勘違いオンパレード

「……あれ?轟くん、どこか行くの?」


「あ………………あぁ。」


「だ、大丈夫!?なんか顔色悪いけど、」


「大丈夫だ、全然。凄く元気だ。」


心配してくる緑谷にそう返す。本当の事なんて言えやしない。緊張し過ぎてろくに眠れなかったなんて。


「嘘だろう!?明らかにいつもと違うじゃないか!」


「全然、平気だ。」


「ほら平気って言ってる!!本調子では無いんだろ!」


「……………………元気だ。」


「ちょ、出かけるの辞めときなよ轟くん。」


悪いがそれは出来ない、緑谷。


今日は必死になって掴んだチャンスの日。苗字と出かけられる日なんだ、寝不足だろうがなんだろうが行かないなんて選択肢はどこにも無い。


「心配させて悪いな。……でも俺は行く。」


「いやいや、辞めときなよ轟くん……そこまでして行きたいなんて、どこに行くの?」


「……図書館。」


「図書館!?!?いや、また今度にしよう!?」


「駄目だ。」


「駄目なの!?」


緑谷の気持ちも充分わかる、でもただ図書館に行くわけじゃないんだ。


「悪い、そろそろ時間だから、」


「え、ちょ、…………って時間?誰かと一緒なの?」


「あぁ、苗字と。」


「苗字さん…………なるほど、それで…………え?待って轟くん。」


「なんだ。」


「2人で行くの?」


「あぁ。」


「え!?ふ、2人で!?そ、そんなのまるでデートじゃ」


顔を赤くした緑谷がそんな事を口走ると、


「え!?なになに、轟今からデートなの!?」


「マジか!!流石、イケメンは違ぇなぁ!!」


「クソ………………イケメン…………滅びろ…………。」


「てか彼女いたんだ!?知らなかった!!」


思わぬ形でクラスメイト達に広まり、慌てて訂正する。


「そんなんじゃねぇよ。ただ委員会の仕事で、」


「とか言ってぇ!隠さなくて良いんだよ!!」


いや、ほんと、違うんだ芦戸。俺が必死に頑張ってもデートに誘う事なんて、到底出来そうにない。


「ほらほら!彼女待たせちゃダメだよ!」


「いや、ちょ、違ぇから、」


芦戸に背中を押され、


「轟ちゃんの彼女…………どんな子かしら?」


「もうすんごーーい美女なんじゃないかな!?轟くんと並び歩いてもお似合いな!」


蛙水と麗日の想像を止めることも出来ず、


「ほら!行ってこいよ!!」


切島が寮の扉を開けると、


「………………あ、轟くん!」


苗字がいて。俺の周りを囲むようにしているクラスメイト達を見て、ぱちくり目を瞬かせている。


「…………え!?轟のかの、んぐ!?」


「え!?この子って委員会同じって言ってた……そうか、お前らつきあ、んぐぅっ!?」


何か口走ろうとした芦戸と上鳴の口を手で塞ぐ。


「あ、え、えっと……?轟くん……?」


「……………………。」


「…………ごめんよ、轟くん……。」


……緑谷、もう遅せぇよ。





約束の時間になったら、寮まで迎えに行く。


そうメッセージが届いていたのに、約束の時間から15分経過しても一向に来る気配の無い轟くん。


……寝坊、とか?スマホを開いたり閉じたりしてもメッセージ1つ来ない。寝てるのかな。


しかしいつまでもこうして待っている訳にもいかないので、私はA組の寮に向かって歩き出した。


A組の人たちとは何度か会話を重ねたので、お互い顔見知り程度ではある。


とりあえず中に入って誰かに聞いてみよう、爆豪くん以外で。


なんて思って扉の前に着くと、何やらがやがやと騒がしい。


朝から元気だなぁ、そう思ってドアノブに手を伸ばすと内側から開かれ驚いてしまう。


するとクラスメイト達に囲まれるようにして現れた轟くん。しかしながら様子がおかしい。話し出した芦戸さんや上鳴くんの口元を張り倒さん勢いで塞いでる、こ、怖い。


「と、轟くん、お2人苦しそうだよ。」


