片想いも出来ない

「今…………様子おかしかったよね?」


「どうしよう……私何か気分悪くさせるようなこと、」


「いや、そんな事言ったようには思えなかったけど……。」


苗字さんがいなくなった食堂で、僕達は困惑する。


麗日さんは自分の発言を責めてしまっていて、それを皆がフォローしている。


でも、…………でも、傷ついたような、絶望を感じるような。そんな表情を苗字さんは浮かべていた。


なんで、あんな顔…………と思っていると隣からガタン!!とけたたましい音。


思わず隣を見ると、轟くんがご飯を食べ終わり立ち上がっていた。


「ちょっと行ってくる、午後の部までには戻る。」


「え、ちょ、轟くん!?」


午後の部までってあと少ししかない、遅れたら強制的に失格扱いだ。


「それなら私たちが探してくるわ、轟ちゃん次あるでしょ。」


蛙水さんが声を上げる、しかし


「いや、…………大丈夫だ。」


「なら私が!!私のせいで苗字さん嫌な気持ちに……。」


「気にするな、麗日。……嫌な気持ちになったかどうかもわからねぇし。」


「え、でも……。」


「…………あいつは俺達とは全然違う。だから、きっと俺達が想像もつかないことを考えて、それであんな顔をしたんだと思う。…………苗字がどんな気持ちになったかすら、俺達にはわからねぇ。」


そう言った轟くんは、どこか寂しげな表情だった。


「…………行ってくる。」


轟くんは食堂を飛び出して行き、取り残された僕達もゆっくりと会場へ戻り始めた。





息が切れるほど、全力で走って苗字の姿を探す。


話している時、途中から笑い方がおかしかった。


ぎこちなく、そして貼り付けたような笑顔。それが段々と曇っていき、俯いた。


その時、見えた。静かに苗字の頬を伝った涙が。


胸が鷲掴みにされるような感覚、どうしたんだ、と手を掴む前にあいつは逃げ出した。


きっとまた、追いかけて問いただしても言いたくない、言えない。と隠したがるだろうが、それでも。


言えないならそれでも良い、俺には分かってやれないことかもしれねぇから。でも、


1人で抱えて泣くのは辞めて欲しい、そんなの、そんなのは考えるだけで辛くなる。


何も話してくれなくても、隣にいるのは許して欲しい。だから、


周囲に目を向けながら走っていると、校門のすぐ近くで見つけた。


「苗字……、」


もう逃がさないよう、肩に手を置こうとした瞬間


バシンっ


………………え、


俺の手を振り払った音………………では無く、苗字が苗字自身の顔を張り倒した音が響いた。


「…………な、何してるんだ。」


「………………え?……と、轟くん!?な、何してるの、早くしないと午後の部、」


「いや、それよりお前の事だろ。」


「それより!?辞めてよ、私が必死に繋いだ権利なんだからちゃんと使ってよ!!」


そう言って笑った苗字は、目をじんわりと赤くさせており、つい先程まで泣いていたのだとわかってしまう。


それに、先程叩いていた頬。両頬共にじんわりどころじゃなく赤くなっていて、もはや痛々しい。


「……なんで顔叩いたんだ?」


「え…………み、見てたの……?」


「あぁ。」


驚いたようにこちらを見る苗字にひとつ頷く。


「…………元気、出そうと思って。」


へへ、と力無く笑う苗字は目も頬も赤いからか痛々しい。


「………………………………やっぱり、麗日の言葉に何か思ったのか。」





そう言われて、ぎゅ。と胸が詰まる。


何か思ったのか。その言葉自体は責め立てるものでもなんでもないのに、何故だろう、責められるような気持ちになってしまう。


…………そうだよね、きっと轟くんやあの場にいた皆さんは私がなんで、あんな顔とかしてしまったのか、わからないのだろう。


当たり前だ、あんな言葉で動揺するなんて普通有り得ない。


……………………………やっと、やっとわかった。思い知らされた。


「ちょっとだけね、でももう大丈夫!!」


「…………本当か?」


「うん、もう平気!午後の部もやっぱり見ていこうかな!」


そう言って来た道を戻る。


私があのような言葉を贈られて傷つく意味も、全く彼らには伝わらない。


それだけ、それだけ生きてる世界が違うってことだ。


見てる景色も、見据える未来も。何もかも。


大丈夫、大丈夫!もうわかったから、轟くんとの格差は充分にわかったから


「………………なぁ、無理してねぇか。」


「え?全然。大丈夫だよ!」


大丈夫、大丈夫。もうわかったよ、


この恋は、片想いするのも烏滸がましい恋だって。ちゃんとわかったよ。