聞いて聞いて

かっちゃん達の救出から2週間が経過し、僕達の寮生活も段々と落ち着いてきた。


だけど、全てが平和に終わった訳ではなくて。


オールマイトの引退。それは日本中を不安へと陥れる事となった。


また、寮生活もヴィランへの対策として始められたので、楽しんでばかりいる訳にはいかない。


そしてもう1つ。


「……あ、轟くん。」


「ん、なんだ。」


「………………今日も行くの?」


「あぁ、行ってくる。」


「そっか、行ってらっしゃい。」


轟くんは毎日、欠かさず苗字さんの元へと行っている。


救出されたその日から目を覚まさず、病院で眠っている苗字さんの元に。


「…………なんかあれやね、入学当初は苗字さんが轟くんの事気になっとって、もしかして好きなんかな!?とか思っとったんやけど、」


「今となっては轟ちゃんも…………も、もしかして両想い……!?」


「きゃああ!!…………早く、苗字さんに言いたいなぁ。」


「…………そうね、また顔を真っ赤にして怒る名前ちゃんが見たいわ。」


「……?何の話だ、」


「うわああ!!?轟くんは気にしなくていいよ!行ってらっしゃい!!」


クラス内で密かに噂されている轟くんと苗字さん。


この2人をくっつけたいと思われていたり、何か接点がある度に話題にされてると本人たちは知らない。


その為不思議そうな顔をして、蛙水さん達の元に向かった轟くんには焦ってしまった…………今は不謹慎だしね。


きょとん、としたまま行ってくる。と言い残し背を向けた轟くんを見送り、僕は自室へと戻った。





苗字、と書かれた病室の扉を開ける。


真っ白な部屋、真っ白なベッド。


その中で眠るのは、昨日と変わらない様子の苗字。


「…………苗字。」


傷は治り、出血も治まったがかなりの重篤状態だったらしく、今も尚苗字はここで眠り続けている。


「苗字。」


長いまつ毛に白い肌。閉じられた瞼に隠されるのは、喜怒哀楽が色濃く映る瞳。


「……最初会った時は、なんて弱そうなやつなんだって思った。」


ずっと緊張しっ放しで、震える手でハンカチを差し出してきた。


誰にも期待されてない、そう言った時のあの瞳は、悲しみを映した瞳の意味を漸く最近知った。


きっとお前が雄英に入る事を最も期待し、喜んでくれるのは母親だったんだろう。


最期を見届けても尚、憧れのままであり続ける彼女の母親に会ってみたかった。そう思わされた。


「でもお前、強かったな。」


期末テスト、そして合宿までの道中。柔軟さと瞬発力を兼ね備えた接近戦の上手さ。


氷と共に戦う姿は、俺の目に焼き付き、少しの憧れを生んだ。


俺達と話す時とは違う瞳、冷静さと敵意を映す瞳。


そして戦闘が終われば、いつものように轟くん!と笑いかけ、造形に失敗して破顔したり、ありがとう、と嬉しそうに笑うのだ。


俺の気も知らないで「ちょっと轟くんの事好きになった。」なんて簡単に言い放つ。


「…………ほんと、勘弁してくれよ。」


するり、眠る苗字の顔に手を滑らせる。


「ちょっと、だけじゃなくて。」


溢れた欲にもう蓋は出来なくて、伝えたいと押し付けたいと暴れ出す。


「……………………好きだ。」


誰の耳にも届かぬ愛は、空気の中に溶けていった。

top ORlist