もがもがと藻掻く2人を見て言えば、暫く考え手を離した轟くん。目付きが悪いよ、轟くん。


「……悪い、迎えに行くって言っといて。」


「あ、いやいや。それは全然!行こっか!」


A組の皆さんに失礼しました、と頭を下げて背を向けると、


「げほげほっ…………ったく轟ぃ、隠さなくてもいいんだぜ?なんなら手でも繋いでいけよ!!」


「げほっ…………そうだよ!!誰も僻んだりとかしないって!はぐれないようにさ!ぎゅっとね!!」


…………ん?


手?


なんの事かわからず振り返れば、轟くんは俯いてて。その奥に佇んだ緑谷くんはなんだかとんでもない顔をしている。


そして先程離した芦戸さん達は、クラスメイト達にヘッドロックを決められてる。え!?


「ええ、えっと、苗字さん!!さ、さっきのはちょっと違うって言うか、」


「え?」


緑谷くんがいつの間にやら目の前に来て、あわあわと話す。


「そ、そう!!ちょっと2人勘違いしちゃってな!!ほんと!!違うんよ!!」


麗日さんもそれに合わせてあわあわと違う違う、と言われる。違うって?あと2人ともすっごい轟くんの様子を伺ってるな。


…………手でも繋ぐ、かぁ。なんでそんな事言われたんだろう。はぐれないように…………。


ん?はぐれないように?…………もしかして、轟くんは方向音痴とか?


だからはぐれないように繋いでいけと?でも恥ずかしいよなそんなの、しかも方向音痴を露呈して。


…………なるほど、それで轟くんは怒ってしまったのかな。それで緑谷くんと麗日さんがフォローしてる。なるほど!!わかったぞ!!


「轟くん!」


「…………苗字、悪い。嫌な気持ちに」


「はい、手繋いで行こう!」


轟くんへ手を差し出す。


「………………………………は?」


「え!?き、聞いてた!?苗字さん!?」


「ち、違うんよ!!色々と!!」


「うん、わかったよ。大丈夫!私図書館までの道ちゃんとわかるから。轟くんがいくら方向音痴でも大丈夫。でも、目を離した隙にはぐれちゃったら嫌だから手を繋ごう!」


これが正解でしょ!!そんな気持ちでA組の皆さんを振り返れば、なんとも言えない表情。……………………あれ?


「………………ふふ、あははは!」


「……と、轟くん。もしかして私盛大な勘違いでも起こした?」


「あぁ、起こしてるな。」


「や、やっぱり……!!」


「でもまぁ、良いんじゃねぇか。」


差し出した手を轟くんが握る。


「行くか。」


「え、あ、ちょ、違うなら手は、」


「はぐれねぇように握っといてくれよ。」


「……あれ?本当に方向音痴?」


「……どうだろうな。」


「え、ちょ!!轟くん!!」


「………………苗字さんって、天然なのかな。」


「そうだね、天然じゃないと今の発言は出てこないね…………でも轟くん笑ってた、良かったぁ……。」


「あれ?結局どういう事?」


「2人とも、勘違いしてるわ。轟ちゃんの様子で気づくべきだったけれど……あの2人は本当に付き合ってないのよ。」


「「え!?」」


「だから轟くんは変なこと言わないで欲しかったんだろうけど…………いや、元々デートとか言った僕が悪いんだ……。」


「いや、デクくんはそんな……私だって思うよ、休日に2人で出かけるなんてデートやん!!って。」


「……だよねぇ。ありがとう、麗日さん。」


「ううん。……でも、仲がいいんだねあの2人。轟くんがあんなに笑ってるの初めて見たや。」


「僕も。…………好きなんだろうなぁ。」


「片想い、かぁ。…………辛いなぁ。」


「え?楽しいものじゃないの?片想いって。」


「うーん………………楽しいけど、辛いもんやと思うよ。」


「…………?そ、そうなんだ……。」


「……………………うん、楽しいし、辛い。」

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