無いもの

「うわああ、午後のスタートまでに間に合わなかった……走るよ皆!!」


皆で急いで学校へと戻る。


「大丈夫!?轟くん、」


「あ、あぁ……なんとか。」


帽子やメガネ、カツラなんかを被せられて、それらを抑えながらなんとか走る。


「それにしても……カツラ被っちゃうと一気に轟くん感無くなるね。」


「確かに!やっぱり赤と白の髪色って目立つもんねぇ。」


そう言われて視界の端で見えた黒髪を摘んでみる。


確かに黒髪と言うのは新鮮で、鏡に映った時も違和感しか無かった。


「やっと着いた!!競技はどこまで進んじゃったかな……。」


グラウンドへ入り、歓声と応援が渦巻く中競技へ目を向ける。すると、


助走をつけて踏み切り、高く跳んで体をしならせてバーを超える苗字。


『こ…………これも跳んでみせた3組苗字!!!今年も見せてくれます、謎の帰宅部!!』


「す、すっごーい…………個性も使ってないのに、あんなに高いの……。」


「運動神経が良いって本当にだったんだぁ……。」


芦戸の言葉に俺も共感してしまう、何度言われても、それこそ本人から家庭科と体育の成績は良いと聞かされていても、どこか侮っていた。


しかしながら今も尚勢いよく踏み切り、空へ跳び上がる苗字は、自分の体を思うように操っている。


…………また、知らなかった面を知った。


そして、


「…………はぁ。」


また、深くお前に嵌ってしまう。


これ以上嵌ってどうすんだ、本当に。……抜け出せねぇだろ。なんて抜け出す気が無いくせに、被害者ぶってみる。


「凄いな苗字さん、あの身長であそこまで……日頃見てる感じだと筋肉つけてるって訳でも無さそうだし……となるとやはり運動センスがあるんだなぁ……あそこで体を捻るセンス、凄いなぁ……あの動きから何か学べるかも……。」


