名無しの関係
「A組の皆って仲良しだねぇ。」
「……まぁ、そうだな。」
図書館へと向かう道中、苗字が楽しそうに言った。
「最初会った時は怖い人ばっかりかと思ってた。」
「気性が荒いのは爆豪ぐらいじゃねぇか?」
「出た……爆豪さん…………。」
「なんだ、知ってんのか?」
「知らない人なんていないんじゃないかな!?話したことは無いけども……私A組の教室入った時、爆豪さんが目の前にいたら気絶する自信あるよ。」
「っふふ、どんなだよ。そこまで怖ぇ奴じゃねぇよ。」
「それは轟くんからしたらでしょ!私のような非戦闘民族からしたら、力のある人達は轟くんみたいに優しくないと、怖いなって思っちゃうよ。」
優しい、か。
そう見えてんのなら良かった、欲に塗れているのが見抜かれていないのであれば。
現に今も、繋いだ手を離せないままでいる。苗字の優しさに付け込む俺は卑怯者だ。
◇
「よし、探そうか!ジャンルは小説……お、大まかだね。」
「大体が小説なんじゃねぇか?他は辞書とか、図鑑とか。」
「確かにそうだよね、図書室の本も小説多いし……何か面白そうなものが無いか片っ端から見てみようか。」
「あぁ。」
轟くんと並び、静かな図書館を歩く。……そう言えば轟くんは有名人だったの忘れてた。チラチラと見られているが本人は気づいてるのかな。
確か彼のお父さんはプロヒーローエンデヴァーで、その上彼自身も体育祭で毎年優勝争いをしてるものだから、雄英生じゃなくても彼の事を知ってる人は多い。
そんな有名人の隣に並び立つのは、少しばかり私には荷が重いなぁ……縮こまる思いである。
「……苗字。」
「うん?」
「これ、どう思う。」
見せられた小説を見て、目を見開く。
「あ、これ私好きなシリーズだ。」
「え、そうなのか。……俺も読んでる。」
「そうなの?……と言うか轟くん本読むんだ。」
「割と好きだぞ。……このシリーズ書店でも人気だから、図書室置いたら喜ばれそうだけど。」
「確かに!うわぁ1巻は懐かしいなぁ、……1巻は確か……この辺が好きで……。」
「……どこ?」
「えっとね、」
開いた小説をパラパラ捲り、思い出と照らし合わせながらお気に入りのシーンを探す。
「あ、ここ……で……」
見つけたので轟くんを見上げると、至近距離で私の持つ小説を覗き込んでいた。
「っ!!?」
「うぉ、ど、どうした。」
「いいい、いや!?お、思ってたより、ち、ちかくて、あ、あの!」
あせあせと、まるで先程の緑谷くんのように目を泳がせてしまう。
すると私の口元へとやって来た轟くんの人差し指。
「……静かに、図書館だぞ。」
身を屈めて、私としっかり目を合わせて言われる。
んぐっ。なんて本当に可愛げ無い声を洩らして黙る。な、何その仕草。か、かっこよすぎる。イケメンがやってはいけない行動だ、皆恋に落ちてしまうよ。
「ご、ごめん…………騒いでしまった……。」
「ん、気にするな。じゃあこれ先生に報告しよう。」
「そうだね、案外あっさり決まったなぁ。」
「もう少し見てくか?」
「え、いいの?」
轟くん、時間とか。なんて聞けば、これ以上ない優しい笑顔でいくらでも。なんて答えられて、本が好きな私は歓喜してしまう。
私は嬉々として本棚に齧り付く、あ、これ読みたかったんだよな。そんな小説を見つけて、手を伸ばすが悲しきかな、全然届かない。
脚立ー……と周囲に目を向ければ、別の本棚を物色していた轟くんと目が合い、
「どうした?」
「え、と、届かなくて……。」
「どれだ?」
「あれなんだけど……。」
指差せば轟くんが背伸びもすること無く取ってくれた。
「ありがとう、ごめんね。席行って読んでるから、」
「ん、後から行く。」
轟くんに背を向けて、席へと向かう。
…………なんだろう、今日の轟くんはなんだか、空気感がいつもよりずっと柔らかい気がする。雰囲気もなんか、甘いというかなんと言うか。
ただえさえ初めて見た私服……寝巻きは除きます。だったので、それだけで男の子と2人で出かけた事なんてない私は心臓バックバクである。
その上あの雰囲気、まるでデートにでも来た………………辞めよう、これ以上は。轟くんのファンに暗殺されるぞ。
「あれ、まだ読んでなかったのか。」
目の前の席にやって来た轟くん、未だ開かれず私の手の中にある小説を見て目を丸くした。
「あ、うん。ちょっと考え事してて……。」
「……なんか悩みか?」
「いや、悩みってほどでもないかな。」
命が惜しいので考えるのを放棄したしな。
「そうか、……何かあったら相談乗るぞ。俺も乗ってもらったし。」
「……うん、ありがとう。」
今日も轟くんは優しい。
不思議だなぁ、こんな凄い人と私休日を共にしてる。
……彼がプロヒーローになったら、誰かに自慢しよう。彼と同じ委員会だったんだよって。……それは自慢になるのかな。
でもそれ以上に私達の関係を伝える言葉はない、精々友達?……年に数回しかろくに関わらないけれど。
思っていたより寂しい私達の関係性、それでも良いと思った。この優しく穏やかな友達との時間を思い出にできるのなら。