第1種目 しがみつく

競技が開始し、何組か通過出来たり出来ていなかったりを見て、やはり一定以上仲良くねぇと通れねぇのだと理解する。


それならやはりクラスの誰か…………


「八百万!!」


「轟さん!!」


とりあえず身近にいたクラスメイト、八百万を呼び互いに頷いて手を繋ぎ、ゲートへと向かう。が、


目の前に立ちはだかる巨大な壁。通らせない、そう言われている。


ゴリ押しすれば進めそうだが、ここで時間ロスしている場合じゃない。


「……俺たちじゃ駄目だな。」


「そうですわね…………。」


俺たちは手を離し、別のペアを探す。


八百万…………クラスメイトで駄目なら、日頃つるんでいる緑谷や飯田辺りは……と周囲を見渡すが、既にあいつらの姿は無く、既に通過しているのだと気付かされる。


クソっ…………こんなのクラスメイトの誰と通過出来るかもわかんねぇのに……時間かけてられねぇのに…………。


すると視界に入ったのは、観客席まで行ってペアを組んでいる生徒たち。


やはり選手同士では難しい。家族なら割と確実だろう。


家族。………………いや。


俺は観客席を見上げ、姉さんを見つける。


そしてその隣に視線を寄越し、…………そこに向かって氷壁を作り上げた。





「え、ちょ、な、なんか氷が、」


「これ…………焦凍?」


「苗字!!」


「!!?」


登ってきた氷の壁。そしてその上に乗っていたのは轟くん。


「来てくれ、俺とペア組んでくれ!!」


「!!?!?」


は!?え、ちょ、あんな個性使える競技にわ、私が!?


ぽかん、と口を開けていると聞こえたのは、轟くんのファン達の悲鳴。


あ、も、ちょ、社会的に終わった。だってこれ全国区で放送でしょ?…………学校の皆も見てるんでしょ?


あー………………………………。


「苗字!!頼む!!必ず守るから!!」


そう言ってこちらへ手を差し伸べる轟くん。そんなのもうただの王子様じゃないか、黙っててもかっこいいのに。


私は色々な悲しみを飲み込み、立ち上がる。


そしていくつか階段を降りて彼の元へ。


「わ、私本当に足でまといだよ!?」


「わかってる!!」


わかってる!??


