「あ、轟くん、どうだったー…………って聞くまでもないね……。」


そう僕が声をかけると、静かにこくん、と頷いた轟くん。


「どうしたんだ?轟の奴。」


ひょこ、ソファーに座る僕の横から顔を出した切島くん。


「実は、苗字さんからの手紙が全然返ってこないみたいで。」


「あぁ!あの子の!…………それであんなに気落ちしてんのか。」


しゅーん、そんな効果音が似合ってしまいそうなクラス1のイケメン。


何故だろう、垂れ下がった耳としっぽが見えそうだ。


「連絡しねぇのか?電話とか。」


「それが……相手が忙しかったら嫌だから、って一切してないみたいで……。」


「おぉ…………気使った結果あれか…………でも、何かあったらどうすんだ?」


「何かあったらって?」


「実は事故に巻き込まれて病院にいます、とか。」


「…………は……?」


ゆらり、轟くんが切島くんに近づく。ちょ、ど、瞳孔開いてない!?轟くん!?


「た、例えばだよ!!例えば!!返事が書けない理由って忙しいだけじゃねぇだろ?忙しいだけなら良いけど、…………って轟?」


切島くんの言葉を聞いた轟くんは颯爽と歩き始める。


「…………電話してみる。」


僕があれだけ言っても聞かなかったのに、苗字さんの危機かも。そんな意識ひとつで彼は動いている。


…………轟くんって本当に苗字さんの事好きなんだなぁ。


見た目では分かりづらいが、少し焦っているようにスマホを操作している。


大丈夫かな、轟くん。少しだけ心配になりながらも、なんだかんだ言って優しさで出来てる轟くんだ、上手くいくだろう。そう思って共有スペースを出ていく友人を見守った。





「…………え!?」


「どうした…………って轟くん!?」


「やば!!名前の妄想じゃなかったんだ!!」


「ちょ、今の発言何。」


妄想!?誰の妄想だって!?


友人の失礼な言動にイラつきながらも、3人で机の上で震えるスマホを見つめる。


そこには轟焦凍、そう表示されていて出るべきか出ないべきか悩んでしまう。


「ど、どうするべき……?」


「うーん……。」


来ていたカフェのソファーに埋まり、悩む友人達。


「……私は、出た方が良いと思う。」


「え、なんで?」


「手紙も来ない、電話も出ない。そうなると轟くん心配になっちゃわないかな?」


………………確かに。


優しい彼のことだ、何かあったのでは。と考えてしまうかもしれない。


「確かにね…………よし!出るんだ名前!!」


「りょ、了解!!」


私はスマホをタップして耳に押し当てた。





『……もしもし?』


「……あ、……苗字?」


『うん、どうしたの?』


どうしたの、って。


手紙を送ってこないのは、手紙が来なくて酷く落ち込んでいるのは俺だけか。


その事実に多少なりとも、いやかなり、ショックを受けてしまい言葉が出てこない。


『轟くん?』


「あ………………っと………………手紙。」


『……手紙?』


「……来ないから、何かあったのかと。」


『あ、……ご、ごめんね、それは、』


「……ってのは建前で、」


『え?』


違うんだ、切島に言われて心配になったのも事実だけど、本当は違くて。


「………………なんで、返事くれねぇのか気になって。教えて欲しくて電話した。」


だって、苗字が忙しいから。そんな理由だけでなんの連絡も寄越さないなんておかしい。


きっと手紙が送れなかったら、メールなり電話なりで一言教えてくれるはず。


なのに、なんの連絡も無くて。


…………どこかで感じてしまった。


「……………………俺、何かしちまったか?」


『え、』


「なら、俺の事嫌いになったか?」


『えぇ!?』


俺には、そんな気遣いもう不要だ。そう思われたのだとどこかで感じてしまった。


色々と思い当たる節がないか考えたが、わからなくて。でもただただ苗字が離れていくのを感じてるだけなんて無理だった。


「…………嫌いになったんなら、俺の事が迷惑なら、もう連絡しねぇ。……………………お前の迷惑にだけはなりたくねぇから。」


胸が張り裂けそうな程に痛い。


唇を噛み締めてないと、涙腺が緩みそうで苦しい。


自分がこれ程にまで女々しいとは。今更知って、情けなく思う。


「……今までありがとう、…………じゃあな。」





「…………っ轟くん!!!」


『…………なんだ?』


「…………………………………………すぐ返事書く!!」


『え……?』


「え!?ちょ、名前!?」


「あの決意はどうした!?」


そんなの、そんな決意。彼を傷つけるぐらいなら捨ててやる。


「それに、電話もいっぱいする。出来る時は毎日する。」


『え、苗字?』


きっと轟くんは今、また1人取り残されてしまったかのような、悲しい顔をしていたんだろう。


……また、傷つけてしまった。


轟くんの中での私がそんなに大きな存在だったなんて、知らなかった。分かるはずもなかった。


だから私は何も考えずに行動して、轟くんを悲しませてしまった。


…………ほんと、救いようの無い馬鹿だ。私は。


「轟くんの事嫌いになるわけないじゃん、…………怒るよ。」


『え、…………?……あ、悪ぃ……。』


むしろ怒られるべきは私なのに、何言ってるんだろう。


それがわかっていても、怒りを感じてしまった。距離を置きたくなるぐらい、絶望的に好きなのに。なんであなたの事を嫌いになんてなれるんだ。


「…………いや、ごめん。…………返事が書けなかった理由は、」


理由は、


理由は。


……………………今は、言えないけれど、


「…………いつか必ず伝えるから、……待っててくれる?」


ちゃんと轟くんと、轟くんのことが好きで仕方がないこの気持ちに向き合えたら。逃げ出してしまった私の弱さを見せるから。


『……………………わかった。』


「ありがとう!……ごめんね、心配かけたり悲しませちゃって。」


『いや…………嫌われてなくてほっとした。』


「ふふっ…………ほんとごめん、でも大丈夫だよ。私が轟くんの事嫌いになる日なんてきっと来ないから。」


それほどまでに、末期的に私はあなたの虜なので。


『……だといいけど。悪かった、急に電話しちまって。』


「ううん、……すぐ返事書くから待ってて。」


『わかった。待たせられた分期待して待っとく。』


「え!?そ、それはやめて欲しいな……。」


『ふふっ、……じゃあな。』


「うん、……またね。」


彼の笑い声を聞けたことに安心しながら、耳からスマホを離す。


「ちょっと名前…………いいの?」


「うん、良い。ごめん相談乗ってもらったのに。」


「大丈夫?…………轟くんの事好きで居続けるの辛くない?」


「………………たぶん辛い。けど、」


けど。


「……………………轟くんを傷つけるのに比べれば、全然平気。」


そう言うと、私の固い意思が伝わったのか応援する。と言ってくれた友人達。


轟くんのあの声色、言葉。酷く傷ついて悲しんでボロボロになった状態。


…………自分の存在が彼にとってナイフになるのだと、わかってしまった。


だから、もう二度とあなたに刃を向けないように。


出来ることなら、あなたと寄り添うナイフでありたい。