遠くて近い

「う、うぉ…………。」


「民間人への被害はありません。建物への影響も目視出来る範囲では無さそうです。」


「いやぁ!雄英の轟くんがいてくれて助かったよ!!ありがとう!!君がプロヒーローになる日が楽しみだ!」


「……ありがとうございます。」


何がどうしてこうなった……?


地獄の期末テストを終えて、夏休み。お盆に帰省すると言う轟くんと、1日ぐらい遊びに行こうと話してて、お出かけしたのは数時間前。


そして突然ヴィランが現れて、街を襲い始めたのが恐らく5分前ぐらい。


そして轟くんが制圧したのは2分前ぐらい。


……………………は、早業だった……。


プロヒーロー顔負けの判断と威力であっという間にヴィランは足止めされて。


ちょっと離れてろ、なんて言われたら勢いよく炎を放ってヴィランは気絶。


しかしながら周りの人々や建物は一切被害を受けていなくて、な、なんとも素晴らしい…………と言うか凄すぎる……本当に同い歳…………?


「悪ぃ、巻き込んじまって。」


「い、いや!?!?む、むしろ轟くんが皆を救う様を見れて光栄と言いますか!!」


「……っふふ、なんだよそれ。」


あんなの中々見れたものじゃない。それに、あんなの見てドキドキしない子なんてきっといない。ほら、周りにいる女の子達だってこっち見てきゃーきゃー言ってるよ。


こうして轟くんは遠い人になって行くんだなぁ。と感じてしまったが、彼は遠のいていくのが当たり前。それほどに私なんかとは生きてる世界が違うのだから。


…………でもだからって悲しむのは無しだ。そばに居るのが怖いからって離れるのも無し。


轟くんが悲しむようなことは、もう二度としないって決めたから。





「……ヴィランと会った時、怖くなかったの?」


「……いや、特には。」


「マジか……。」


凄いな……私はもう心臓バックバクで、足はガクガク震えてたのに。


咄嗟に轟くんが抱き寄せて、ヴィランの足を止めてくれなかったら、あの場で失神してたかもしれない。


「凄いなぁ……。」


「…………そう言う、勉強してるからだろ。ヒーローになる事が全てじゃねぇ。だから、その、」


タジタジとしながら言葉を紡ぐ轟くん。なんだかおかしくて笑ってしまう。


「ふふっ、謙遜する事なんか何も無いでしょ!!本当に凄いよ轟くんは。自慢の友達だ。」


本当に、自慢の友達。


轟くんに伝えるために放った言葉は、自分の中で反芻されて鈍い痛みへと変わった。


…………そう、友達。


いつかさっきの女の子達のようにきゃーきゃー、と言われるようなヒーローになって。


彼女とか、結婚とか。本人から聞いてなくてもニュースで流れるのを聞いてしまうような。そんな日が来るのかな。


世の中の女の子達と一緒に、結婚なんてショックだな。と胸が張り裂けるような思いをするのかな。


………………そんなのは、友達とは呼ばないなんて。ずっと前からわかってるけれど。


「…………なぁ、苗字。」


「うん?」


「………………………………俺と、」


「…………うん?」


もごもご。


何か言いたそうで、言わない轟くん。心做しか目も泳いでる。


「どうしたの?」


「…………俺と、友達になれて良かったか?」


……………………そんなの。


「……うん、勿論!!轟くんと友達になれて良かった。」


こんな思いするぐらいなら、あなたと出会いたくなかった。


…………なんて、口が裂けても言えないぐらいには。友達でも良いからそばに居たい。そう思ってしまうぐらいには、あなたの事が大好きだよ。