「でも来てくれ、怪我ひとつ負わせねぇから。」


「そ、それに私そんなあしはやくな」


「大丈夫だ、苗字は俺が運ぶから。」


は。思考停止していると腕を引かれ、彼の腕の中へ。


そしてそのまま膝裏へと手を回され、いわゆる、いわゆるアレだ。


「おおおお、おひめさまっだだっ、」


「喋るな、舌噛むぞ。」


久々にそのご尊顔を生で見て、それだけで心臓はきゅんきゅんうるさいのに、お姫様抱っこされちゃって。しかもやっぱり轟くんは良い匂いがするし。


これはもう私にとってはご褒美なのでは……?と思ったのも束の間。


次の瞬間には物凄い勢いで轟くんは氷を溶かしながら下降していく。


「ヒッ……ヒイイイ!!」


あれだ、ずっとジェットコースターで感じるふわっ。が続いてる感じ。そして安全バーも緊急停止装置も何も無い。あるのは轟くんの逞しい腕だけ。


「体勢危ねぇから首に手回しとけ。」


「は、…………はい!!」


なんとか地に降りるまで乗り切った私は、今私の命運は轟くんが握ってるのだと思い知らされ、彼に対して畏まってしまう。


彼の胸元をずっと握っていたが、それを離して言われた通り首に手を回す。


今日スカートじゃなくて良かった…………スカートだったら絶対今のでパンツ見えてたよ……全国区でパンツだよ…………危ないとこだった……。


なんて、轟くんが地面を滑りながら物凄い速さで障害物を乗り越えながら進んでいくのを、ドライアイになりながら堪える。


「だ、大丈夫?重くない?」


いや重いに決まってんだろ。そう瞬時に思ったが、轟くんが若干息を切らしているのを見ると聞かずにはいられなかった。やはり頑張って走った方が……。


「いや、苗字は軽い。…………少し急いでてな、トップとかなり差つけられちまったから、…………それで疲れただけだ、気にするな。」


そう言いながらも何組も抜かしていく轟くん。


周りを見ると、割と観客席から連れて来られた人も多くて、生徒がお母さんやおばあちゃんをおぶっていたり、彼女らしき女の子と手を繋いで走っていたりしている。


勿論生徒同士のペアもいるが、女子はともかく男子同士で手を繋いで走っているのを見るのは中々…………中々な絵面である。


「……………………見えた。」


「え?」


彼の視線を追えば、何やら物凄い勢いで走っている人物とその人に背負われた緑の髪の人が見える。


「あの人がトップ?」


「あぁ…………一気に抜かす、……っ!?」


どうしたんだ、と思っていると突然大きく軌道が逸れて、先程までいた場所から爆発音。


…………爆発音!?


「見つけたぞ舐めプ!!」


「おいやめろって爆豪!!轟女の子抱えてるだろうが!!」


「うっせぇ、恨むんなら舐めプに手を貸した自分を恨むんだな!!」


あ、……この人は、このヒーローとは思えない発言をしているこの人は、インタビューで見た……!!


「あ、あの人、ば、爆豪さん!?」


「……知ってんのか。」


「インタビュー見た!!」


「………………………………インタビューだぁ??」


「あ!!ちょ!!爆豪にあのインタビューは墓穴……っ。」


「……お前ら諸共消してやらぁああ!!!」


そう叫んだ爆豪さんはこちらに向けて爆破を繰り返す。く、狂ってる……!!


それに巻き込まれているあの良心的な人が、とても可哀想。なんとか離れないように腕を掴んでいるが、爆豪さんが大暴れしているのでとても可哀想。


「死ねぇぇえええええ!!!!」


それはヒーローとしてどうなんですか……!?と迫る爆発に青ざめていると消えた爆豪さん。…………え?


『今年の障害物競走は昨年と違って、至る所に開けてある落とし穴よ!!中々な深さあるから出るのは大変!それにパートナーと体の1部を触れていないといけないから、それもネックになるわ!!』


お、落とし穴…………。


「と、轟くん気づいてたの……?」


「ん、あぁ。爆豪走ってくるから落ちそうだなと……まさか本当に気づかず落ちるとは……。」


「てめえええ!!舐めプ!!!っざけんな!!」


「おい爆豪!!キレてる場合じゃねぇって!!早くここから出ねぇと!!」


「………………行くぞ。」


穴の中でも暴れ倒している爆豪さんを無視すると決めた轟くんは、颯爽と落とし穴を避けながら、氷で凍らせながら突き進む。


すると見えてきたトップらしき背中。


「飯田くん!!轟くん追いついてきた!!」


「やはり来るのは轟くんか…………しかしレシプロは最初に使ってしまった、この速さで逃げ切るしか……。」


「……僕が妨害するよ!!」


ようやく顔が認識出来るほどに近づいたトップの2人。その背中に乗ってる人がこちらを手を向けてくる。


え、あれどうやって背中に乗ってんの。…………背中を反らせて乗ってんの!?背筋どうなってんの……!?


