満身創痍
轟くんとの連携で相手を追い詰めても、追い詰めても痛みなんて感じないのか、狂ったように攻撃してくる。
そのせいでクラスメイトたちはボロボロ、先生だって彼らを守って満身創痍。
他にも緑谷くんや、梅雨ちゃん。それに分断されたクラスメイトたちの姿は見えない。けれど絶対状況は芳しくない。
早く、早く倒して状況見に行かないと。
最悪の事態。母の最期を思い出して、ぞっとする。
もうやめてよ、そう思って凪いだ鎌はあっさり掴まれ木々を薙ぎ倒して吹っ飛ばされる。
「苗字!!!」
脳無はこちらを優先的に殺す事としたのか、地面に打ち付けられろくに呼吸の出来てない私の目の前へとやって来て、
「ウアアアア!!!」
腕を私に突き刺そうと振り下ろし、
――今ここ、観覧場所だったここにいた脳無はあと1体。こいつのみ。
他の場所にあと何体いるか、ヴィラン連合の連中が何人いるのかわからないが、恐らく脳無はここが1番多いだろう。知能が低く、とりあえず人の多いところに来るだろうから。
それなら、
殺されそうだと言うのに自分はこれ以上なく冷静で、臓器を出来るだけ外した位置に、脳無の腕をめり込ませた。
「うっ、ぐあっ!!」
「っ苗字!!!」
吹き出す血に気を取られる暇もない、自分の体にめり込んだ脳無の腕を掴み、凍らせる。
少しでも、時間を。
「轟くん、こ、り、こおり、ちょうだいっ、」
「氷!?わかった、すぐに。」
暴れる脳無を凍らせ続けながら、氷山にかぶりつく。
体が冷えていくのがよくわかる、これなら、ゼロ距離なら。
「とどろ、き、くん、はなれて、」
「苗字………………わかった。」
遠くへと駆けていった轟くんを見送り、口から冷気を零す。
「絶対外さない。」
声を荒らげて暴れる脳無を私の体ごと凍らせて固定させ、
ゼロ距離、頭部を狙って全てを白に変えた。
◇
離れて、そう言われてからすぐ辺り一面雪景色へと変わった。
「……苗字だな。」
「……たぶん。」
クラスメイト達を守って、身体中ボロボロの先生。
頼れる教員は学校に残ってない、……俺達でやらねぇと。
そう思っていると見えた人影。
「っ苗字!!」
「と、とどろ、き、」
膝から落ちた苗字。その体は真っ白で、腹からの出血を更に赤く見せた。
「……苗字、死ぬな。絶対に死ぬな、苗字。」
「諦めんな、絶対に生きて学校に帰るぞ。」
服を傷口に当てて、俺と先生は目を閉じてしまいそうな苗字に声をかけ続ける。
「と、轟、くん、」
「っなんだ!?」
「きず、やいて。」
「……は?」
「傷…………大丈夫、死なない。でもまだ動かないと、だから」
「馬鹿言ってんじゃねぇ!!!」
自分でも驚く程に激昂した、それほどまでに抑えられなかった。
今にも死にそうな面しておいて、何言ってんだ。
死にに行くようなもののために、誰が、
「ごめん、でも、」
ドクドク、血を垂れ流す苗字が体を起こして、俺の目を見る。
「絶対死なないって、約束するから。…………お願い。」
どうして、そこまで。そう考えてから気づく。
人を助けるのに、理由なんて無い。
苗字は、ここにいないクラスメイト達の事を考えている。
いつものような弱々しかったり、緩く笑みを浮かべるような瞳ではない。意志を強く持った瞳。
「………………わかった。」
人の傷を焼くなんて、やったことが無い。それを、そんな危険な事を初めてやるのが、好きな人だなんて。
「……ついてねぇな。」
服を捲らせ、傷口に左手をかざす。
ジュ、と言う音ともに苗字の激痛に耐える叫びが、口元に咥えられた衣服に消えていく。
ごめん、ごめん。お前にこんな事させてごめん。
そんな謝りたくなるような、こちらが泣きたくなるような方法で傷を塞ぎ、出血を止めた。
「っふぅ、っふぅ、あ、ありが、とう。」
「……大丈夫か?」
「…………思ってたより、楽勝だった。」
「嘘つけ、震えてるぞ。」
ガクガク震えている腕を掴み、見せると困ったように笑った。
「轟くん、行こう。」
「……あぁ。」
「……教師としては、止めなきゃなんねぇ、けど。今この状態で知能の無い脳無へ抵抗しないとやられるだけだ。…………頼んだぞ、お前ら。」
「はい!」
「はい。」
俺は苗字の腕を取り、走り出した。
二度と奪わせない。そんな誓いを力に込めて。