聞いて聞いて
かっちゃん達の救出から2週間が経過し、僕達の寮生活も段々と落ち着いてきた。
だけど、全てが平和に終わった訳ではなくて。
オールマイトの引退。それは日本中を不安へと陥れる事となった。
また、寮生活もヴィランへの対策として始められたので、楽しんでばかりいる訳にはいかない。
そしてもう1つ。
「……あ、轟くん。」
「ん、なんだ。」
「………………今日も行くの?」
「あぁ、行ってくる。」
「そっか、行ってらっしゃい。」
轟くんは毎日、欠かさず苗字さんの元へと行っている。
救出されたその日から目を覚まさず、病院で眠っている苗字さんの元に。
「…………なんかあれやね、入学当初は苗字さんが轟くんの事気になっとって、もしかして好きなんかな!?とか思っとったんやけど、」
「今となっては轟ちゃんも…………も、もしかして両想い……!?」
「きゃああ!!…………早く、苗字さんに言いたいなぁ。」
「…………そうね、また顔を真っ赤にして怒る名前ちゃんが見たいわ。」
「……?何の話だ、」
「うわああ!!?轟くんは気にしなくていいよ!行ってらっしゃい!!」
クラス内で密かに噂されている轟くんと苗字さん。
この2人をくっつけたいと思われていたり、何か接点がある度に話題にされてると本人たちは知らない。
その為不思議そうな顔をして、蛙水さん達の元に向かった轟くんには焦ってしまった…………今は不謹慎だしね。
きょとん、としたまま行ってくる。と言い残し背を向けた轟くんを見送り、僕は自室へと戻った。
◇
苗字、と書かれた病室の扉を開ける。
真っ白な部屋、真っ白なベッド。
その中で眠るのは、昨日と変わらない様子の苗字。
「…………苗字。」
傷は治り、出血も治まったがかなりの重篤状態だったらしく、今も尚苗字はここで眠り続けている。
「苗字。」
長いまつ毛に白い肌。閉じられた瞼に隠されるのは、喜怒哀楽が色濃く映る瞳。
「……最初会った時は、なんて弱そうなやつなんだって思った。」
ずっと緊張しっ放しで、震える手でハンカチを差し出してきた。
誰にも期待されてない、そう言った時のあの瞳は、悲しみを映した瞳の意味を漸く最近知った。
きっとお前が雄英に入る事を最も期待し、喜んでくれるのは母親だったんだろう。
最期を見届けても尚、憧れのままであり続ける彼女の母親に会ってみたかった。そう思わされた。
「でもお前、強かったな。」
期末テスト、そして合宿までの道中。柔軟さと瞬発力を兼ね備えた接近戦の上手さ。
氷と共に戦う姿は、俺の目に焼き付き、少しの憧れを生んだ。
俺達と話す時とは違う瞳、冷静さと敵意を映す瞳。
そして戦闘が終われば、いつものように轟くん!と笑いかけ、造形に失敗して破顔したり、ありがとう、と嬉しそうに笑うのだ。
俺の気も知らないで「ちょっと轟くんの事好きになった。」なんて簡単に言い放つ。
「…………ほんと、勘弁してくれよ。」
するり、眠る苗字の顔に手を滑らせる。
「ちょっと、だけじゃなくて。」
溢れた欲にもう蓋は出来なくて、伝えたいと押し付けたいと暴れ出す。
「……………………好きだ。」
誰の耳にも届かぬ愛は、空気の中に溶けていった。