「何か、悩み事?」
「…………え?」
「あ、えっと、ほら、最近轟くん溜め息多いからさ、」
「うむ、クラスメイトの皆も結構気にしていたぞ!」
「え、そ、そうなのか…………なんか悪ぃな……」
「……何かあったの?」
い、言いたくないなら全然!と付け加えた目の前の友人は、やはり優しい奴だと再認識する。
「悩みっつーか…………後悔、してて。」
「後悔?」
「…………大事だった人がいるんだが、……俺の思い込みで、…………突き放しちまって。」
轟くんの人生は、轟くんのものだから!そう言ってくれたのに、俺は。
恩を仇で返すような事を。…………あの日、初めて苗字に背を向けた時家の敷地に入ってから、あいつの啜り泣く声が聞こえて、咄嗟に戻りかけた。
でも。それじゃあ意味がねぇって、勝手に思い込んで。
泣いてるあいつに駆け寄ることもせず、俺はただ身を隠して黙り込むことしか出来なかった。
「え、えっと…………どうして突き放しちゃったの?」
「…………親父に知られるのが怖くて。」
「え?」
「……雄英に入る前までは、楽しいことは全部あいつに奪われてきた。だから、その子の存在も親父に知られたら奪われるって、あの子に嫌な思いをさせるかもしれねぇって思って…………だから距離を置いたんだ。」
でもその結果、苗字に嫌な思いをさせたのは俺だった。
泣かせてしまった、傷つけてしまった。
「……謝りてぇんだけど、今更会ってくれるかわかんねぇから…………。」
体育祭の後、お母さんに会って強過ぎる憎しみを乗り越えられた。
それでわかったんだ、怖がるのではなくて俺があの子も守ってあげられれば良いんだと。
だから、もう一度。あの日のような、あの照りつける夏の日のような穏やかな日をもう一度。
「…………話してみたらどうかな?」
「…………え?」
「だって、君はその子と話したいんだろう?だったら話してみない限り永遠に悩んだままだ。…………まずは行動してみたらどうかな?」
緑谷の言葉を反芻し、そして、少しの緊張と恐怖を抱えて頷いた。
そんな俺を見て優しく微笑んだ緑谷と飯田。
良い友人が出来た。………………良い友達が出来たんだ、俺。
話したい、なんで避けてしまったのか。雄英に入って変われたって事も。ちゃんとお前を守って、前みたいに仲良くして欲しいこと。
全部全部話してぇ。…………聞いて、くれるだろうか。
無邪気に笑う苗字を思い出して、勇気を貰う。
…………会いに行くよ、苗字。