ヒーロー科、当たり前のように当たり前じゃないことしてくる、凄い……。


すると背筋が凄い彼が手からなんか空気みたいなのを出してくる、それを轟くんは避けて、足元へ氷を敷き詰める。


それを背筋の人が空気砲でなんとか走っている人の足が固まらないよう、氷を砕きながら逃げ続ける。


「……………………賢い……。」


瞬時に氷漬けにされる事が1番厄介だと判断して、失格にならない程度に体を動かし、こちらの妨害と防御をして来る。


す、凄いな…………彼はきっと雄英の中でも優等生なのだろうな……。


「あぁ、緑谷だからな。あいつの頭の回転は早過ぎる。」


轟くんも認めるほどか!!凄いな、緑谷さん。


「だが、…………それでも負けてられねぇ。」


轟くんは一際大きく氷壁を繰り出すと、


「しがみついてろよ、」


そう言って左手を私から離して、私は不安定になり思わず彼の首にしがみつく。


そして轟くんは氷壁に対して炎を放ち、


「ぎゃっ……!!」


爆発音と煙に包まれて何も見えない中、轟くんの走る音だけが聞こえる。


「大丈夫か?」


「な、なんとか……。」


再び轟くんの左手が支えてくれて、そのまま走り続けていると、


「………………え!?」


気づけばグラウンドに戻ってきていて、プレゼントマイクが轟くんの名前を大きく呼んでいた。


「……悪かった、巻き込んで。」


ゆっくり私を地面に降ろし、少し申し訳なさそうな顔をしている轟くん。


「い、いやいや!!とんでもない、私なんかで力になれたのなら全然。」


それに、なんだか少し面白かった。


「……怖くなかったか?」


「…………ちょっとだけ!!でも、これが轟くんの見る世界かぁ。と少しだけ感じられたよ。」


「………………え?」


「ライバルがいて、炎や氷を使って凌いで、爆風を感じて、相手をどう負かすか考えて…………私の世界には無いものばかりだから。」


とても新鮮で、楽しかった。


「むしろありがとう!また少し轟くんの事を知れた気がする。」


そう言うと、轟くんは目を丸くして、そしてゆっくり微笑んだ。


「ありがとう、お前を選んで良かった。」


「…………え!?そ、そんな、大袈裟だよ…………えっと、1位おめでとう!」


当たり前だが轟くんはイケメンだった、やばい、そんな優しく微笑まれたら心臓が、うぐっ。


顔に熱が集まるのを感じながら彼を賞賛すれば、ありがとう。とまたも笑った。


「そ、それじゃあ私は観客席に、」


「あぁ、ありがとな。」


「あ!!ちょっと待って!轟くんのペアの子!!」


観客席へと向かおうとすると呼び止められて、振り返る。するとそこにはミッドナイト。


………………………… うお、お、おっぱ


「ペアの子も次の競技に関係するからちょっと待っててね!」


「…………え?」


ミッドナイトのわがままボディに見入っていると言われた謎の言葉。


「まだ私必要なの……?」


「みてぇだな。」


「轟くんも第2種目は知らないの?」


「知らねぇ。第1種目もさっき知ったとこだしな。」


………………一体次は何を……。


そして暫く轟くんとのんびりしながら過ごしていると、上位40名がゴールしたらしく、次の競技に移ることとなった。


「次の競技は……これ!!」


《竹取合戦》


え?竹取……?


「…………なんだそれ、知ってるか苗字。」


「え、あ、うん。うちの学校では女子しかやらない競技だけど…………竹が地面に寝かせておいてあって、その竹にポイントを示すテープが貼ってあるんだ。その竹を引きずってでも自分の陣地に引き入れて、多くの点を取ったチームの勝ち……ってやつ。」


