「あ…………。」
春になり、高校生になった。
轟くんとは本当にあの夏の日以来会えなくなってしまって、飼っている猫の名前も脱走してもすぐに戻ってくるようになった。
なんとも寂しそうな顔を見て、自分の顔でも見ているかのような気分になる。
どこか居心地の良かった、話しやすかった轟くん。……もう会えないのかなぁ。
なんて。お母さんに夜ご飯の準備を頼まれてしまったので、スーパーに寄って帰る途中。前方に見えた見間違えるはずのない赤と白の頭。
…………と、
「轟くん!?」
ゆっくりと振り返った彼は、やはり轟くんで。未だ真新しい雄英高校の制服を纏っている。
「わ、ひ、久しぶりだね!」
また会えた喜びから彼に駆け寄る。しかし、
「……。」
彼は私を確認して、そして、何も言わずに去っていった。
「……………………え、?」
無視、された?
手にかかった荷物の重みが、更に重く感じる。
なんで、そんな。
何かしてしまっただろうか、……声を、かけただけなんだけどな……。
今まで仲良くしてくれていた彼の、その行動はこれ以上無く私の心を傷つけて。
「…………っ。」
唇を噛み締めて、俯く。
……これがまだ、彼が私を見ていなかったら、まだマシだったのに。
立ち止まらずに、気づかなかったかのように無視してくれれば良かったのに。
しっかりと立ち止まって、振り返って私をそのオッドアイに映して、そして、無視した。
「…………なんで……かなぁ……。」
久しぶりに会えた喜びを感じたのは私だけで。いつの間にか私は彼の中で疎ましい存在に成り下がっていたようで。
ぽたりぽたり。涙を零しながら、ぐすぐすと鼻を鳴らしながら私は家へと帰った。
◇
「ねぇ名前!!昨日の雄英体育祭見た!?」
「…………あぁ、見た見た!」
雄英、少しだけぎこちなくなりつつも笑顔を浮かべる。
「凄かったよね!!1年生で私達と同い歳なのになんか別の世界の人達みたいで…………特にさ、あの……轟くん?めっちゃかっこよくなかった!?」
「わかる!!めっちゃかっこよかった!!」
「あの氷と炎出すの凄かったよね!!」
周りの言葉に、轟くん。彼に関わる言葉たちにグサグサと心は刺されていく。
世の中的に見ても、かっこよくて実力者で注目を浴びている轟くん。
そんな彼の人生から除外された私。
何がいけなかったのかなんてわからない、今更彼に聞くことだって叶わない。
仕方ない、そう飲み込んで前を向いて歩き出そうとした時に開催された体育祭。
心の奥にしまいこんだ轟くんとの会話や、彼の表情が思い出されて、
「…………えっ名前!?」
「どうしたの!?大丈夫!?」
「…………ひっぐ…………っ。」
なんで、どうして、轟くん。
どうして私を、あなたの中から消し去ったの。
膝の上で握った拳は、爪を食い込ませてじくじくと痛んだ。