「お待たせ、轟くん!」
「ん。………………その格好寒くねぇか?」
そう言って私の格好を上から下まで眺めた轟くんは、上着もマフラーも手袋も着込んでいて、暖かそうだ。
「………………ちょ、ちょっとね。」
部屋が汚すぎて、マフラーや手袋が見つかりませんでした。なんて口が裂けても言えない。なんなら待ち合わせの時間がいつの間にか迫っていて、慌てて準備しました。なんて事も言えない。
なんたって今日は大晦日。一年に一度の大掃除を行う日だ。
だって言うのに、我が家のリビングやキッチンにばかり気を取られて自分の部屋は汚部屋のままだ。こんなので新年を迎えるとは……。
しかしながらリビングやキッチンはお母さんと協力してかなり綺麗にした。中々に気持ちが良い。なので遊んでいた訳でもぐーたらしてた訳でも無いんだ。ちゃんと働いて、そして時間を見ていなかっただけなんだ、本当に。
なんて言い訳も言えないまま、轟くんに笑いかける。
「……せめてこれ付けてろ。」
そう言って自らが巻いていたマフラーを取る轟くん。
「い、いや!!轟くんのだし、そんな。」
「別に平気だ。俺は体温の調節も得意だし、……苗字が風邪引いたらいけねぇだろ。」
優しい……っ。
今日も優しいイケメンだ、本当に。惚れても仕方ないって。
「あ、ありがとう……。」
お言葉に甘えてマフラーを受け取ろうとすると、
轟くんは手に持ったマフラーをそのまま、私の首に巻き付けた。
体制的に抱き締められてるような格好になり、寒いどころか暑くなってくる。
「あ、………………あ、ありがとう!!」
「ん。……行くか。」
「うん!」
◇
「おぉ……思ってたより人いたね。」
「そうだな。」
地元の神社へ来ると、年越し前だが既に人は集まっていた。
「でも今年はこっちに長くいられて良かったねぇ。」
「去年は色々と厳しかったからな。」
段々と規制の緩まってきた雄英。そのお陰で轟くんは今年の冬休みはこちらに戻ってきていた。
その話は手紙でも聞いていたので、当たり前のように会いに行った飼っている猫の名前の後を追いかける際も特に驚くことは無かった。
そして彼がこちらに戻ってきてから数日後、初詣に一緒に行かねぇか。と言うお誘いを受けて、小躍りをしたのは記憶に新しい。
「来年は遂に3年生になるねぇ。」
「あぁ。……もうすぐ卒業だな。」
「やだなぁ、寂しい。」
「………………進路って決めたのか?」
「あ、うん。一応…………調理師関係の専門学校に行こうと思ってて。」
「調理師……。」
高校生になってから始めた料理。最初こそ苦戦したものの、段々と好きになってきた。
この好きを、仕事に出来たらな。なんとなく思い描けた未来。
それを形にしようと思って、この進路を決めた。
「たぶん簡単じゃないし、私なんかが調理師免許なんて取れるのかなぁ。とか思うけど…………頑張ってみようと思って!」
「……そっか、頑張れ。……応援してる。」
「ありがとう!」
微笑んでくれた轟くんに、私も笑い返す。
「私も轟くんの事応援してるから。」
「……ありがとな。」
「ううん、…………きっと素敵なヒーローになるよ轟くんは。」
こんなにも優しいのだから。皆を助ける素晴らしいヒーローに。
「…………その為にもあと1年。前に進まねぇと。」
「そうだね、お互い頑張ろう!」
そう言って笑いあった時、周囲で聞こえた新年のご挨拶。
「……え!?年越した!?」
「………………越したな。」
スマホで日時を確認した轟くんがぽつりと呟いた。
「なんてぬるっと…………。」
「ふふっ……あけましておめでとうございます。」
「あけましておめでとうございます!!」
ぺこり。頭を下げられてこちらも慌てて頭を下げる。
その際マフラーから轟くんの匂いが香って、別の意味でも慌ててしまった。
その後2人で初詣をして、おみくじは私が悪いの引いたら引きずるから。と申すと轟くんまで辞めてしまって、なんで!?と笑いながら家路についた。
「うぅ……やっぱり寒いねぇ。」
「鼻真っ赤だぞ。」
「ヴっ……轟くんは平気そうだね。」
「まぁな。…………手袋、」
「え!?い、いや、そこまで借りる訳には、」
「違ぇ。こっちだけ。」
そう言って左手だけ外して私の左手に付けられた手袋。
「左手は、暖かくしてやれるから。」
そう言って私の手を握ったのは、大きくて骨骨とした轟くんの手。
わ、お、大っきい……。急に男の子を感じさせられて、きゅん。と胸が鳴いた。
それに本当に暖かくて、心も体とぽかぽかと心地良い。
「ありがとう、ほんと、年末の寒さを侮ってたよ……。」
「ふふっ、本当にな。」
また笑われてしまったな、なんて思いつつ2人で家路についていると
「あ!!」
「な、なんだ。」
大事なことを、忘れてた。
「轟くん!!」
「お、おう。」
「……今年もよろしくお願いします!!」