…………合ってるかな。


「へぇ…………知らねぇな。」


「でもなんで竹取なんだろ……。」


「競技名は竹取合戦!!…………とは言え、うちは雄英よ?その名の通りやるなんて面白くないわ!!」


そうミッドナイトが言うと沸き立つ観客。


「今回の種目で言う竹は、……人!!ポイントは、上位から順に多くつけられているわ!!」


「自分のパートナーを連れていかれないよう、守りつつ自分の陣地へ相手を引き込む!!守りと攻め、両方が必要となるわ!!」


……………………え?それ私いても仕方ないんじゃ?本物のお荷物になるのでは。


「ちなみに、パートナーを連れて行かれてしまったとしても大丈夫。相手の陣地へ迎えに行けば脱出可能!!」


「…………でも自分の陣地を空けている間に、自分が連れてきた奴らも脱出されちまうって事か……。」


……………………す、すご。全然言われてる意味がわからなくて首傾げてたけど、轟くんにはわかるようだ。



「基本的に人を取る時は、片足でも片手でも自分の陣地に入れてしまえば獲得したとして判断します!逆に脱出する際は、パートナーが体のどこかを触れること、とします!」


「…………なんか、ケイドロみたいだね。」


「ケイドロ?」


「え!?し、知らない!?」


「種目か?」


「ち、違うよ……遊びの名前!」


「………………俺、あんまりちいせぇ時遊んだり出来なかったから……。」


…………ぼ、墓穴を掘ってしまった!!そうだ、轟くんはあの訓練とやらにずっと時間取られてきたんだった……。


「う、お、こ、今度!やり方教えるからクラスのみんなとやってみたらどうかな!?」


「…………そうだな、また教えてくれ。」


「うん!!」


「パートナーが脱出をさせられるのと同じように、敵陣地に入っている人達を奪うことも可能!その場合もその人のどこかを触れることとします!」


「…………やっぱり、自分の陣地を離れるには身一つでいる以外にはリスクが大きすぎるな。」


………………??


「そして最後に!選手のみの計算で40名の通過者で争うので、全体の人数は40名より多いです!しかしそうなると選手以外の方が取りやすい、そうなってパートナーに少なからず危険が及ぶかもしれません。」


「その場合は、今からパートナーの変更を認めます!ご高齢の方などは出来れば辞めておいた方が良いかもしれません!」


「しかし!!」


「パートナーを変更した場合は、そのパートナーのポイント分は40位のポイントと同じ200ポイントとします。それでも良ければ変更してね!」


……………………???


とりあえず、パートナーの変更は効くって事だよね?それは合ってるよね……?


その後の話はちょっとよくわかんなかったけど、とりあえず誰かと代わって貰いたいかな……?


「……………………苗字、」


「うぉ、は、はい!変更?だよね?」


「…………………………………………悪ぃ。」


「あ、全然良いよ!むしろ危ないし私引っ込んでた方が、」


「このまま出てくれねぇか。」


「……………………お?」


あれ?


ピタリ。動きを止めてしまう。


「…………今俺たちの保有ポイントは8000ポイント。昨年みてぇに大きく差がつけられた訳じゃねぇ。」


ほら、見てくれ。と電光掲示板を指差すので見てみると轟チームと書かれた画面に8000。そしてそこに4000×2と書いてある。


「4000×2。って事は苗字が4000って事だ。」


「…………………………………………え?」


「この状態でお前を離すのは惜しい。それに、2位は7800ポイント。しかも相手は緑谷と飯田だ。この状態で俺が4200ポイントまで下がってスタートするのは中々賢くねぇ。」


「ちょ、ちょっと待って!?いくら轟くんのポイントが減ってしまうのだとしても、誰かちゃんと動ける人と組んでもぎ取りに行った方が良いのでは?」


それに、私いてもちゃっかり相手のポイントにされてるかもだしね……。


「……見たところ、一筋縄で行きそうにない奴らばかりだ。ヒーロー科ばかりだし。…………どちらも危ねぇ橋だが、苗字を抱えて苗字を守りきる方がまだ勝算がある。」


え…………まじ…………?


でも頭の出来の良い轟くんがそう言うんだ、……………………ま、まじかぁ。


「本当にごめん、こんな事になるとは思ってなくて、」


「い、いや全然!!そんな、死ぬわけじゃあるまいし、」


あの爆豪さんの顔を思い浮かべるだけで、ヒュゥと息は止まるけども。


「……絶対守るから、許してくれ。」


………………今日もお顔がかっこいい、そして中身はとっても優しい。


なんとも悲しそうな、情けない顔になってしまっている轟くんに私は笑顔を向ける。


「大丈夫!!轟くんを信じるよ!」


とか言って、ガタガタ震える足は隠しようが無いのだが。