not 雄英体育祭

「え?体育祭??行きたい行きたい!!」


「マジ!?来る!?……いやでも雄英みたいに個性使って良いとか無いし、ふっつー過ぎてつまらんかもよ?」


「それでも全然!!ね!?」


「うんうん!!皆が頑張ってるの見に行きたい!!」


そう言ってはしゃぐ芦戸さんと麗日さん。えぇ……。


「で、でも、本当に何も無いよ?頑張るって言っても精々走ったり跳んだりするぐらいで……。」


「それでも!!ね、行っても良い!?」


「いいよいいよおいで!!」


「ちょっと……。」


ノリノリなおふたりにノリノリな友人。えぇ……本当に来るの……?なんにも楽しくないよ……。


「あ、ちゃんと轟達も連れてくるから!」


「え!?」


「勿論!苗字ちゃんの頑張るとこ見てもらお!!」


「い、いいいや、そんなの、私運動部とかでも無いし、」


「それじゃあまた当日!!楽しみにしてる!!」


「ちょっと!?」


あれ、段々と友人だけでなく雄英の人達にも話を聞いて貰えなくなってきた。あれれ。


「やったじゃん名前。体育祭やる気出てきたね?」


「出てくるわけないでしょ……激萎えだよ……。」


轟くんの運動神経は言わずもがな。その上個性も強くて顔も強い。


そんな彼に見られてると思うだけで、きっとろくに体は動きやしない。


「それに、私運動部じゃないって…………帰宅部だって……。」


「とか言って運動部ばりに動けるくせに。」


「日頃のタイムセールや荷物持ちで鍛えてるくせに。」


「うるさいな!?」


運動部をバカにするな!?彼らの努力を舐め腐るな!?


「大丈夫大丈夫!ほら、名前って体育の成績良いし!」


「足も速いじゃん?クラス対抗のリレーのメンバー入れられとったよね?あれ上位4人しか入れないはずだけど。」


「………………たまたま50mのタイムが良かったんだよ。」


「ほら、ちゃんと実力は伴ってるんだからさ!頑張ってこ!!良いとこ見せてこ!!」


ずん。と重たくなる気持ちを堪えることなく重たくさせ、


ついに来てしまった当日、私は緊張で吐きそうになっていた。





「へぇ…………ここが苗字さん達が通ってる学校かぁ。」


きょろきょろと周りを見渡す緑谷。俺もなんだか新鮮で周囲を見渡す。


雄英より古びた校舎や、錆び付いた校門などが目立ち古い学校なのだと思わされる。


「ちょっと、のんびり歩いてる時間無いって!!もう始まってるんだから!!」


「お、おお。」


「わ、お、押さなくても歩けるよ!?」


「早く早く!!」


女子達に押されるようにしてグラウンドへ向かう。すると既に歓声や応援が聞こえてきて、言われた通り始まっているのだとわかった。


「うわぁ、懐かしいなぁ。雄英は体育祭が派手過ぎて忘れがちだけど…………普通はこんな感じだもんね、中学を思い出すや。」


……確かに。雄英で過ごしていてあれが当たり前のように思っていたが、違うんだ。報道陣も来なければ、プロヒーロー達が来ないのも当たり前。


「……え?……と、轟くん!?」


「え!?まじ!?どこ!?」


「ぎゃあああ!!本物!!!」


「………………ん?」


どこからか名前を呼ばれた気がして振り返ると、歓声と言うより悲鳴。え。


「ぎゃあ!忘れてた!!轟くん有名人なんだった!!」


「その上イケメンなんだった!!」


あわあわと慌て始めた麗日と葉隠。そんな、有名人なんかじゃ、


と否定しようとするが、この学校の生徒たちの視線の多くがこちらを向いていて。なんなら教師までこちらを見ている。な、なんでだ。


「う、うわああ、ど、どうしよ!?こんなに目立つとは…………轟に変装させて来るべきだった!!」


「へ、変装って。…………別に気にせず見に行きゃいいだろ、」


「な、何を言ってるんだい轟くん!?今君がグラウンドに行ったらパニックを起こさせるぞ!?」


飯田の言葉にギョッ。としてしまう。パニックって……。


なんて、皆で慌てているとこちらに駆けてくる人が。


「や、やっぱり!!」


「…………苗字。」


…………体操服だ。初めて見る姿に少し胸が高鳴る。


「なんかすっごい騒がしくて、轟くんなんてワードがちらほら聞こえたから来てみたら……。」


「ご、ごめんね苗字ちゃん…………轟くんの認知度舐めとったわ……。」


「いや、私も…………こんな事になるとは。」


「と、とりあえずもう少し変装してから出直すよ!」


「うん、そうだね…………」


「……あ、苗字ちゃんが出る競技ってまだだよね!?」


「あー…………。」


聞かれた苗字は言いにくそうに天を仰ぐ。え、まさか。


「……いくつかは終わっちゃったかなぁ…………で、でも!まだあるし!!友達が出るやつとかもあるから!」


そう言うと、今現在話に出た苗字の友人が後ろから駆けてきた。


「あちゃー!!轟くんありのまま過ぎる!!」


「そりゃ騒ぎになるよ!!」


「わ、悪ぃ……。」


「ね、ねぇ!苗字ちゃんの出る競技いくつか終わっちゃったって聞いたけど、」


「あー……うん、でもまだ100と200と……ハードル?しか終わってないよね?」


は?


「……え?苗字さんいくつ出るの?」


「いくつ。…………でも、あとは午後に二人三脚と、走り高跳びと、……クラス対抗リレーだから……6つ?」


思わず口を開けてしまう。中学の感覚だとそれは、出過ぎじゃねぇのか。


「ふっふっふ…………驚いたでしょう雄英諸君!!」


「うちの名前は、クラスのエースなのですよ!!」


エース。なんともほんわか笑う苗字には似合わない言葉。


ドヤ顔で苗字の肩を持つ友人たち。しかしすぐに苗字は


「ち、違うから!!ちゃんと陸上部とかいるけど、陸上部はハンデ有りとか、出れないとか色々公平にする為のルールがあって……。」


「……あ、それで運動部じゃないけど運動神経の良い苗字ちゃんが、色々と出ることになったってこと?」


「そ、そういう事!!断然足も筋力も他の人の方が上だから!!」


それを聞いて納得した。…………実は苗字の足はゴリゴリに筋肉がついてる、と言われたら中々驚くし…………足のトレーニングはそれ程行ってない自分が負けるかもしれねぇ、なんて思ってしまったから。


「じゃあそれまでには戻ってこないと!!行くよ轟!!」


「お、おお……また後でな苗字。」


「うん!……変装頑張って!!」


変装を頑張るとは。


とりあえずどんな変装を俺にさせるか、で盛り上がっている女子たちを止めることだろうか。