「う、うぉ…………。」
「民間人への被害はありません。建物への影響も目視出来る範囲では無さそうです。」
「いやぁ!雄英の轟くんがいてくれて助かったよ!!ありがとう!!君がプロヒーローになる日が楽しみだ!」
「……ありがとうございます。」
何がどうしてこうなった……?
地獄の期末テストを終えて、夏休み。お盆に帰省すると言う轟くんと、1日ぐらい遊びに行こうと話してて、お出かけしたのは数時間前。
そして突然ヴィランが現れて、街を襲い始めたのが恐らく5分前ぐらい。
そして轟くんが制圧したのは2分前ぐらい。
……………………は、早業だった……。
プロヒーロー顔負けの判断と威力であっという間にヴィランは足止めされて。
ちょっと離れてろ、なんて言われたら勢いよく炎を放ってヴィランは気絶。
しかしながら周りの人々や建物は一切被害を受けていなくて、な、なんとも素晴らしい…………と言うか凄すぎる……本当に同い歳…………?
「悪ぃ、巻き込んじまって。」
「い、いや!?!?む、むしろ轟くんが皆を救う様を見れて光栄と言いますか!!」
「……っふふ、なんだよそれ。」
あんなの中々見れたものじゃない。それに、あんなの見てドキドキしない子なんてきっといない。ほら、周りにいる女の子達だってこっち見てきゃーきゃー言ってるよ。
こうして轟くんは遠い人になって行くんだなぁ。と感じてしまったが、彼は遠のいていくのが当たり前。それほどに私なんかとは生きてる世界が違うのだから。
…………でもだからって悲しむのは無しだ。そばに居るのが怖いからって離れるのも無し。
轟くんが悲しむようなことは、もう二度としないって決めたから。
◇
「……ヴィランと会った時、怖くなかったの?」
「……いや、特には。」
「マジか……。」
凄いな……私はもう心臓バックバクで、足はガクガク震えてたのに。
咄嗟に轟くんが抱き寄せて、ヴィランの足を止めてくれなかったら、あの場で失神してたかもしれない。
「凄いなぁ……。」
「…………そう言う、勉強してるからだろ。ヒーローになる事が全てじゃねぇ。だから、その、」
タジタジとしながら言葉を紡ぐ轟くん。なんだかおかしくて笑ってしまう。
「ふふっ、謙遜する事なんか何も無いでしょ!!本当に凄いよ轟くんは。自慢の友達だ。」
本当に、自慢の友達。
轟くんに伝えるために放った言葉は、自分の中で反芻されて鈍い痛みへと変わった。
…………そう、友達。
いつかさっきの女の子達のようにきゃーきゃー、と言われるようなヒーローになって。
彼女とか、結婚とか。本人から聞いてなくてもニュースで流れるのを聞いてしまうような。そんな日が来るのかな。
世の中の女の子達と一緒に、結婚なんてショックだな。と胸が張り裂けるような思いをするのかな。
………………そんなのは、友達とは呼ばないなんて。ずっと前からわかってるけれど。
「…………なぁ、苗字。」
「うん?」
「………………………………俺と、」
「…………うん?」
もごもご。
何か言いたそうで、言わない轟くん。心做しか目も泳いでる。
「どうしたの?」
「…………俺と、友達になれて良かったか?」
……………………そんなの。
「……うん、勿論!!轟くんと友達になれて良かった。」
こんな思いするぐらいなら、あなたと出会いたくなかった。
…………なんて、口が裂けても言えないぐらいには。友達でも良いからそばに居たい。そう思ってしまうぐらいには、あなたの事が大好きだよ。