むかしむかし
「という訳でお前らには集まって貰った訳だが、」
そう言って僕達を見渡す相澤先生。
しかしながら僕達は魔獣の森を抜ける事に体力を使い過ぎたので、今にも寝そうだった。
「おい、起きろ。……今からするのは大事な話だ。」
真剣な表情で先生が言うものだから、皆僕も含めて固唾を飲んだ。
「内容は、苗字の事だ。体育祭や期末テストを経てお互いの個性や戦闘力について分かってきたところだろう。」
確かに、入学当初より遥かに皆の個性を理解出来た。その上で思う。
「苗字の個性について。そして戦闘慣れしてる事について。今日苗字のそばで見ていた緑谷、轟はよりそう感じたと思うが、」
「……僕達より戦闘力が異常に高い。」
「そうだ、とは言え異常でも何でもない。そこら辺は努力の賜物としか言いようがねぇが……1番大事なのはそこじゃなくて、今日ピクシーボブが言ってた事だ。」
「……自分を大切に、って話ですか?」
「あの個性、強過ぎるわ。期末テストの時に思ったけれど自由がかなり効く個性。だからこそ何かハンデでもあるの?」
麗日さんと蛙水さんが首を傾げる、確かに、その話も気になる。
「あぁ、そこも含めて話しておきたい。あいつには皆に話す事は伝えてあるが、……まぁ自分がいたら話しにくいだろう、と席を外してる。」
「…………。」
隣に座っている轟くんは静かに眉間に皺を寄せた。どことなく苗字さんを気にしてる轟くんは、きっと僕より内容が気になることだろう。
「いいか、俺がお前らに話す理由はクラスメイトを欠けさせない為だ。」
「……どういう事だよ。」
珍しくかっちゃんが声を上げた、苗字さんの事興味無さそうだったのに。
「使いようによっては、クラスメイトが欠けるかもしれない。そんな個性の話だ。お前らにはそれを聞いた上で頼みたい。そういった事態にならないようお前らが見ておいてやってくれ、止めてやってくれ。」
「……なんだかわかんねぇけど、仲間を大事にすんのは当たり前だぜ先生!!」
「おう!!全員でプロヒーローになろうぜ!!」
「……あいつにも、そんな日が来た時そう言葉をかけてやってくれ。」
少しだけ笑った相澤先生は、件の話を始めた。
◇
「強い!!今日も強いです!!母のヒーロー名!!」
「お母さん!!」
「あら、名前!!」
強くて綺麗で皆を守るお母さんは、私の自慢だった。
そして、お母さんの個性を受け継ぎ、私の個性も自慢だった。
母はそこそこ名の知れたヒーローで、多くの人に愛されていた。
しかし
ある日のこと、大人数のヴィランが組み、立てこもり事件を起こした。
その対処に当たったのは母だった。
警察と協力し、なんとか人質を救出出来たが、激昂したヴィラン達に襲われ母は
『いい?名前。私たちの持つ個性は代々受け継がれたもの。特別な個性。』
『少しだけ扱いが難しいけど、私が名前を1人前にするからね!!』
『それともう1つ。他の個性とは大きく違うことが出来る、いや、出来てしまうの。』
『そ れ は ね』
その、他の個性とは大きく違うこと。のお陰でヴィラン達は倒すことが出来、民間人もそして警察も1人足りとも死傷者を出さずに解決した。
その代償は
「ごめんね、名前。…………もうお母さんヒーロー出来ないんだ。」
鮮明に覚えてる。
あの事件以降もヒーロー活動を懸命に母はこなしたが、やはり支障があった。そして
目から涙を流し、肌は掻きむしりボロボロで、体は痩せ細り、部屋中暴れ回ったかのような、母の苦しみが見えるような部屋の中、
母は自害した。
私達の持つ個性の特徴は、氷の造形が出来るということ、そしていざとなった時、必殺技とでも言えば良いのか。いや、それほど安易に使ってはいけない技だ。絶体絶命の時にのみ使える技があった。
絶対氷結、そんな名前だった。その技のおかげで母はヴィラン達を氷漬けにし、そして民間人に手を出させなかったのだという。
そのヴィランの数、100は超えてたそうだ。今の私には考えられない数。
しかしながらそんな技、何がどうして民間人や警察に危害を加えず撃てたものか。
言ってしまえば轟くんだって頑張れば出来そうなレベル、しかし彼もまた傍に人がいると大技は使えない。そんなハンデがある。
これもまた技の特徴で、絶対氷結は己の思う敵にのみ発動する技なのだ。
要するに、民間人と警察は味方。そしてヴィランは敵。それだけで絶対氷結は判断され、ヴィランのみを氷漬けにした。
その光景は圧巻だったらしい。
けれどそんな便利な技、ぽんぽん撃てる訳もなく代償が必要だった。
それは、発動者の個性因子が消えること。
ひとつ残らず、消えるそうだ。要するに無個性になると言うこと。
その為母はヒーローを続けられず、人を助け人に愛されることを生きがいとしていた母は、精神的に地に落ちて、そして自ら命を絶ってしまった。
そしてあの日から私は天涯孤独。もどき。
何故か親戚達への縁は絶たれていた。……恐らく、推測だが祖父母はヒーロー活動に批判的だったのではないかと。
父は話に聞く限りヒーローとして、人を救い、犠牲になったと聞いた。そして母も。
ヒーローとは孤独なものだ。命を張るが故に身内からは批判的な目を向けられる。
心配が故に、愛故に。
結果として私は保護施設へと入れられ、高校入学とともに施設も卒業。
期待してる人なんか居ない。施設の子供も親がヒーローだった為に施設にいる、なんて子が多くいた。
だから、口が裂けても言えなかった。ヒーローになりたいって。雄英に入りたいって。
面倒を見てくれた施設長にだけ話した。勿論、止められた。
それでも、なりたかったんだ。明るく眩しい世界で笑う母が忘れられなかったから。
憧れに、なりたかったから。
「…………まぁ、どうかしてるよなぁ。」
皆がこの話を聞いたらどう思うかな、やっぱりどうかしてる。と思うのだろうか。
音のない部屋で、皆から批判的な目を受ける想像して少しだけ泣いた。
大丈夫、慣れてるよ。そんな事。
大丈夫、大丈夫。
その声は、自分だったのか母だったのか。