友達

「久しぶりー!!」


「元気にしとったー??」


「う、うん!!芦戸さんと麗日さんも元気そうで良かった!」


さんさんと日光が降り注ぐ中、雄英の皆さんとプールに行く日がやって来た。


「それにしても、本当に沢山来たんだね……。」


「うん!皆プール行くって言ったら着いてきたよ、あと苗字さんいるって言ったら!」


「そ、そうなんだ……。」


体育祭で見かけた人も、見かけてない人もいて少し落ち着かない。知らない人もいるな……。


そんな中で目に付いたナイスバディーな女の子。


…………あ、あの子…………文化祭の準備で見かけた……。


轟くんと寄り添い、酷くお似合いだと感じた女の子だった。暑さが故に薄着をしていて、露出した肌は白く細く綺麗でなんとも美しい。


……………………比べるもんじゃないって。そういうの辞めようって。


勝手に見て勝手に落ち込みそうになる自分を叱咤する、けれどそう簡単にメンタルのコントロールなんか出来ない。


……あの子を見るのは辞めよう、そう思って麗日さん達の方を見ると、


「じゃあ日頃から苗字さんと仲良くしてるんやねー!」


「そうそう!私達親友なんですよー!それにしても麗日さんテレビで見るより可愛くってびっくりしたー!」


「えぇ!?」


「それに芦戸さんも、スタイル抜群でほんともーびっくり!!」


「えぇ!?そ、そう!?」


なんと言うコミュ力。いや、私がコミュ障とかでは無く。初対面であそこまで馴れ馴れしく話せるものなのか、マジか。


「…………友達、なんかすげぇな。」


「……あ!轟くん。」


「おう、今日誘ってくれてありがとな。」


「いやいや…………来てくれてこちらこそありがとうだよ!こんなにお友達も連れてきてくれて。」


「いや…………話を聞かれて、気づいたらこんな事になってた。」


こんな事って。轟くん、こんな事ってどんな事ですか。


「でもまぁ、楽しめそうだな。なんか放っておいても仲良くなりそうだし。」


「それね…………日頃一緒にいるけど、あんなにコミュ力高いとは思わなかったや……。」


着々と周囲の人々に話しかけて、コミュニティを広げて行く友人たちを見て苦笑いをしてしまう。


「…………でも、悪い人じゃ無さそうだ。」


「……うん、それは勿論。」


いつも一緒にいて本当に楽しくて。はしゃぐ時は一緒にはしゃいで、勉強する時は泣きながら一緒に勉強して。悩んでる時は真剣に相談に乗ってもらって。


「良い、友達。自慢の友達だよ。」


そう言うと、轟くんは優しく笑った。





「わー!!ヤオモモやっぱ凄いねー!!」


芦田さんの声に、思わず振り返ってしまう。


先程自己紹介をし合って知った、綺麗なあの子の名前。八百万さん。


凄い、その言葉で何がとは言わずともわかってしまう。


「そ、そんな事はないですわ……。」


いや、そんな事はあるのですわよ。


それに比べてなんとも慎ましやかな自分の胸元に、はぁ。と溜息をついてしまう。


「落ち込むなって名前!」


「そうそう!轟くんが巨乳好きとは限らないじゃん?」


「そういう問題じゃ無いんだよなぁ。」


いや、そこも大変重要な問題でも…………ってそうじゃない。女としての魅力として、このお胸の小ささは如何なものかって話だ。


それに、皆1人残らずビキニを着ていて。私も一応ビキニを選んだがなんとも見るに堪えないと言うか。皆と比べて見応えがないと言うか。


あまりの虚しさから、日焼け防止で買ったパーカーを上から着込んで、皆と共に更衣室を出た。





「や…………やおよろっぱい…………!」


「峰田サイテー。」


恍惚とした表情を浮かべている峰田くん、私も似たような表情を浮かべてないか心配になる。


必死に目を逸らしているが、目に入ってしまう。否、目に入れてしまう。


引き締まった体、凹凸のある筋肉。


何度も抱き締められ、抱きとめられ、抱き抱えられた体。


それを思い出すだけで、夏の太陽にも負けないほどに熱くなりそうだ。


「苗字?」


「ぅ、あ……ひ、ひゃい!?」


「……どうした?」


気分でも悪いのか?そう心配しながら近づく轟くん。


い、いや!!そうではなくて!!あなたのその!!き、筋肉が!!立派なお体が!!


「げ、元気!!超元気!!泳ぎに行こうかな!?!?」


「お、……そ、そうか。」


「苗字ちゃーん!!一緒に泳ぎに行こー!」


「うん!!それじゃあ行ってくるね!!」


「あぁ。」


芦戸さんの声に救われるようにして、この場を離れる。あんなの直視してられない、近くになんていてられない。


少しだけ恥ずかしいが、泳ぐのには不要なパーカーを脱ぎ捨て私は海へと入った。


「き、きもちー……。」


「海に来たかいあったわー……。」


ほんとに。夏を感じる。友人たちや皆と浮き輪で浮かびながらぼーっとする。


「それにしても轟くん。立派な筋肉だったね?」


「…………うん。直視出来なかった。」


「ありゃー直視出来ないよ、私も見れない。」


「ね、かっこいい上に体も立派なんて凄いわ。」


はー…………轟くんのハイスペックぶりよ。あんだけ見た目が良くって中身も秀才。個性としての実力もあって、将来有望。こんな素晴らしい人いる?


