優しさには優しさを
「じゃあ今日は頼んだぞ、2人とも。ここにある分だけの本を決められた場所に戻しておいてくれ。」
終わったら鍵を職員室に戻しておいてくれー。そう言って先生は出ていってしまって、轟くんと2人きり。
ふ、2人きりとかそういう言い方をするな。ほんとに、轟くんのファンに暗殺されたいのか。
「じゃあ始めようか!」
「あぁ。」
私達は机の上に積まれた本を手に取った。
◇
「大丈夫か?苗字。」
声を掛ければ、汗を拭いながら笑顔で平気!と返ってくる。
自分でも言っていた通り、体力が無さそうな苗字。現に俺はまだ体を動かし足りないぐらいに思うが、苗字は汗をかなりかいていて、息切れもしている。
「休んでてもいいぞ?あと辞書とかばっかりで重いだろ。」
「大丈夫だよ、轟くんだけに任せるなんて申し訳ないし。」
そう言って苗字は本棚の前から立ち上がるが、
「ぅわ、」
そんな小さな声が聞こえて本から目を離して、苗字を見ると同時に聞こえたゴンッ。と言う音。
「苗字!?」
「いたたた…………。」
「大丈夫か!?」
「う、うん……ほんと鈍臭くて………恥ずかしいや。」
どうやら立ちくらみでも起こしたようで、立ち上がると同時に目の前の本棚に頭を打ったようだ。
「どこ打った?」
「えっと、この辺。たんこぶになってそうだなぁ。」
そう言って笑う苗字の頭に右手を当てる。
「え!?轟くん?」
「冷やす、ちょっと待ってろ。」
「大丈夫だよ!こ、こんな事に個性使って貰わなくても、」
「いいから、俺がやりたくてやってる。」
そう言うと、みるみるうちに赤くなった苗字。ほら、すぐそうやって感情が表に出る。
か細い声で聞こえたありがとう。と耳まで赤くなった苗字はなんだか目に毒で。
ただえさえ触れている、もっと、もっとと欲が出てそれを抑えるために素数を数えて冷やすが、
結果として力んだのか、轟くん!!つ、冷たい!!と言われて慌てて手を離すことになる。
◇
キンキンに冷えた私のおデコ。
「悪い…………。」
「い、いやいや!!轟くんの優しさの賜物です、ありがとう。」
そう笑ったが、轟くんはまだまだだな……。と落ち込んだままだった。
「ちょっと休んで元気になったし、残りやっちゃおう?」
「……あぁ。」
まだ少し落ち込んでいる轟くんを引っ張り起こして、私達は本を手に取る。
図書委員とはもっと楽な仕事ばかりだと思ったのにな、本の整理とか思っていたより重労働。
既に日頃使っていない二の腕や、腰が痛みを訴えている。
こんな私に対して轟くんは、相も変わらず涼しい顔で、とりあえず私の倍以上は運んでる。申し訳なさも倍増だ。
やっぱり鍛えている人は違うなぁ……お腹とかもバキバキなのかな。なんて考えて、想像して。
綺麗なお顔の轟くん。そんな彼の肉体美。
!!!
ぼん、顔から湯気が出そうなほど熱くなる。
ななな、何を、なんてものを想像してるんだ私は、へ、変態か!!
◇
「……終わったな。」
「お…………終わったね…………。」
「……ふふ、だから休んどけって言ったんだけどな。」
もはや屍となった私を見て笑う轟くん。そんな顔でさえ美形だ。
「ほんとごめん…………有言実行、全然戦力にならなかったや……。」
無駄に頭だけ打っただけだ、轟くんはモリモリ運んでたのに。
「そんな事ない、……鍵返してくるな。」
「あ!そ、それくらいは私が、」
「別に、気にするな。」
「い、嫌です!!これくらいやらせて!!」
あまりに必死こいて言うからか、轟くんはおかしそうに笑って、じゃあ頼んだ。と鍵をくれた。
「よし、鍵閉めた。……今日はお疲れ様!また委員会でね、」
図書室を閉めて、すっかり窓の外が暗い事に驚きながらも彼に別れを告げる。
「え?」
しかし轟くんは首を傾げていて。え?
「ど、どうしたの?」
「………………あ、いや……。」
え?
「…………寮まで、一緒に戻らねぇか?」
目をぱちくり瞬かせてしまう、え?な、なんでだろう。
私と彼は違うクラス、間にB組を挟んでいるので隣の寮という訳でもない。
大まかに、学校を大まかに見れば一応同じ方向ではあるが、一緒に戻るほどでも、
そこまで考えてから轟くんを見ると、心做しか顔が赤く見える。
…………え!?
な、なんでだ。待て待て、考えろ。こんな事を轟くんが言ってくるなんて初めての出来事で処理落ちしてしまう。
少なくとも、言いにくそうにしていたのと顔が赤いのから考えて、勇気を出して言ってくれたのは事実だろう。
なら、なんで。…………もしかして、仲良くなろうとしてくれている?
でも確かに、どうでも良い人の事を助けるだろうか。子猫の時も然り、今日のことも然り。
だから、恐らく、轟くんは私のことを悪いやつとは思ってないんだ、だから、
「う、うん!一緒に戻ろう、職員室行ってくるから待っててもらってもいい?」
「あぁ、わかった。」
なんか色々考えてしまったが、轟くんの少しだけ嬉しそうな笑顔を見て、なんだかどうでも良くなってしまう。
彼はそもそも優しい人だ、そんな轟くんが仲良くしてくれようとするのに理由なんていらない。
私も轟くんの優しさに応えられるよう、彼にはめいいっぱい優しさを持って接しよう。
良い友人を持てたなぁ、……友人って呼んでいいのかな。なんて思いながら私は職員室へと向かったが、
その間轟くんは図書室の前で、首まで赤くして項垂れていたなんて。私は知ることの無い彼の秘密だ。