空気に溶ける

「えー、昨日、苗字は目を覚ましたので退院した。」


「良かった……目覚ましたんだな!」


「でも、大丈夫かしら……、個性を……。」


「……いや、俺らまで落ち込んでちゃ駄目だ!あいつを支えてやんねぇと、」


「その事についてなんだが、」


神妙な面持ちの先生。……どうしたんだ。


苗字が目を覚ました、それ自体は良い話なのに、先生の表情はどことなく苦しそうに見える。


「苗字は今日付けで雄英を退学する。」


「…………………………は、?」


「…………え、なに、それ、」


「……っんでだよ先生!!!あいつ俺たち守っただろ!!」


「そうだよ!!立派なヒーローじゃねぇか!!」


「あぁ。あいつは立派だった、……しかし個性が使えぬのならヒーロー活動は出来ないに等しい。だから俺はエリちゃんの事もあるし、通形と同じように休学したらどうだ、と提案した。」


そうだ、通形先輩だって個性を失ってて。なのになんで退学、


「しかし、あいつは己で判断しわかっていて個性を失ったから、戻してもらうなんて都合が良すぎる。とその提案を拒否した。」


「そんなっ……。」


「苗字さん…………。」


「ならば、と普通科への転入を提案した。雄英を離れずとも良いだろうと。」


「……確かに、それなら私達も会えるし話せるし。」


「退学よりは……まだ……。」


「だが、それも拒否された。」


なんで、苗字。なんでだ。


なんども冷水を浴びさせられているような感覚、体温が下がっていく自覚がある。


「理由は、……自分がお前らのそばに居ると、ヒーローへの道筋の邪魔になる、と。」


「……は、なんだよそれ。」


「舐めてんじゃねぇよ!!先生!!苗字に会わせてくれよ!!」


「落ち着け。……それに、あいつからしても辛い。自分はヒーローになる事を諦めたのに、目指し続けるお前らを何かしら、体育祭などでは見ないといけない。」


「…………たし、かに。」


「それに、自分の姿はお前らに後悔、トラウマ、罪悪感しか生まない。負の存在になっている。だから距離を置くべきだ。と判断した。」


「……でも、それって、苗字さんがあまりにも…。」


「あぁ、……でも、俺がどれだけ説得しても聞かなかった。」


「…………じゃあ、苗字は退学なんですか。」


「……轟くん…。」


「轟ちゃん……。」


「あぁ、今日付けでな。寮も今日出る。」


「え!?さ、最後に挨拶とか、」


「あいつの希望だ、顔も見せずに退学したい、と。」


「なんだよそれ…………最後ぐらい、」


「だって俺達、あいつに助けられたのに……。」


もう、会えない?


ぐらり、世界が絶望へと変わる。


「……あぁ、でも、」


先生の声に、爆発音が被さる。


「おい!?爆豪、何やって、」


「……辛気臭ぇ顔して歩く氷野郎が見えたからな、ムシャクシャしたんだよ。」


……え、


「さっき爆発音に振り返ってこっち見てたからなぁ、アホ面晒して立ち止まってんじゃねぇの。」


その言葉に、椅子を倒す勢いで立ち上がり、教室を飛び出した。





「……あ、轟くん!!」


「わ、私達も!!」


「…………いや、辞めときましょ。」


「なんでだよ、梅雨ちゃん!!」


「名前ちゃんはそもそも顔を合わせたくなくて、授業中に出て行こうとしてるのに、皆で行ったら嫌な思いをさせてしまうかもしれないわ。」


「うっ…………。」


「確かな……。」


「……それに、最後になるかもしれない。轟ちゃんに譲ってあげましょ。」


「……そうやね、……と言うかよく先生見逃してくれたよね。」


「それもそうね、珍しい。」


「…………轟と苗字が、お互いを支え合ってるのは目に見えてた。ひとつのケジメだろ。」


そう言って相澤先生は窓際に立った。


それに並び、皆で窓際に立ち、決してバレないよう名前ちゃんの様子を眺めた。


……助けてくれてありがとう、名前ちゃん。


…大好きだったわ、さようなら。

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