記憶の隠れんぼ
心臓を酷使し、胃もなんとか穴も開かず乗り切った推薦入試から数ヶ月。
私は今、あの時出会った彼こと轟くんと同じ教室にいるのだが、
「……?苗字?」
「…………轟くん、私達ってどこかで会ったことあるよね?」
「…………?」
「おい何轟ナンパしてんだお前。」
「違うよ!?ナンパじゃないよ上鳴くんじゃあるまいし、」
「俺だってそんな見境なくやる訳じゃねぇけど!?」
違うんだ、本当に。彼は本当に思い出してくれてないようでずっと1人で首を傾げてる、あれれれ……。
「……間違い無く、会ったんだけどなぁ。」
「それはお前の妄想なんじゃねぇの?」
「いやだってこんな衝撃的なヘアスタイル忘れられないよ。」
「……まぁ、確かになぁ。」
ふむ、と頷く切島くんに頷く。間違うわけが無い、彼とは会ったはずなのに話したはずなのに。
少なくとも彼と同じクラスだといいなぁ、なんて思って私は入学式を迎えたのに。
…………悲しいなぁ。
「…………その、悪い。」
「え!?」
「俺が忘れちまって…………悲しそうな顔してたぞ。」
「え!?あ、いや…………うん、ちょっと悲しいけど、忘れちゃったものは仕方ないよね、その程度の女だったって事だよね!」
「お前その言い方だと轟に捨てられた女みたいだぞ。」
「上鳴くんはうるさいよ。」
そう言うとケタケタ楽しそうに笑われた、完全に馬鹿にしてるなこの人。
「……思い出せるよう、努力する。」
「あぁー!!全然気にしないで!大丈夫!!もしかしたら同じ髪型の誰かと間違えたのかもだし!!」
「いやそれさっき自分で」
「だから轟くんは気にしないでね!!」
切島くんの口を手で塞いで、にこー!!と笑ってみせた。
轟くんは何も悪くない、と、思う。わざと忘れたフリとかされて無ければ……。
◇
「ねぇ、名前ちゃん。」
「うん?どしたの梅雨ちゃん。」
「名前ちゃんは轟ちゃんが好きなの?」
「…………違うよ!?」
一瞬フリーズして、全力で否定する。何言ってんの!?
好きか嫌いかで言えば好き、なのかもしれないがそれはたぶん梅雨ちゃんの言ってる好き、では無いだろう。
私の好きは、もっと知ってみたい話してみたいって言う好きだ。それは皆に思ってる。
「違うの?」
「違うよ!!」
「えー?私も轟くんの事狙ってんのかと思ってた!!」
「違うってぇぇえ!!!」
すると便乗して来た芦戸さんに頭を抱える、や、辞めてくれこのままだと轟くんのご迷惑にさえなる……!!
「でも私もそう思ってたなぁ、入学早々大胆やなー!って!」
そこにまた便乗して来た麗日さん。……そんなにナンパっぽく見えたのかな、上鳴くんの言ってた通りで。
「ぜ、全然違うよ?ただ……推薦試験の時に話したはず、なんだけど……なんでか全然覚えてないみたいで。」
「話したのはその1回きりなの?」
「……そう、だね、1回きり。」
「いやむしろよく覚えてたね!?」
「わ、忘れられないよあんな見た目の男の子!!」
何より焼き付いたのはあの髪色とオッドアイだが、……去り際に残した笑顔はただただかっこよくて、優しい笑みでそれも忘れられなかった。
そして入学して再会してもやっぱり思った、彼はとても端正な顔立ちをしてるって。
「確かに、轟くんイケメンやもんなぁ。」
「ね!クラス1のイケメン!」
「…………名前ちゃん、それ本当に恋じゃないの?」
「ち、違うってえええええ!!」