彼女の全てを

「……あ、悪い緑谷。」


「うん?どうしたの?」


「ちょっと呼び出されてて。」


「あ!!なるほど!!行ってらっしゃい!!」


行ってきます。そう言って、一緒に歩いていた寮までの道から外れていく轟くん。


あれから、……苗字さんが学校からいなくなってからも、授業も訓練も止まらない。止まっていられない。


けれど皆の心の中には、苗字さんがいて。


皆笑って、訓練で必死になったりして、彼女が風化するのを待つだけだった。


けれど、轟くんだけは違くて。


「……その、ずっと前から好きでした。つ、付き合ってください……!」


「…………悪ぃ。付き合えない。」


「……あ、そ、そうですか…………好きな人とか、いるんですか?」


「……あぁ、いる。……悪い。」


今日もこうして、彼女を自分に刻みつけて1歩1歩歩んでいく。


…………と言うか僕は何をしてるんだ!?


ここ最近、いや前々から轟くんはモテモテだったけれど、告白現場を覗くようなことは!!


「轟ちゃん、健気ね……。」


「ね…………忘れる気はサラサラない、って感じだ。」


「男を感じるぜ、轟……!!」


いや、皆して何してんの!?!?


「ちょ、ちょっと皆!?ここ、こ、告白現場見に来てどうしたの!?」


「それは緑谷ちゃんもじゃない。」


「うぐっ!」


「……皆、轟くんが心配なんだよ。苗字さんの事凄く大事にしてたから。」


「でもまぁ、ある意味前向いて歩いてんな!轟は!」


「そうかしら?」


「おう!だって、苗字を過去にするんじゃなくて、一緒に生きていこうとしてるだろ?もう迷わずそれ一択って事だ!!あいつはあいつなりに前向いて歩いてるぜきっと。」


切島くんの言葉に、確かに。と気付かされる。


僕達は、苗字さんに対する悲しみばかりが募っていて、悲しきかな彼女の言う通り負の面になってしまっていた。


しかし轟くんは、苗字さんに対する悲しみも、そして寂しさも忘れず、愛しさや思い出も全部抱えて、全てを忘れるつもりなんて無い。そんな気持ちなんだろう。


確かに、告白を断っていた轟くんの表情は、どこか清々しくて、とても立ち止まっているようには見えなかった。


「だからよ、俺達も轟を応援してやろうぜ。例えこの先がどうなろうと。」


連絡のつかない苗字さん、もはやどこにいるかさえわからない。


彼らの先がどうなるかなんて、わからない。それでも僕は、僕達は切島くんの言葉に頷いた。

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