「…………。」


隣でぶつぶつといつもの発作が出てしまっている緑谷は放っておいて、今も尚高い位置にあるバーへの挑戦を続けている苗字。


……と言うかさっき、今年も見せてくれますって言ってたけど、


「あ!!おかえりなさい!」


「ただいまー!!凄いね苗字ちゃん!?」


こちらに気づいてやって来た苗字の友人たち。


「でしょ!!なんたってうちの帰宅部エースだからね!!」


「……なぁ、さっき。実況みたいなのが今年も見せてくれますって言ってたけど……。」


「あ、それ僕も気になってた……。」


「私も!!」


「あ、それはね。名前毎年あんな感じで頼られちゃって、沢山競技出てるからさ?年々ちょっとした有名人になっていっちゃって。」


……それは、そうだろうな。帰宅部なりに頑張ってる、じゃなくて。帰宅部とは思えない程の動きをしているのだから。


「あ、また跳ぶよ……頑張れ名前ー!!!」


「頑張れええええ!!!」


友人たちと共に、恐らく同じクラスのクラスメイト達だろうか。野太い声やら悲鳴のような声やら色んな声が混じって、頑張れ、と叫んでいる。


笛の音共に、苗字が助走を始める。そして体を捻りながら跳び上がり、またも鮮やかに体を操って。


『…………ま、た、も成功ー!!!どこまで行くんでしょうか苗字!!』


「うわあああああ!!!名前!!かっこいいよおおおお!!!」


「うおおおおおん!!!!抱いてえええ!!!」


突如そう叫んで泣き出した友人たちやクラスメイト達。


な、なんだろうか…………画風が……一気に…………。


「す、凄いね…………苗字ちゃんのファンみたい……。」


「ある意味クラスの絆が強いのかな…………?」


困惑する俺達。……だけど、かっこいいのはなんだかわかる。


日頃あれだけ緩いのに、今はほら。なんとも凛々しい表情で次の高さを見上げている。


ぎゅ。と胸が苦しい。……魅力が多すぎて、苦しい。


どんなお前も、俺の中では全てただただ好き過ぎる。それだけなんだ。





「おかえりいいい名前!!!」


「大健闘だったな苗字!!」


「お疲れ!!今年もかっこよかったよおお!!」


「あ、ありがとう…………最後悔しかったなぁ。」


高飛びは毎年最後悔しい気持ちが残る。最後失敗して終わるのだから当たり前なんだけど……なんとも歯がゆい。


「充分だったよ!!ほら、名前の稼いだ得点のお陰でうちのクラスも総合優勝圏内!!」


「総合優勝…………出来たら……!!」


「先生がアイス奢ってくれる!!頑張ってこ!!」


よっしゃ。奢ってもらう食べ物ほど美味しいものは無いよね!!私は意気込んで、体育祭の最終種目であるクラス対抗リレーまで休もうとしたところ、


視界の端に入った緑谷くん。…………ってことは。


その隣に目を向けると、帽子を被った黒髪の人。…………でもよくよく見ると。


「……え!?あれ轟くん!?」


「あ、そうそう!高飛びやってる途中から戻って来たの!!あれじゃあ全然わかんないよねぇ。」


「う、うん……奇抜さが無くなって…………。」


ただのイケメンになってしまっている…………あれはあれで目を引いてしまいそうだ。


「まだ時間あるだろうし、皆のとこ行こうよ!」


「う、うん、そうだね。」


友人に手を引かれ、彼らの元へ。


「…………あ!!苗字ちゃん!!」


「お疲れ様!!さっきの凄かったねぇ、かっこよかった!!」


「あ、ありが…………とぉおぅ!?」


「!?」


声をかけてくれる皆に駆け寄っていた最中、


みんなの元へとあと少し、そんなところでちょっとした段差に躓き体が傾く。


しかし、そんな私に瞬時に反応してくれた轟くんが、なんとか私を抱き留めて、私は顔面から地面にめり込むことだけは避けれた。


「うっ…………。」


「大丈夫か?」


「ご、ごめん…………。」


「やだもう名前ったら!!大胆!!」


「いつからそんな破廉恥な子になった訳!?」


「ち、違う!!!事故!!!見てたよね!?」


そんな事をあろう事か轟くんの目の前で言い出した友人達に青ざめながら、言い返す。と、轟くんだってそんなつもりじゃ……!!


なんて焦って彼を見ると、初めて見るメガネ姿。は、え、……か、かっこよ………………。


「……苗字?」


「え、あ、……ご、ごめん、ありがとう!」


慌てて彼から離れる。うっ、黒髪もメガネもよく似合ってる……イケメン凄い……。


「……さっきの競技見てたぞ、凄かった。」


「ぅえっ!?あ、ありがとう、そんな、轟くんに褒められるなんて嬉しいや。」


「いやでも本当に凄かったよ!!ヒーロー科にいそうな運動神経だったし!」


「いやいや…………。」


それは大袈裟だよ芦戸さん……。


「でも本当に、私達とそんな大きくは変わらないって思ったけど…………。」


「いやいや、ほんと、それは言い過ぎだよ…………何より私個性無いしさ、皆とは比べ物にならないって言うか、」


「…………え?」


「えっ。」


「えぇっ!?」


「…………………………え?あれ、言ってなかったっけ。」


皆それぞれ声を上げて驚いている、あれ……?言った気だったけど……。


轟くんも目をまん丸にして驚いている、あ、中々レアな表情だな。


「個性無いって……無個性って事?」


恐る恐る、と言った風に聞いてきた緑谷くんに頷く。


「うん、無個性。…………えっ、あ、そ、そんな悲しそうな顔しないで!?」


私からしたらなんて事ない事だし、友人たちもずっと前から知っていた事実。


しかしながらどうやら今初めて皆さんにはお伝えしてしまったようで、なんとも悲しそうな、可哀想なものを見る目をされて、慌てる。


「だって、無個性って…………。」


「それでウチらの体育祭来るのとか……嫌じゃなかった?」


「え!?な、なんで。」


「…………個性、見せつけられんだろ。」


悪かった、知らなくて。そう言って頭を下げた轟くん。えぇ!?


「な、何を謝ってるの!?そんな事気にしてないし、……その、皆はヒーロー科だから個性無いと有り得ない。って思うかもしれないけど、……。」


案外世の中は個性があっても無くても、あまり縁のない人は多いのだ。


現に私や友人たちは日頃個性とは縁のない生活を送っている、ちなみに友人たちは強力では無いものの個性をちゃんと持っている。


なので、そんなに悲観する事なんて何も無いと言うか。むしろこれが私の当たり前なので、そんな気を使わないでもらって大丈夫と言うか。


「私は全然これが当たり前だから、気にしないで?むしろごめんね!急にそんな事言ったりして。」


そう言うとやっと表情が和らいできた皆。良かった良かった。


「……?あれ、名前招集かかってない?」


「え?…………うわ!!やば!!」


時間を見て、焦る。リレーの集合時間だった!!


「じゃあ行ってくる!!」


「行ってらっしゃい!」


「頑張ってようちのエース!!」


「応援してるよ、苗字ちゃん!!」


「頑張れー!!」


激励をかけてくれる皆に笑顔で返す、すると目が合った轟くん。


「……頑張れよ、応援してるからな。」


「…………うん!!見てて!!」


見ててね轟くん。悲観なんてさせないよ。


個性を持ってない私が、この身で皆を勝利(アイス)へ導く様を見ていて!!