ストレス低減係
……………………状況を確認しよう!
星が綺麗なので夜中の散歩に出た、轟くん発見。
話しかけてみた、返事が無い。あれ?抱き締められた。
…………いやいやいやいや。
全然わからない、どうしたよ轟くん。声をかけても無視されるし、体を離そうとしてもとんでもない力で抱き締められてるので、無謀だと感じる。
えぇ、なんでこんな事に…………。
初めて見た寝巻きの格好にイケメンは寝巻きでもかっこいいのか……凄いな…………。なんて思って、わ、私も寝巻きで轟くんの前に現れてしまった!恥ずかしい!!なんて慌ててたらこれです、どういう事だ。
なんか轟くん良い匂いするし、力強い腕に抱き締められてそろそろ心臓が止まってしまいそうだ。とにかく、離してもらわないと。私達はこんな事する間柄じゃないんだし、全然。
……………………ん?もしかして、誰かと勘違いしてる?
轟くんがこんな事……抱き締めたりとかするような間柄のどなたかと私を勘違いした、と言うのは無いだろうか。
私が一方的に話しかけただけで、轟くんは私の名前を呼んでない。…………それかもしれない。
「と、轟くん!!私、苗字です!!」
ばんばんと背中を叩いて教えてあげる、彼女とかじゃないですよ!!なんなら彼女さんに見られたら修羅場になるので離してください!!
「轟くん!!私は彼女さんとかじゃなくて、苗字です!!」
「………………っふふ、」
「え!?」
笑った!?
「……わかってる、ふふ。わかってるよ、お前が苗字だって。なんで、急に……ふふ、自己紹介……。」
◇
意味がわからなさすぎてつい笑ってしまう、私は苗字ですってなんだよ。相変わらず思考回路が謎過ぎるな、苗字は。
さっきまで嫌われたら、とか色々考えてたのに全部吹っ飛ぶような面白さ。ほんと、無駄に色々考えて馬鹿みてぇだ。
「悪い、急に抱き締めたりして。」
散々感じた体温を解放してやる、すると俺の肩にも満たない身長だった為か、ぷは。と俺の胸板から顔を上げた苗字。
…………やっぱちいせぇな、こいつ。
「ぜ、全然大丈夫…………ですけど、なんでこんな事……とかは気になったんだけど……?」
「いやその前に聞かせてくれ、さっきなんで自己紹介して来た?彼女さんとか、」
「あ、え、えっと、轟くんが私を抱き締める理由が全然わからなくて、誰かと勘違いしたのかな……と。彼女さんとか。く、暗いし!!見えなかったのかなって。」
そういう事か、……まぁそこまで考えるのも仕方が無い。本当にそんな関係じゃねぇもんな俺ら。
「そうか…………悪かった、本当に。あと彼女はいねぇ。」
覚えといてくれ、彼女はいねぇし…………お前なら募集中だ。とは言えないが、念を押していた事もねぇよ。と伝える。
「え!?そうなの!?轟くんモテモテだから彼女いると思ってた。」
「……別に、好きじゃない人と付き合わない。」
「せ、誠実…………えっと、じゃあなんで?」
続かなかった言葉は、なんで抱き締めたの?だろう。
そんなの、答えようがない。答えてしまえば強制的に告白だ。流石にそれはちょっと、さっき自覚したばかりだしな。
「…………ちょっと、精神的に、弱ってて。」
「え?……な、何かあったの?」
「…………訓練の方で上手くいってなくてな、今日もその事考えてたら眠れなくて。」
咄嗟に出たのはあながち間違いでもない内容だった、優しい苗字は真剣に話を聞いて、
「そっか…………大変なんだね。」
真面目に心配してくれている、ごめん、苗字。邪な気持ちで嘘ついてごめん。
「だから…………その、」
「あ、わかるよ。ハグってストレス無くすって言うし。……誰でも良いから抱きしめたくなっちゃったんだね。」
それはただの変態だぞ、苗字。
あまりに疑わずに全てを受け取る苗字、そんな事を見知らぬ誰かに言われても信じてしまいそうで心配になる。
「それに、好きな人とハグするとストレスが3分の1になるとか!友達同士でも有効なのかわかんないけど、ストレスには効きそうだね。」
なんなら轟くんの気が済むまで抱き締めてもらってもいいよ!なんて言って腕を広げた苗字だったが、突如吹いた夜の秋風に身を縮こまらせた。
「その格好寒いだろ。」
「う、うん…………冷えてきたね。」
「寮戻ろう。風邪引くぞ。」
「え……、折角轟くんと会えたのに。」
……………………なんだと?
「残念だけど、仕方ないね。……轟くんが風邪引いちゃったらいけないし。……えっ?」
思わず踵を返そうとする肩を掴む。
「轟くん?」
「…………俺の左側暖めてやれる。から、」
ごめん、苗字。もう少しお前の優しさに付け込ませてくれ。
「……ストレス減らしてくれねぇか。」
そう言うと、お易い御用です!と腕を広げた苗字に遠慮無く抱きつき、幸福感に浸った。
しかしながら人間は貪欲な生き物で、抱き締め続ければどんどん欲が顔を出し、むしろ辛くなっていくのだった。