女子力

「そうそう!!いつも名前のお弁当って美味しそうでさぁ。」


「えー!?そうなん!?食べてみたい!!」


「しかもちゃんと美味しいのよ!!もうなんか母の味って言うか!!安心感のある美味しさ!」


「……だからって、勝手におかず持ってくのは辞めてよ。」


「だって美味しいんだもん。」


ぷくっ、と頬を膨らませて可愛子ぶっている友人を冷めた目で見つめる。そんな私たちを見て笑う皆。


昨年のプール以降、何かと会っている私達。今日も女子会と称して雄英の皆も含めてお茶会だ。


「でもその情報、轟に言ったらかなりの女子力アピール出来るんじゃない?」


「うーん……どうだろ…………家事をやってるって言うのはだいぶ前から話してるからなぁ。」


「そうなの?……でも、家事の出来る女の子が嫌いな男子なんていないと思うなぁ。」


麗日さんの言葉に皆頷く。それは確か……。


「うん、轟くんも家事出来る女子って良いよなって言ってた気がする。」


「…………え?」


「マジ?」


「へ?」


驚きに染まる皆に見つめられて、何かおかしな事でも言ってしまっただろうか。と内心焦る。


「そ、それってさ、苗字ちゃんが家事をやってるって話をした時に言われたの?」


「…………うん、確か。それが?」


「…………………………そっかぁ。」


「なるほどねぇ…………。」


「ご馳走様です…………。」


「何が!?」


皆に手を合わされて、菩薩の気分…………じゃなくて!?


「いつか名前が意味を知って、恥ずかしがるところまで想像出来たわ……。」


「恥ずかしがる!?」


「はぁ……楽しみだなぁ。その日が来るのが。」


「え、ちょ、ほんとになに、」


「轟も苦労してるなぁ……。」


「ね、案外頑張ってた……。」


なんでそこで轟くんが。


「…………ねぇ、苗字さん。今度私たちの寮に来ない?」


「え?」


「あ、いいね!!麗日!」


「確かに。轟ちゃんも喜びそうね。」


「え、ま、待って、なんで?」


「うちの寮に来て、さっき言ってた美味しいご飯を作って欲しいの!」


「なるほど!!」


「名前、料理出来る女アピールだ!!」


い、いや、なんでさ!?と言うか入って良いのだろうか。


なんて疑問は、制限の少なくなってきた今現在では、許可さえあれば入ることが出来るとのこと。家族でも無い私でも大丈夫か?と聞けば、友人でも雄英の生徒が友人だと認めていれば入れるそうだ。へぇ……。


「美味しいご飯で轟くんをメロメロにしようぜ!!」


「む、無理……と言うか知らない人たちもいるでしょ?クラス全員に会ったことある訳じゃないし…………なんならあの悪の権化である爆豪さんだっているし……。」


「大丈夫大丈夫!良い奴ばっかりだから!それに爆豪も案外口が悪いだけで、良い奴だから!」


「そうそう!なんなら爆豪料理出来るしね!たまに作ってくれるし!」


「え!?そ、そうなの!?」


「そうなのよ、ドラムだって叩けるしかなりの器用さを持ってるわ。」


「ドラム!?」


「やば……爆豪くんやば…………好きになっちゃうじゃん。」


なんて言い始める友人は流石に止めたい。相手は悪の権化だぞ、下手したら爆散させられるぞ、爆散。


「だからそんなに怖がらなくても大丈夫!ね、来てみない?苗字さん遊びに来てくれたら楽しそうだなぁ。」


「皆さんも苗字さんの事は知ってますから、きっと会ってみたいと思ってくれてますわ。」


あ、そっか…………手紙で知られてるんだった……。


とは言えそんな理由で寮に入るなんて、ちょっと、それは。なんて言い訳を並べつつ、本当は料理の腕に自信なんて無い私は、


結局友人たちや雄英の皆に引きずられるようにして、雄英の門をくぐった。





「なんか、悪ぃな……芦戸達が暴走したみてぇで。」


「いや…………それでも尚皆を止められなかった私にも非はあるよ。」


あれよあれよと言う間に寮へ通され、キッチンへと連れてこられた私。


そして友人たちは相変わらずのコミュ力でA組の皆さんとの仲を深めに行ってしまった。


皆には、苗字ちゃんがご飯作ってくれるからって話してあるから!なんて芦戸さんは言っていたが、ヒーローの卵たちにどこの馬の骨かも知らん奴が作った飯を食べさせて良いのだろうか、非常に不安になる。


