3.2.1....
どっどっどっ、と元気にそして忙しなく動く左胸にそっと手を当て深呼吸をした。
ぜ、絶対、絶対受かるぞ……!!そう意気込み私は雄英の門をくぐった。
◇
「おい、受験者の中にエンデヴァーの息子がいるらしい!」
「は!?マジかよ、勝てる気しねぇよ……。」
「いやいや、勝たなくてもいいだろ。とりあえず出来るだけ上位の成績残せば受験通るだろうし。」
確かになー!なんて言って笑う他校生を遠目に見る。
よ、余裕か……?お主ら余裕なんか…………?
エンデヴァーの息子、と言うワードには少し気にもなったがそれどころじゃない。本当にそれどころじゃない。
他人が誰の子供とか、どこの学校から来たとかそんなの気にしてる余裕なんて全然ない。とにかく受験の事で頭はいっぱいいっぱい。こんな緊張してて個性発揮出来るかな……。
なんてわいわいと騒ぐ人々の中に紛れ、待合室で左胸を抑えていると、ひらり。
宙を舞ったのはハンカチ。ひらひらとハンカチは空気を纏いながら地に落ちてしまった。
誰のだろう、周りの人々は気づいていないようで誤って踏んでしまうかもしれない。そう思って急いで拾い上げる、するとハンカチが落ちてきた方向に立っていた男の子。
もしかしてこの人のだろうか、なんとも奇抜なヘアカラーをしているが話しかけただけでキレるような輩じゃありませんように……!そう願い、
「……あ、あの、」
「…………?」
ちょんちょん、と肩を叩いて声を掛けるとゆっくり振り返った男の子。
思わずひぃ!!と声を上げそうになったがなんとか留まった私を誰か褒めてくれ、頼む褒めてくれ。
それ程までに目付きが悪かった、否、睨まれていたような感覚。
「あああ、あの、これ、お、お、落としましたか!!?」
半ばハンカチを押し付けるように差し出すと、……あぁ、と言って自分のポケットに無いことに気づいたのか受け取った彼。
「悪い、ありがとう。」
「え、あ、……はい。」
まさか素直にお礼を言われるなんて思わなくて、つい拍子抜けしてしまった。
「…………あんたも推薦受けんのか。」
「…………え!?は、はい!」
いや会話続くんですか!!もう終わったと思ったよ!!
ビクゥ!!と体を震わせながら勢いよく返事をした、凄く恥ずかしい、凄く。
「緊張し過ぎだろ。」
「え、えぇ!?そ、そうですかね…………受験に失敗したら、と思うとゾッとするから余計に……。」
「……別に人生終わるわけじゃあるまいし。」
「いやそれはそうだけど!!」
私からしたらこのチャンスは大き過ぎるチャンスなんだ、確かに人生は終わらないけど、私のヒーローへの道は閉ざされる、気がする。
「…………あんたも、期待とかされてんのか?」
「え?期待?」
「…………親とか。」
そう言った目の前の彼は苦しそうな、辛そうな表情を浮かべていた。
……そっか、彼は期待されてここに来たのか。
「……その、君は期待される事が嫌?」
「嫌とかじゃねぇ、……ただあいつのものとして扱われたりあいつの力で肯定したくない。」
どこへ行ってもあいつの子供としてしか見られねぇしな。その言葉にハッと思ったが気付かないふりをした。
「そっかぁ……、……私は誰にも期待されてないよ。」
「……雄英の、推薦枠なのに?」
「うん、でも誰も期待してない。落ちるだろうと思われてるし、落ちたところでだろうなって言われるだけ。」
雄英に入って喜んでくれるような人は、とうの昔にいなくなってしまったから。
「だから、きっと私はあなたより気持ちが楽…………なはずなのになぁ。」
左胸の次はキリキリ痛む胃を抑えて、平然と佇む彼を見た。君本当に期待されてるの?プレッシャーとか感じたことある??
「…………ふふ、」
「……え?」
「ふふ、あははは!!」
突然笑い始めた男の子に青ざめる、え、ど、どうしよ、なんにも面白いことなんか言ってないのに、え!?
どど、どうしよう、私が彼をおかしくしてしまった!?え!?け、消される!?消し炭にされる!?どこぞのエンデヴァーさんに!?あ、やべ言っちゃった!!
「ふふっ…………あんた面白いな。」
目に涙を浮かべるほどまで笑われて、男の子はそう言った。え?
「えぇ……?面白いかな……?」
「あぁ、面白い。…………ちゃんと雄英受かれよ。」
「うぅっ、い、胃が、胃が痛く……!」
「お前とまた会える日を楽しみにしてるからな。」
そう笑みを残して去っていった男の子。
胃の痛みもどくどくうるさい心臓も止まないけれど、ほんの少しだけ楽しみに思った。
全然知らない彼の、笑った顔がもっと見てみたいって思ったから。
彼との学校生活をもぎ取りたいって、思ったんだ。