見せたくない

「え?い、行っちゃダメなの?」


『………………あぁ、悪ぃ。』


何故。納得がいかない。


季節は巡り、肌寒い季節がやってきた。


そして今年は友人たちとも雄英の文化祭へ行こう!と話していて、それを轟くんに日程等聞こうとしたところ、何故か来ないで欲しいと言われてしまった。


「え、えぇ…………ど、どうしても?」


『…………………………悪ぃ。』


だから何故。理由を頑なに話してくれない轟くん。


「…………………………わかった。」


『ほんとか、……ありがとう苗字。』


うん、わかったのは轟くんからは何も聞けないという事だ。


全然!と言って切った通話。私は次に芦戸さんへと電話した。


『もしもし?苗字ちゃん?どうしたの?』


「あ、芦戸さん?あのね、少し聞きたいことがあって……。」


彼女に事の内容を話すと、吹き出すように笑った。


『あはははは!!そりゃ…………そりゃ轟は来て欲しくないよなぁ……あはは!!』


「えぇ!?な、なんで、」


『実はね、今年のうちの出し物、』


言われた言葉に唖然としてしまった。


………………ごめん、轟くん。そんなの……そんな面白そうな…………


…………行かない訳にはいかないや……!!


轟くんには大変申し訳無いが、私はルンルン気分で友人たちに内容を話して、なんならスキップでもする勢いで雄英の文化祭へとやって来た。





「きゃああ!!轟くん美人!!」


「こっち向いてー!!」


………………………………消えてぇ。


笑顔なんて浮かべられる訳もなく、眉間にはしっかりシワを刻んでいるであろう。現に俺を見た緑谷はヒョエッなんて鳴き声を上げた。


「だ、大丈夫?轟くん……?」


「大丈夫に見えるか?」


「み、見えない……。」


なんでこんな事に。昨年は飲食は辞めようと言う話だったじゃねぇか。


それが何がどうなって。…………昨年案外飲食の出し物が多かった、それがいけなかった。そしてそれらが案外客入りが良かったのもいけなかった。


その結果これだ。話題性を重視したこれだ。


初めて履くスカートの落ち着かなさ。そしてカツラを被せられ、フリフリとしたメイド服を着せられる。


はぁ……と溜息が止まらない。こんな事で注目されても。チラリと教室の外からこちらに視線を送ってくる生徒たちに嫌気がさす。


俺も爆豪のように暴れてやろうか。と視界の端で同じようにメイド服とカツラを被せられ怒り狂っている爆豪を見て思うが、俺達が本気で暴れたら反省文どころじゃ済まなくなる。


「まぁ今日1日だけだから……が、頑張ろう!!」


「そうだ!!うちのクラスの出し物を盛り上げるために尽力しようでは無いか!!」


なんとポジティブな。こう言ったところ、本当にすげぇと思うぞ飯田。俺には無理だ。


今年は校外の人間も入れるようになっており、少しばかり名の知れてる俺はカメラを勝手に向けられたり、好奇の目に晒されていて、感情を殺すので精一杯だ。


「まぁまぁ!そんな怖い顔しないで轟!」


「…………無理だ。」


「ほら、皆轟くん見たくて来てるんだよ?凄いよ!!いるだけで広告塔!!」


「……………………爆豪だってそうだろ。」


「爆豪くんは怖すぎるから皆引いてるよ。」


麗日の言葉に目を向けると、遂に手からパチパチと火花が散り始めた。確かに。近づくだけで爆破されそうだ。


「だからあとは轟くんに頑張って貰わないと!!」


そう言って俺を持ち上げる女子たち。お前たちは燕尾服だから良いよな。…………こんな屈辱を味わってなくて。


フリフリとしたスカート。丈が長いだけまだマシだが、こんなの見るに堪えないだろ。お世辞にも俺は華奢とは言えねぇ。肩幅も筋肉もある。その上でのメイド服。見てられねぇだろこんなもん…………。


「ほらほら!そんな顔してると愛しの彼女が来た時怖がられちゃうよ?」


………………愛しの彼女って、


「…………あいつには来るなって言っておいた。」


「え、なんで?」


「こんなもん見せられる訳ねぇだろ……。」


「……………………でも残念!!苗字ちゃんは来るよ!」


「…………………………は?」


芦戸の言葉に思わず固まる。


「轟がなんで来ちゃダメって言うのかわからないんだーって連絡来たの!だから教えてあげたんだ!メイド服着るから嫌なんじゃない?って。」


「………………………………おい、」


「そしたら、そんなの観にいきたいに決まってる!!って!」


「……………………………………嘘だろ。」


血の気が引く。こんなの、こんな気持ち悪ぃ姿見せられねぇ。


俺は止める声も無視して裏に入ろうと足を進めるが、


「……あ!!轟くん!!」


「…………………………。」


聞こえてしまった声に、時すでに遅し。と足を止める。


「わ!!本当にメイド服着てるんだね!!…………って……轟くん?」


一向に苗字の方を振り向かない俺。当たり前だろ、こんなの見せたくなかった。


「あー…………ご、ごめん、来ないでって言われたのに来て…………。」


「…………全くだ。」


「ご、ごめん…………怒ってる?」


「………怒ってる。」


「ひぇっ……ご、ごめんなさい…………。」


そう静かに謝った苗字。少しだけ可哀想に思えてしまって、思わず振り向く。すると


「……………………び、美人…………。」





「は?」


美。び、美の暴力。


轟くんそもそもとんでも綺麗なお顔してたけど、女装まで似合うなんて…………。


バチバチに化粧も施されたそのお顔は最強だ。強過ぎる、とりあえず勝てる気はしない。


「……こんなの、気持ち悪ぃだろ。」


「え!?ど、どこが!?」


「……どこがって。」


「轟くん凄く綺麗だよ!!」


「嬉しくねぇよ……。」


あ、あれ。そ、そういうもんなのかな。


はぁ。と溜息をついた轟くん。その横顔でさえ美しい。とんでもない。


「で、でも本当に轟くんのお顔は凄く綺麗だと思うよ!!だからこそ似合うんだと思うし、」


「…………俺は、」


どれだけ轟くんの顔面が美しいかを語ろうとすると、静かに声を出す轟くん。


「………………俺は、こんな俺より苗字の方がずっと綺麗だと思うけど。」


「………………………………はっ?へ、」


今なんて?


イマイチ言われた意味が飲み込めず、目の前にいる轟くんを覗き込むと、耳まで赤くなっていてこちらまで熱が移った。


黙り込んでしまった私達を見て、友人たちや雄英の皆さんが微笑んでいたなんて。私達は知る由もない話である。