好きでした

「梅雨ちゃん!!」


音のする方へ走っていると吹っ飛んできた梅雨ちゃん。


なんとか受け止め、焼いてもらった傷が痛んで思わずうっ!!とか言ってしまった。仕方ない!!


やはり焼いてもらって正解だった、前回の敗因は恐らく失血。今回はそこまで失血する前に強制的に傷を焼いてもらった。


女としてどうなんだ、とか思ったけれどもうそんな事考えてられる余裕なんてない。


「大丈夫!?」


「蛙水!!」


「え、えぇ……でも、緑谷ちゃんと、お茶子ちゃんが……。」


急いで梅雨ちゃんを起こして、3人で現場へと向かう。しかし


「な、なんで……。」


私の予想は大きく外れ、先程脳無に勝利を収めた場所より多い数の脳無が暴れ回っていた。


「っ緑谷!!」


「轟くん!!苗字さんも!!」


飛び回っていた緑谷くんが降りてきて、


「麗日さんを!!」


「っえ、」


緑谷くんの指した方を見ると、血を流し地に伏せている麗日さん。


ぞわ、血の気が引く。


「麗日さん、麗日さん!!」


大きく揺さぶり、声をかけるが目を覚まさない麗日さん。


「さっき僕を庇って……脳無の攻撃が直撃したんだ。」


悔しそうな表情で言った緑谷くん。そんな……。


「とにかく、麗日を早く先生の方へつれて、」


「ウアアアア!!!」


「っ、」


轟くんが急いで氷壁で脳無を防ぐが、軽々壊されこちらへ向かってくる。


「……っまずは倒さないと戻れない!!」


「……倒そう!!」


私は拳を手のひらに打ち付けた。





「えぇ?マジですか。脳無あんだけ連れてきたのに。」


最後の一体を倒したところで、現れた。金髪の、ヴィラン。


まずい。そう思っても体はもう動かなくて、ガス欠で。それは私だけじゃなく、皆そうで緑谷くんや轟くんも動けそうに無かった。


「まぁ、目的は達成出来そうなので安心です。」


そう言うと、私に近づいてくるヴィラン。


「一緒に来てください、あなたの個性欲しいんです。」


「……まだ、諦めて……。」


「はい、弔くんはこの個性は保険として最優先で手に入れたい。との事です。なので、一緒に来てください。」


ぐっ、腕を引っ張られて足を動かされる。


「っ苗字……!」


「と、轟、くん、」


「変なことは考えないでください、まだ脳無は残ってます。目的を達成したら脳無を連れて帰りますので、他の人を救いたいなら一緒に来てください。」


まだ、いるの?一体を倒すのにも途方もない時間をかけて戦ったというのに、こちらはもうガス欠で動けないのに、まだ、あんな怪物が、


でも、私の個性を奪われる訳にもいかない。相手の強みにされてはいけない、せめて、せめて足を引っ張る訳には、


「あ、こっちに来ましたね。」


その言葉に振り返ると、こちらに走ってくる脳無達。


先生の元にいなかったのは、爆豪くんや切島くん、上鳴くん。


恐らく分断された先に脳無が行ったという事は、3人は、


………………え?


ガクガク震え出す体。


もう、戦える人なんて残ってない。一か八かここで手を振り払って先生の元へ戻っても、先生だって満身創痍。他のクラスメイト達だって。


それに戦闘力の高い緑谷くん、爆豪くん、轟くんが既に戦闘不能状態な時点で、かなり、いや最悪な状況。


どうしたら、どうしたら。私がヴィランの元へ行き、ここは手を引かせる?


いやでも、前回のようにすぐ助けに来て貰えなかったら、私の個性は奪われ、ヒーロー側の足を引っ張る。


それにもう、オールマイトはいないんだ。


それにジーニストだって先の戦いで重症を追った、私が、捕まらなければ、


どうする、どうする。感情なんて二の次だ、まずは今この状況の打開策を、


「さぁ、来てください。脳無が皆を殺しちゃう前に。」


腕を引かれて、引きずられるようにして連れていかれる。


「っ苗字!!」


轟くんが、こちらに手を伸ばす。そんな、顔、


その手を掴みたくて、足を止めそうになるが、目の前に現れた脳無にそんな思考は消え去る。


「下手なことしなければ、誰も殺しませんよ。」


さぁ。そう言われて腕を引かれる。


連れ去られれば、ヴィランに個性を奪われ恐らく殺される。


でも今抵抗すれば、攻撃も出来ず脳無にみんな諸共殺される。


そんなの、そんなの、どうするどうする、どうしたら、私は、こんな時どうしたら、おかあさ、


『気づいたら、使っていたの。』


『え?』


『絶対氷結は使わないって、何があっても使わないって決めてたのに。多くの守るべき人達を前にしたら、使わずにはいられなかった。』


『でも、それでお母さんは……。』


『……えぇ。後悔もしてるわ、それでもあの日の、あの日助けた人達の笑顔。それが忘れられなくて。』


『だから、名前。』


『絶対に使わない、その意思は重要よ。それでもね、』


『ヒーローというのは、人を、救う人のことを言うのよ。』


『……心のままに生きなさい。』


足を止めた私。ヴィランは煽るようにして言う。


「そうですか、脳無にお友達が殺されても良いんですね。」


皆に、轟くんに迫る脳無の鋭利な腕。


ごめんなさい、お母さん。


ヴィランの腕を振り払い、油断した顔面をぶん殴る。


すると、どろっ。その実態は泥人形のようなもので、すぐに壊れた。


ヴィラン連合の個性…………でも、脳無は本物。状況は変わってない。


轟くんと脳無の間に体を滑り込ませる。


ごめんなさい、守るって言ってくれてありがとう、こんな私を受け入れてくれてありがとう、1-Aの皆。


意識を集中させ、腕を体の前で交差させる。


「……苗字?」


ごめんなさい、誰一人欠けさせたくないって言ってくれたのに、いつも私たちの無事を最優先としてくれた相澤先生。


吹雪始める風と雪。警戒した脳無達が距離をとる。


「……おい、苗字。辞めろよ、それだけは、」


「苗字、さん!!駄目だ!!個性を失うなんて、」


「お願い、やめて、名前ちゃん。私達守るって決めたの、あなたのこと、」


皆ボロボロなのに、私のことを案じてくれる。


その優しさに、どれだけ救われたか。


ありがとう、…………本当にありがとう、皆と過ごせて幸せだった。クラスメイトが皆で本当に良かった。


勢いを増す風と雪。


それらは徐々に形を持ち、氷へと変わっていく。


「っ苗字!!お前、やめろ、ヒーローになれなくなる!!」


「それでも、皆を失うよりは。」


ここで、何も出来ず足を引っ張り、ヴィランに殺されるぐらいなら、


未来に希望を残して、生き永らえたい。


それに、何より、


「…………私は、あなたを、……轟くんを失いたくない。」


「……え、……?」


ごめんなさい、ごめんなさい。誰より心配してくれて、誰より守ってくれた。


強く優しいヒーローに、あなたならきっとなれるでしょう。


そんな轟くんのヒーローに、私はなりたい。


「ごめんなさい、轟くん。」


あなたの全てが好きでした。


「……っ頼む、辞めろ……っ!!」


轟くんの悲痛な叫びを聞きながら、私は笑顔を浮かべた。


さようなら、轟くん。


零れた涙が、氷に変わる。

top ORlist