記憶の隠れんぼ

心臓を酷使し、胃もなんとか穴も開かず乗り切った推薦入試から数ヶ月。


私は今、あの時出会った彼こと轟くんと同じ教室にいるのだが、


「……?苗字?」


「…………轟くん、私達ってどこかで会ったことあるよね?」


「…………?」


「おい何轟ナンパしてんだお前。」


「違うよ!?ナンパじゃないよ上鳴くんじゃあるまいし、」


「俺だってそんな見境なくやる訳じゃねぇけど!?」


違うんだ、本当に。彼は本当に思い出してくれてないようでずっと1人で首を傾げてる、あれれれ……。


「……間違い無く、会ったんだけどなぁ。」


「それはお前の妄想なんじゃねぇの?」


「いやだってこんな衝撃的なヘアスタイル忘れられないよ。」


「……まぁ、確かになぁ。」


ふむ、と頷く切島くんに頷く。間違うわけが無い、彼とは会ったはずなのに話したはずなのに。


少なくとも彼と同じクラスだといいなぁ、なんて思って私は入学式を迎えたのに。


…………悲しいなぁ。


「…………その、悪い。」


「え!?」


「俺が忘れちまって…………悲しそうな顔してたぞ。」


「え!?あ、いや…………うん、ちょっと悲しいけど、忘れちゃったものは仕方ないよね、その程度の女だったって事だよね!」


「お前その言い方だと轟に捨てられた女みたいだぞ。」


「上鳴くんはうるさいよ。」


そう言うとケタケタ楽しそうに笑われた、完全に馬鹿にしてるなこの人。


「……思い出せるよう、努力する。」


「あぁー!!全然気にしないで!大丈夫!!もしかしたら同じ髪型の誰かと間違えたのかもだし!!」


「いやそれさっき自分で」


「だから轟くんは気にしないでね!!」


切島くんの口を手で塞いで、にこー!!と笑ってみせた。


轟くんは何も悪くない、と、思う。わざと忘れたフリとかされて無ければ……。





「ねぇ、名前ちゃん。」


「うん?どしたの梅雨ちゃん。」


「名前ちゃんは轟ちゃんが好きなの?」


「…………違うよ!?」


一瞬フリーズして、全力で否定する。何言ってんの!?


好きか嫌いかで言えば好き、なのかもしれないがそれはたぶん梅雨ちゃんの言ってる好き、では無いだろう。


私の好きは、もっと知ってみたい話してみたいって言う好きだ。それは皆に思ってる。


「違うの?」


「違うよ!!」


「えー?私も轟くんの事狙ってんのかと思ってた!!」


「違うってぇぇえ!!!」


すると便乗して来た芦戸さんに頭を抱える、や、辞めてくれこのままだと轟くんのご迷惑にさえなる……!!


「でも私もそう思ってたなぁ、入学早々大胆やなー!って!」


そこにまた便乗して来た麗日さん。……そんなにナンパっぽく見えたのかな、上鳴くんの言ってた通りで。


「ぜ、全然違うよ?ただ……推薦試験の時に話したはず、なんだけど……なんでか全然覚えてないみたいで。」


「話したのはその1回きりなの?」


「……そう、だね、1回きり。」


「いやむしろよく覚えてたね!?」


「わ、忘れられないよあんな見た目の男の子!!」


何より焼き付いたのはあの髪色とオッドアイだが、……去り際に残した笑顔はただただかっこよくて、優しい笑みでそれも忘れられなかった。


そして入学して再会してもやっぱり思った、彼はとても端正な顔立ちをしてるって。


「確かに、轟くんイケメンやもんなぁ。」


「ね!クラス1のイケメン!」


「…………名前ちゃん、それ本当に恋じゃないの?」


「ち、違うってえええええ!!」

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