子猫

「……………?」


「どうしたの?轟くん。」


「あ、いや…………。」


「……あれ、あそこにいるのってこの間うちのクラスに来た……。」


「……あぁ。」


「図書委員さんだっけ?轟くんに用事あって来てたんだよね。」


「あぁ。」


グラウンドへの移動中、木の下で何かしている苗字を見つけた。


上を見上げて…………何かが木に引っかかったのだろうか。困ったように右往左往している。


「……悪い、緑谷。先行っててくれ。」


「え、うん!わかった。……遅れないようにね!」


「おう。」


緑谷が先へ行ったのを見送り、俺は木の下へと向かう。


「何してんだ?」


「ひっ!!」


ひっ……って。そんなに怖がらせる事でもしただろうか。


「あ、と、轟くん……、こんにちは。」


「ん、お、こんにちは。」


「えっと……あそこ見える?」


苗字の指差す方向を見上げると、何かが動いている。


「…………猫?」


「そうなの、子猫がね迷い込んじゃったみたいで。見つけたは良いんだけど木登りなんてした事ないし、待ってても怯えて降りてこないし、困ってて……。」


「なるほどな……。」


確かに、木登りなんてしそうにないな。なんて見るからに優等生な苗字を見て思う。


とは言え困っているようなので助けてやりたい、こちらは何度か迷惑を掛けている身でもある。


「ちょっとこれ持っててくれ。」


「え?あ、う、うん。……こ、これ凄く大事なものなのでは!?」


慌てる苗字に首を捻る。


「コスチュームだけど……?」


「こ、コスチューム!!ヒーロー科のコスチュームなんて、凄く大事な、」


「別に、怪我すれば破れるし、訓練中に壊すことだってある。そこまででもねぇよ。とりあえず持っててくれ。」


「う……は、はい。」


俺の持つアタッシュケースを恐る恐る受け取る苗字。


「……そんな怖がらなくても、爆発とかしねぇから安心しろ。」


「え!?あ、はい!!」


「…………ふふっ。」


なんだこれ、怯え過ぎて逆に面白く見える。


ひとしきり笑って、木の上にいる子猫を見る。


……よし。


俺は助走をつけ、地を蹴り、木の幹から枝へと飛び移った。


突如現れた俺に驚き逃げようとする子猫を、そっと持ち上げすぐに木から飛び降りる。


「す、……凄い!!」


「お。」


「凄いね轟くん!!」


「お、……そうか?」


「うん!!私はあれだけ悩んでも何も出来なかったのに……凄い、一瞬で助けちゃった。」


「……そもそもこいつ見つけて、助けてやりたいと思ったのは苗字だろ。」


「それはそうだけど、私にはあんな動き出来ないから…………良かったね、木から降ろしてもらえて。」


俺の腕の中でキョトン。としている子猫に向かって話しかける苗字。


子猫を覗き込むようにしている為、自然と俺達の距離は近くなり、


…………遠目に見るより、小さく見えるな。


なんて、子猫に夢中な苗字を見て思ってしまった。ヒーロー科にいる女子は皆逞しいからだろうか、筋肉とは縁もゆかりも無さそうな苗字は、より華奢で小さく見える。


「ありがとう、轟くん。この子離してあげようか、きっと自分でかえってい………」


苗字の言葉が途切れて見ると、俺を見て固まってた。


「どうした?」


「…………な、なんでもないです!!」


そう叫ぶと俺から距離を取り、子猫を地面に降ろすのを見届けると、それでは!!と言ってコスチュームを俺に返して走り去ってしまった。


暫く呆然としていたが、あいつのおかしな言動に笑えてくる。


怯えてるかと思ったら凄い褒めてくるし、自分から迫ってきたかと思えば真っ赤になって逃げて行った。


ふふ、と零れた笑みは中々収まらなくて、グラウンドへと向かいながらも苗字の事ばかり考えた。

back

top