魔している。


そして彼らが引き返すとその壁は壊され、次のペアの邪魔をして、…………あれ?あのヒーローなんて言う名前だったっけ……。


とにかく、多くの選手たちがあのゲートを通れずに四苦八苦していた。


そんな中でもいくつかのペアは既に通過出来ていて、轟くんは通れたのかな……と見ていると、こちらに迫る氷壁。


……………………氷壁!?