「…………駄目だ、これは。」
「諦めた方が良い。もう受け入れよう。」
友達と教科書を見つめてお通夜を開催する。終わった、全然わからん。
「…………ねぇ、知ってる?」
「やめて、名前。」
「実はね、期末テストまでね、」
「やめてっ……!!」
「あと1週間しかないの……。」
「いやあああ!!!」
2人で机に倒れ込む。もう駄目だ、間に合わない。
「……とは言え、赤点まみれになる訳にもいかないし……最後まで粘るか…………。」
「華の女子高生…………もっと楽しいはずなのに……。」
きっとそれは、私達みたいに勉強をサボってない子達に訪れる現象なのだ。辛い。
◇
駄目だ、全然覚えられない。
単語帳と赤シートをペラペラ捲りながら歩く帰り道。
期末テストに絶望しているだけではいけない、と友達とあの後単語帳をとりあえず作り、勉強するべき範囲に印つけるとこまでは出来た。
そのお陰でいつもより帰るのが遅くなってしまったが、背に腹は変えられぬ。赤点になったらこの比では無い。補習まみれの夏休みがやってくるのだ、想像するだけで泣きそう。
……そうならないように、勉強するのだ!と単語帳へと目を向けていると、チリンチリン。え?
なに、と思っている間に強く体を引かれて、進行方向から大きくズレる。
するとすれ違っていった自転車。ごめんねー!と恐らく私に言ったお兄さんに、ぶつかりそうになったのは私だろうと推定し、す、すいません!!と声をかけた。
それと、これも恐らくぶつからないよう体を引っ張ってくれた人、隣に立つ人に目を向けて
「す、すいませ………………。」
なんと言う造形美。今日も変わらず綺麗なお顔。
「とっっっ…………!!?」
「危ねぇだろ、ちゃんと前見て歩け。」
「う、お、あ、は、はい!!すいません!!」
そう言いながらずさぁ、と後ずさる。なんと言う至近距離であのご尊顔を拝んでしまったんだ私は。ち、ちっか…………。絶対に靴底はすり減った。
「……お前が怪我すると、俺が心配するんだからな。」
そう言って若干むくれている様子の轟くん。ヴッ…………あれだけ私が心配だったと喚いたのにお前は、ですよね、わ、わかります……すいません……。
「ご、ごめんね……気をつけます……。」
「あぁ、そうしてくれ。…………何見てたんだ?」
そう言うと私の手元を覗き込む轟くん。
「……単語帳?」
「あ、うん…………期末テストもうすぐで、その……勉強しないとだから。」
気を抜くと赤点だから……なんて言葉は無理矢理にでも飲み込む。超名門の雄英に通っている轟くんに、大して高くもない偏差値の高校へ通っているのに赤点なんて、口が裂けても言えない。
「そうか、頑張れよ。……でも歩きながら見るまでしなくて良いだろ。」
「うっ…………。」
「…………もしかして、テストヤバいのか?」
「…………………………………………。」
なんでこう、いともあっさりと。
私の飲み込んだ事実を引っ張り出してしまった轟くんは、私の表情を見て固まった。
「あ………………俺で良ければ教えようか?」
「…………え?」
「範囲同じなら、たぶん。…………嫌なら全然、」
一瞬、私の中で天秤が揺れた。
何がなんでも赤点を回避するために、優秀な友人を頼るか。
いやしかし、情けない面を見せてしまうことになる。なんなら呆れさせる自信がある。ここはやはり自分のプライドを守って、
なんて天秤はあっさりと、赤点回避と言う激重案件のせいで傾いた。
「お、お願いします!!」
「ぅお、」
「と、轟くんが呆れるぐらいに馬鹿な自信あるけど、」
「え、そ、そうなのか、」
「でも、頑張るから!!!」
そう言うと、何回かぱちくりと目を瞬かせた轟くん。しかしその後おかしそうに笑った。
「ふふ、わ、わかった。俺も勉強しないとだから、一緒に頑張ろうな。」
や、優しい…………っ!!
この時私の中での最低目標が決まった。
こんなにも優しい轟くんに見捨てられないよう、全力で食らいつくことと。