赤点回避

「…………駄目だ、これは。」


「諦めた方が良い。もう受け入れよう。」


友達と教科書を見つめてお通夜を開催する。終わった、全然わからん。


「…………ねぇ、知ってる?」


「やめて、名前。」


「実はね、期末テストまでね、」


「やめてっ……!!」


「あと1週間しかないの……。」


「いやあああ!!!」


2人で机に倒れ込む。もう駄目だ、間に合わない。


「……とは言え、赤点まみれになる訳にもいかないし……最後まで粘るか…………。」


「華の女子高生…………もっと楽しいはずなのに……。」


きっとそれは、私達みたいに勉強をサボってない子達に訪れる現象なのだ。辛い。





駄目だ、全然覚えられない。


単語帳と赤シートをペラペラ捲りながら歩く帰り道。


期末テストに絶望しているだけではいけない、と友達とあの後単語帳をとりあえず作り、勉強するべき範囲に印つけるとこまでは出来た。


そのお陰でいつもより帰るのが遅くなってしまったが、背に腹は変えられぬ。赤点になったらこの比では無い。補習まみれの夏休みがやってくるのだ、想像するだけで泣きそう。


……そうならないように、勉強するのだ!と単語帳へと目を向けていると、チリンチリン。え?


なに、と思っている間に強く体を引かれて、進行方向から大きくズレる。


するとすれ違っていった自転車。ごめんねー!と恐らく私に言ったお兄さんに、ぶつかりそうになったのは私だろうと推定し、す、すいません!!と声をかけた。


それと、これも恐らくぶつからないよう体を引っ張ってくれた人、隣に立つ人に目を向けて


「す、すいませ………………。」


なんと言う造形美。今日も変わらず綺麗なお顔。


「とっっっ…………!!?」


「危ねぇだろ、ちゃんと前見て歩け。」


「う、お、あ、は、はい!!すいません!!」


そう言いながらずさぁ、と後ずさる。なんと言う至近距離であのご尊顔を拝んでしまったんだ私は。ち、ちっか…………。絶対に靴底はすり減った。


「……お前が怪我すると、俺が心配するんだからな。」


そう言って若干むくれている様子の轟くん。ヴッ…………あれだけ私が心配だったと喚いたのにお前は、ですよね、わ、わかります……すいません……。


「ご、ごめんね……気をつけます……。」


「あぁ、そうしてくれ。…………何見てたんだ?」


そう言うと私の手元を覗き込む轟くん。


「……単語帳?」


「あ、うん…………期末テストもうすぐで、その……勉強しないとだから。」


気を抜くと赤点だから……なんて言葉は無理矢理にでも飲み込む。超名門の雄英に通っている轟くんに、大して高くもない偏差値の高校へ通っているのに赤点なんて、口が裂けても言えない。


「そうか、頑張れよ。……でも歩きながら見るまでしなくて良いだろ。」


「うっ…………。」


「…………もしかして、テストヤバいのか?」


「…………………………………………。」


なんでこう、いともあっさりと。


私の飲み込んだ事実を引っ張り出してしまった轟くんは、私の表情を見て固まった。


「あ………………俺で良ければ教えようか?」


「…………え?」


「範囲同じなら、たぶん。…………嫌なら全然、」


一瞬、私の中で天秤が揺れた。


何がなんでも赤点を回避するために、優秀な友人を頼るか。


いやしかし、情けない面を見せてしまうことになる。なんなら呆れさせる自信がある。ここはやはり自分のプライドを守って、


なんて天秤はあっさりと、赤点回避と言う激重案件のせいで傾いた。


「お、お願いします!!」


「ぅお、」


「と、轟くんが呆れるぐらいに馬鹿な自信あるけど、」


「え、そ、そうなのか、」


「でも、頑張るから!!!」


そう言うと、何回かぱちくりと目を瞬かせた轟くん。しかしその後おかしそうに笑った。


「ふふ、わ、わかった。俺も勉強しないとだから、一緒に頑張ろうな。」


や、優しい…………っ!!


この時私の中での最低目標が決まった。


こんなにも優しい轟くんに見捨てられないよう、全力で食らいつくことと。