「……ねーねー、苗字ちゃん。」


「うん?」


「苗字ちゃんは、轟の事好きなの?」


「…………うん!?」


「好きだよ、それはもう気持ち悪いぐらいに。」


「ちょっと!?!?」


麗日さんの質問に勝手に答えた友人。ちょっと!?


「やっぱり?…………そっかぁ。」


にこにこ。そう笑った麗日さん。え?


周りを見ると、芦戸さんも八百万さんも梅雨ちゃんも笑ってる。葉隠さんの笑い声も聞こえる。え?


「な、何…………?」


「「「……べっつにー?」」」


う、嘘だ!!何か考えてるだろう。なんだその笑顔は!?


「………………はーん、なるほどね。」


「把握把握。」


「分かっちゃった?」


「分かっちゃった。…………それで、安心した。」


「安心したなら正解!」


???


友人たちと芦戸さんの会話に疑問符が収まらない。何の話だ。


「……私にも分かるように教えて?」


「それは自分で考えないと!」


「えぇ!?」


「ほらほら、せっかく誘った轟くんが来たよ?行っといでよ!」


なんとも納得がいかない。のに、私の乗った浮き輪はぐいーっと押されて流され、


「お。」


「わ、と、轟くん!」


轟くんの元へ。うっ…………やはり刺激的過ぎるなその上半身は。


「…………パーカーは?」


私が彼から視線を逸らすと、彼もまた顔ごと私から逸らした。…………すいません、見るに堪えない水着姿で。


「海に入る時に置いてきた…………貧相な体を晒してすいまさん……。」


「あ、いや、そんなんじゃなくて。…………ど、どこ見れば良いのか、わ、かんねぇ、から。」


え。………………思っていたリアクションじゃなくて彼を見ると、ほんのり顔が赤くなっていてこちらまで熱が移ってしまう。


「ぅ、あ、そ、その、他の男の子達は!?」


「…………皆あっちに。」


轟くんの指さした方角を見ると、先程私が流されてきた方角で。


どうやら私達以外の皆は合流して遊んでいるようだ、なんで私たちだけハブ………………も、もしかして気を使われたとかだったら恥ずかしすぎるんだけど……!?


「み、皆の方行こっか……?」


「……………………あ、いや…………。」





「えっ?」


思わず否定の声を上げた俺に、不思議そうな顔をしている苗字。なんとも目線に困る格好をしているので、ろくに顔すら見られない。


しかしここで皆と合流してしまうと、あいつらの気遣いが無駄となってしまう。


先程の会話を思い出しながら、俺はしどろもどろになりながらも苗字を引き止めた。


「轟って苗字さんの事好きなんだよな?」


「………………あぁ。」


「……じゃあさ!!2人っきりにしてやろうぜ!!」


上鳴の提案に皆は頷いた、だが俺は頷けない。


「皆で遊びに来たんだ、そんな事しなくて、」


「いいや、あるチャンスはもぎ取った方が良いと思うぞ轟。」


いつになく真剣な表情を浮かべている峰田。お前、そんなに俺の事応援してくれてたのか…………。


「だから、他の女子たちの相手は俺たちに任せておけ!!」


な!!と背中を叩く峰田。それをなんとも言えない表情で見つめている緑谷と飯田が少しばかり気になったが、その気遣いを無駄にする訳にも行かない。そう思った俺は峰田に頷いた。


――と言うのが先程の会話で。話の通り苗字以外の女子の元へは俺以外の皆が合流していた。


「あー…………もしかして轟くん人多いの苦手?」


「え、……いや。そんなことねぇけど。」


「あれ、違ったか…………そ、それにしても轟くん友達多いね!プール行くってだけであんな人数来てくれるなんて。」


「誘った訳では無かったけど、話聞いたヤツらが皆来たがって。」


そうなんだぁ、と言ってにこにこと皆を見ている苗字。


「…………なんで、誘ってくれたんだ?」


「え?」


少し気になっていたことだった。今までこうして会う機会は無かったから。


「なんで………………えっと…………なんでだろ。友達に言われたからって言うのもあったけど…………。」


うーん、と考えている苗字。あんまり深い意味は無かったのか、その事実に少しばかり気分が落ち込む。


「…………あ、でも。轟くんに遊ぼうって誘われたら私なら嬉しいなぁって思ったから。って言うのはある!」


ぱっ!と笑ってそう言った苗字に、俺は目を瞬かせてしまう。


……………………裏表の無い好意。ほんと、友達って言うのは厄介だな。


「……そっか。俺も嬉しかった。」


「ほんと?なら良かった!」


友達、今日も俺は友達だ。


そう考えると案外楽で、苦しいけど楽で。せっかく来たのだから楽しまなきゃ損だと思い、苗字と友達として思い出を作った。