好きでした
「梅雨ちゃん!!」
音のする方へ走っていると吹っ飛んできた梅雨ちゃん。
なんとか受け止め、焼いてもらった傷が痛んで思わずうっ!!とか言ってしまった。仕方ない!!
やはり焼いてもらって正解だった、前回の敗因は恐らく失血。今回はそこまで失血する前に強制的に傷を焼いてもらった。
女としてどうなんだ、とか思ったけれどもうそんな事考えてられる余裕なんてない。
「大丈夫!?」
「蛙水!!」
「え、えぇ……でも、緑谷ちゃんと、お茶子ちゃんが……。」
急いで梅雨ちゃんを起こして、3人で現場へと向かう。しかし
「な、なんで……。」
私の予想は大きく外れ、先程脳無に勝利を収めた場所より多い数の脳無が暴れ回っていた。
「っ緑谷!!」
「轟くん!!苗字さんも!!」
飛び回っていた緑谷くんが降りてきて、
「麗日さんを!!」
「っえ、」
緑谷くんの指した方を見ると、血を流し地に伏せている麗日さん。
ぞわ、血の気が引く。
「麗日さん、麗日さん!!」
大きく揺さぶり、声をかけるが目を覚まさない麗日さん。
「さっき僕を庇って……脳無の攻撃が直撃したんだ。」
悔しそうな表情で言った緑谷くん。そんな……。
「とにかく、麗日を早く先生の方へつれて、」
「ウアアアア!!!」
「っ、」
轟くんが急いで氷壁で脳無を防ぐが、軽々壊されこちらへ向かってくる。
「……っまずは倒さないと戻れない!!」
「……倒そう!!」
私は拳を手のひらに打ち付けた。
◇
「えぇ?マジですか。脳無あんだけ連れてきたのに。」
最後の一体を倒したところで、現れた。金髪の、ヴィラン。
まずい。そう思っても体はもう動かなくて、ガス欠で。それは私だけじゃなく、皆そうで緑谷くんや轟くんも動けそうに無かった。
「まぁ、目的は達成出来そうなので安心です。」
そう言うと、私に近づいてくるヴィラン。
「一緒に来てください、あなたの個性欲しいんです。」
「……まだ、諦めて……。」
「はい、弔くんはこの個性は保険として最優先で手に入れたい。との事です。なので、一緒に来てください。」
ぐっ、腕を引っ張られて足を動かされる。
「っ苗字……!」
「と、轟、くん、」
「変なことは考えないでください、まだ脳無は残ってます。目的を達成したら脳無を連れて帰りますので、他の人を救いたいなら一緒に来てください。」
まだ、いるの?一体を倒すのにも途方もない時間をかけて戦ったというのに、こちらはもうガス欠で動けないのに、まだ、あんな怪物が、
でも、私の個性を奪われる訳にもいかない。相手の強みにされてはいけない、せめて、せめて足を引っ張る訳には、
「あ、こっちに来ましたね。」
その言葉に振り返ると、こちらに走ってくる脳無達。
先生の元にいなかったのは、爆豪くんや切島くん、上鳴くん。
恐らく分断された先に脳無が行ったという事は、3人は、
………………え?
ガクガク震え出す体。
もう、戦える人なんて残ってない。一か八かここで手を振り払って先生の元へ戻っても、先生だって満身創痍。他のクラスメイト達だって。
それに戦闘力の高い緑谷くん、爆豪くん、轟くんが既に戦闘不能状態な時点で、かなり、いや最悪な状況。
どうしたら、どうしたら。私がヴィランの元へ行き、ここは手を引かせる?
いやでも、前回のようにすぐ助けに来て貰えなかったら、私の個性は奪われ、ヒーロー側の足を引っ張る。
それにもう、オールマイトはいないんだ。
それにジーニストだって先の戦いで重症を追った、私が、捕まらなければ、
どうする、どうする。感情なんて二の次だ、まずは今この状況の打開策を、
「さぁ、来てください。脳無が皆を殺しちゃう前に。」
腕を引かれて、引きずられるようにして連れていかれる。
「っ苗字!!」
轟くんが、こちらに手を伸ばす。そんな、顔、
その手を掴みたくて、足を止めそうになるが、目の前に現れた脳無にそんな思考は消え去る。
「下手なことしなければ、誰も殺しませんよ。」
さぁ。そう言われて腕を引かれる。
連れ去られれば、ヴィランに個性を奪われ恐らく殺される。
でも今抵抗すれば、攻撃も出来ず脳無にみんな諸共殺される。
そんなの、そんなの、どうするどうする、どうしたら、私は、こんな時どうしたら、おかあさ、
『気づいたら、使っていたの。』
『え?』
『絶対氷結は使わないって、何があっても使わないって決めてたのに。多くの守るべき人達を前にしたら、使わずにはいられなかった。』
『でも、それでお母さんは……。』
『……えぇ。後悔もしてるわ、それでもあの日の、あの日助けた人達の笑顔。それが忘れられなくて。』
『だから、名前。』
『絶対に使わない、その意思は重要よ。それでもね、』
『ヒーローというのは、人を、救う人のことを言うのよ。』
『……心のままに生きなさい。』
足を止めた私。ヴィランは煽るようにして言う。
「そうですか、脳無にお友達が殺されても良いんですね。」
皆に、轟くんに迫る脳無の鋭利な腕。
ごめんなさい、お母さん。
ヴィランの腕を振り払い、油断した顔面をぶん殴る。
すると、どろっ。その実態は泥人形のようなもので、すぐに壊れた。
ヴィラン連合の個性…………でも、脳無は本物。状況は変わってない。
轟くんと脳無の間に体を滑り込ませる。
ごめんなさい、守るって言ってくれてありがとう、こんな私を受け入れてくれてありがとう、1-Aの皆。
意識を集中させ、腕を体の前で交差させる。
「……苗字?」
ごめんなさい、誰一人欠けさせたくないって言ってくれたのに、いつも私たちの無事を最優先としてくれた相澤先生。
吹雪始める風と雪。警戒した脳無達が距離をとる。
「……おい、苗字。辞めろよ、それだけは、」
「苗字、さん!!駄目だ!!個性を失うなんて、」
「お願い、やめて、名前ちゃん。私達守るって決めたの、あなたのこと、」
皆ボロボロなのに、私のことを案じてくれる。
その優しさに、どれだけ救われたか。
ありがとう、…………本当にありがとう、皆と過ごせて幸せだった。クラスメイトが皆で本当に良かった。
勢いを増す風と雪。
それらは徐々に形を持ち、氷へと変わっていく。
「っ苗字!!お前、やめろ、ヒーローになれなくなる!!」
「それでも、皆を失うよりは。」
ここで、何も出来ず足を引っ張り、ヴィランに殺されるぐらいなら、
未来に希望を残して、生き永らえたい。
それに、何より、
「…………私は、あなたを、……轟くんを失いたくない。」
「……え、……?」
ごめんなさい、ごめんなさい。誰より心配してくれて、誰より守ってくれた。
強く優しいヒーローに、あなたならきっとなれるでしょう。
そんな轟くんのヒーローに、私はなりたい。
「ごめんなさい、轟くん。」
あなたの全てが好きでした。
「……っ頼む、辞めろ……っ!!」
轟くんの悲痛な叫びを聞きながら、私は笑顔を浮かべた。
さようなら、轟くん。
零れた涙が、氷に変わる。