守りたくて守られて
「ご、ごめんね!夕方まで付き合わせちゃって。」
「いや、全然。俺も本読むの好きだったから楽しかった。」
本当はそれどころじゃなかったけどな、なんて本音は無理やり喉に押し込む。
平常心なんてどっか旅行に行ってしまったかのような1日だった、用事は午前のうちに済んでしまったが、まだ本を読みたそうな苗字を見て、勇気を出して昼飯一緒にどうだ、なんて誘えば嬉しそうな笑顔が返ってきて、眩しかった。
初めて一緒に飯を食べて、緑谷の言葉が蘇り赤面した。デートって。……これはデートだろ。なんて機能してない脳みそがおかしな判断をしていた。
そして夕方まで読み耽り、先程やっと図書館を出た。
実際本を読んでた時間はどの程度だろう、……真剣に文字を追う苗字を見ていた時間の方が長かったかもしれねぇ。そんなことに気づいてしまって、なんとも気持ち悪い自分に嫌気が差した。
「図書館は久々に行ったけど楽しかったなぁ!」
「そうだな、中々行く機会ねぇし。」
「ね、提案する小説図書室に並べてくれると良いね。」
「あぁ。」
にこにこと楽しそうに笑みを浮かべる苗字に癒されながら家路に着く。すると
「…………え?何この音。」
苗字の笑顔が曇る。ハッキリとは聞こえないが、微かにどこかで破壊音がする。
「え、ヴィ、ヴィラン!?」
「わかんねぇ、けど…………俺は様子を見てくる。苗字は先寮に戻っててくれ。」
「え!?で、でも、」
「大丈夫、俺は戦える。……巻き込みたくねぇから。」
「……わ、わかった。気をつけてね、……あと、帰ってきたら無事に帰ってきたよって連絡して欲しい。」
心配しながら、そんな可愛いことを言われてつい頬が緩みそうになる。
「あぁ、わかった。すぐ片付けて連絡する。」
眉間にシワが寄ってしまった苗字の頭を数回撫で付け、俺は音のする方へと走った。
◇
暴れていたのはチンピラのようなヴィラン、大した力は無さそうだが、民間人を脅して力を誇示している。
……強盗とかではねぇのか。ただ力を見せつけたいだけ。
「お?やっと来たのかヒーロー!!…………ってお前まだガキじゃねぇか。」
「……緊急時、だよな。」
俺は服を捲り、戦闘態勢へと入る。
「お前、知ってるぞ。雄英の轟だろ。将来有望なヒーローの卵!!テレビで見たぞ?」
ヴィランは2人か、民間人はほとんど避難した。個性は……。
「でもまぁあれだな。ヒーローの卵ったってまだまだ青臭い、青春してたい年頃だよな。」
そう言って片方が火を吹いてくる。……相性悪いな。
それを避けて、着地すると
「可愛い彼女と青春してたいよなぁ、わかるぜ?」
今度はもう片方が水を吹いてくる。
それも避ければ、俺の目を疑う光景が現れた。
「んぅ、んー!!」
「こらこら暴れんなお嬢さん、可愛い顔が台無しだぞ?」
3人目のヴィランが現れ、巨大化した手の中に、
口元まで締められ苦しそうにもがいている、苗字を掴んでいた。
「苗字!!!」
「おっと、手荒な真似はすんなよ?俺がびっくりして力でも入れちまえばこの子の体はボッキボキ。全身骨折しちゃうかもな。」
奥歯を噛み締めて、怒りを抑える。油断していた、俺と苗字が別れた所まで見られてたのか。
「有望なヒーローの卵。ここで潰せば明日のニュースは1面お前の死亡で埋まるな!!」
下品な笑いをする3人のヴィラン。
「そんじゃ、まぁ。焼き殺すか?」
「そうだな、お嬢さん。彼氏の最期だ。ちゃんと見届けとけよ?」
クソっ、どうする、どうする。一気に氷結で足を止めても火を使われて溶かされる、それまでに苗字を取り返せるか怪しい。
炎を使っても同じだ、水に消される。……ほんと相性最悪過ぎんだろ……!
「んぅ!!んぅーー!!!」
暴れる苗字。苦しいよな、怖いよな。……ごめん、俺と一緒にいたから、
「はは!!絶望的な顔だな、その顔が見たくて」
ごめん、ごめん。そんな後悔に駆られていると途絶えたヴィランの声。
俯いた顔を上げて見ると、苗字を掴んでいた手は通常の大きさに戻っていて、苗字は抜け出し、こちらへと駆け出していた。
なんで、急に個性が解けて。いや、それより今なら全員拘束を、
いや駄目だ氷結だと溶かされる。
「げほ、轟くん、凍らせて!!」
「だが火で、」
「大丈夫!!」
苗字の声に、何故そこまで言いきれるんだ。と苗字を見れば、赤く光る瞳。
…………もしかして
「さっき俺の個性見てなかったのか!?んなもん溶かして」
またもヴィランの言葉は途切れ、あれ、だのなんで、なんて言葉を飲み込み氷漬けにした。
頭まで凍らせば、何も出来ねぇ。ほっと一息つき、苗字の方を見れば腰が抜けたのか地面に座り込んでいる。
「苗字、大丈夫か!?」
「と、……と、轟くん…………。」
ガタガタと可哀想になるぐらい震えている、思わずそのか弱く小さな体を抱き締めた。
「悪かった、お前まで襲われると思わなくて、」
「……ううん、……轟くん、助けてくれたから、」
「助けてくれたのはお前だろ、…………個性、持ってたんだな。」
「…………うん、でも、全然使う事ないから使えるか心配だったの…………良かった。」
そう言って震えながらも笑った苗字。本当に、助けられたのは俺の方だ。……情けねぇ。
「立てるか?」
「……うん、なんとか。」
苗字の腕を引き、なんとか立ち上がらせる。
そこにやって来たプロヒーローに現状などを報告し、俺達は再び帰路に着いた。
◇
「……なぁ、あの個性。」
手を繋ぎ、寮へと向かう途中。ふと気になったことを言葉にした。
「……うん?」
「相澤先生と一緒か?」
「相澤先生って、イレイザーヘッドの事だよね。……うん、そう。でもちょっと違くて。」
「そうなのか?」
「うん、私は目を合わせないと個性消えないんだ。あと瞬きは関係無くて5分間。」
「そうなのか……。」
5分間と言うのは中々強いが、目を合わせる。というのがそもそも難しい。……目を合わせるために、注意を引くためにヴィラン達の前で暴れたのか。
「……ごめん、出過ぎたことを。」
「そんな事ない、俺は助けられた。」
「…………そっか、良かった。」
やっと震えも落ち着いた苗字は、安心したように微笑んだ。
守りたかったのに、守られてしまった。俺にはそんな傷跡を残した1日となった。