しかも、人数とんでもないじゃないか。こんな量1人で作れるかい。と今更だがキレそうになる。女子力うんぬんの前に、人手不足過ぎやしないか。


「…………大丈夫か?」


「………………………………あんまり大丈夫じゃない。」


「だよな…………でも、皆割と期待しちまってて。」


「え!?」


「……芦戸や麗日がお前のこと俺の友達、って言うより調理師志望の友達って紹介してて…………。」


「うわぁ…………。」


なんと言う大惨事。轟くんも気まずそうに視線を落とし、そして止められなかった、ごめん。と謝った。


「いや、轟くんは何も…………芦戸さん達は行動力の化身だね。」


「……そうだな。」


もうそう言いふらしてしまったのなら、期待されてるのなら仕方ない。


「…………よし、やるかな!!」


私はエプロンをつけて、調理器具の場所を確認し始めた。


「俺も手伝う。」


「え?いいの?」


…………轟くんって料理出来るのかな。失礼ながら思ってしまった。


「あぁ。……あんまり、得意じゃねぇけど。あまりに人手が足りねぇんなら爆豪呼んでこようか?」


「え!?い、いい!!だ、大丈夫!!!」


「でもあいつ、料理上手いぞ?」


「料理ってより、人間性として……。」


悪の権化だもん…………。


「……?わかった。俺が頑張る。」


頑張る。なんと可愛い言い回し。


きゅん。と胸を高鳴らせながら、お願いします!と頭を下げた。





無心で包丁を扱い続けて暫くした頃、


「轟ー!なんか先生呼んでんぞー。」


「お、……ちょっと行ってくる。」


「うん、行ってらっしゃい!」


行ってくる、行ってらっしゃい。……なんか新婚さんみたい…………って何を考えてるんだ、き、気持ち悪。


今日もしっかり気持ち悪い脳内に引きながらも、肉を切り、水気をとって調味料の準備に入る。


「……………………1人でやんのかこれ。」


「1人しかいないのでしょうがないから…………って?」


え?


なんとなく返事をして、そして振り返るとそこには悪の


「ばばばばば、ば、ばば!!?」


「うっせぇ!!」


「ひぇ!!す、すいませ……!」


何故ここに!?と言うか何しに、


「…………チッ……これどうすんだ。」


「え……?」


爆豪さんがこれ、と指したのは放置されていた野菜達。


「あ……そ、それは南蛮漬けに使おうとしてたから…………細切りにしようかなと……。」


「…………。」


そう言うと、無言で隣に並び包丁を手に取った爆豪さん。


すると、見事な手さばきで皮を取り、綺麗に野菜を切り揃えた。


「!?」


す、すご…………器用なんてレベルじゃないのでは!?と言うかこんな技術を持った爆豪さんがいるのに、私なんかが来ても期待はずれなのでは。


「おら、ぼさっとしてねぇでさっさと作れ!!腹減ってんだよこちとら!!」


「ひぇ!!す、すいません!!」


私は慌てて計量カップを持ち直し、調味料集めに奔走した。


結果として、爆豪さんのお手伝いもあり遥かに短い時間でご飯は完成した。


「あの、……ありがとうございました!」


「……お前がとろいから手出しただけだ。勘違いすんじゃねぇよ!」


やっぱりやばい人だ。お礼言っただけなのにキレられた、怖。





「美味しい!!」


「ほんまに美味しい!!流石調理師志望!!」


「あ、ありがとう…………でも爆豪さんにも手伝ってもらった訳だから、」


「え!?爆豪手伝ったのか!?」


「やっさしーじゃんか、かっちゃん!!」


「うっせぇ!!かっちゃんって呼んでんじゃねぇぞ!!」


「……そうなのか?」


「え?あ、うん。気づいたら後ろにいてね、ひっくり返るかと思った。」


「そうか…………。」


「どうしたの?」


なんとも言えない表情を浮かべている轟くん。……お口に合わなかったのかな……。


「あ、いや。…………すげぇ美味い。流石だな。」


「え、ほんと?……なら良かった。」


「あぁ。」


「ほんと、良いお嫁さんになるよね!苗字ちゃんは!」


「ごほっ!?」


「な、何言ってるの……!?」


その言葉に思わず聞き返すのと同時に、隣に座っていた轟くんがむせ込んでしまった。


慌ててお茶を渡して背中を撫でる。


「だ、大丈夫……!?」


「うわぁ!?ごめん轟!!」


けほっけほっ……と咳き込みながら段々と落ち着く轟くん。


そして若干涙目になりながら、芦戸さんをじとーっと見ていた。


「轟くん、大丈夫……!?」


「……っあぁ、……ありがとう。」


「いや…………。」


今の会話の中で轟くんがむせてしまう様なワードあっただろうか。…………お嫁さん?……違うよな…………たまたまかな。


きっとたまたまだ、うん。そんな事もあるよね。そう思い私は美味しく出来た南蛮漬けと共に喉に押し込んだ。


…………轟くんとお嫁さん。そんなワードを並べる日は来なければ良いのに。なんて。醜い感情には蓋をして。






(誰かの元へ、誰かのお嫁さんになる日なんて。考えるだけで気が狂いそうなんだ。)