助けて
「いやぁー!食った食った!」
「はぁー、楽しかったなぁ。」
「皆と話すの久しぶりだったもんねぇ。」
「うん、色々近況とか知れて良かったよ。」
「うんうん!」
「轟さん、苗字さんの事分かったらすぐに連絡しますわ。」
「あぁ、頼む。」
「俺も!!探せそうなら探しとく!!」
「あぁ、……ありがとな、皆。」
轟くんは嬉しそうに笑った、一日でも早く2人が再会出来るといいな。……例えそれがどんな結果になったとしても、再会しないと轟くんは前に進めないのだから。
「…………ショート?もしかして、ショートですか!?」
皆でお店の前で話していると、突如話しかけてきた女性。轟くんのファンかな……なんて邪魔かと思いさりげなく距離を取る。
「あ!!で、デクも!!」
「え!?あ、はい!!デクです!!」
「すいません、今プライベートなんで……。」
轟くんは女性に断りを入れる。基本的にプライベートは対応しないよう徹底してるらしい轟くんは、すぐに女性に伝えるが、
「ち、違います!!ヴィランが!!」
「「「!!!」」」
「い、今、助けてくれた女の人が1人でヴィランに立ち向かって行って……!!ひ、ヒーローがいなくて、で、電波もだめでっ……!!」
混乱しているように、それでも懸命に状況を伝えてくれた女性。
「あ、あの女の人、ヒーローでもなんでもなくて、でも……助けてくれて…………ふ、震えてました、怖いと思います、お願いします、た、たすけ」
「ありがとうございます。」
女性の震える手を轟くんが握る。
「助けてきます、伝えてくれてありがとうございました。」
振り返れば既に耳郎さんと、障子くん、口田くんが索敵をしていて、
「見つけた!!あっちで民間人の声が多数!!」
「何やら蠢く触手のようなものが見える、……とにかく現場へ!」
「うん!!ありがとう!!」
僕達はプロヒーローだ、助けを求める人がいるなら助けに行く。
個性を発動し、僕達は現場へと急行した。
◇
「はぁ……はぁっ……。」
「クッソ、しつけぇなお前!!」
何度も民間人を人質に取ろうとする触手を止め続けて、どれほどの時間が経っただろうか。
……ヒーローは、あと、どれくらいで、
「いい加減死ねぇ!!」
飛んできた触手を避けて、殴り上げ、
「ぐっ!!」
バランスを崩した所を、顔面をぶん殴る。
「いっ……。」
コスチュームなんて無くて、今の服装だってオフィスカジュアルだ、戦闘になんて不向きすぎる。動きにくいパンプスは脱ぎ捨てて、足の裏も傷つき痛いし、手の保護具も無いので殴れば痛い。
手も足も、先程吹っ飛ばされて負傷した顔も肩も血を垂れ流し、服もボロボロ。
もうあまり長くは持たない、早く、まだ、まだヒーローは、
なんて思考が油断を作り、
「なんだ?余裕でもあんのか!?」
「!!」
触手が鳩尾に直撃。
「ぐあ!!!」
ゴロゴロと地に転がる。げほ、げほ!!と咳込めば血が地面に散った。
「……民間人の割にはよくやったなぁ、正義感の強い自殺志願者ぁ。」
「…………げほ、げほ。」
ヴィランが迫る、しかしモロに入った鳩尾。動くことすらままならなくて地面で丸まり、血を吐くことしか出来ない。
あぁ、死ぬんだな。
そう思った時、少しだけ、ほんの少しだけ後悔した。
ヴィランの触手をゆっくりと見つめて、ずっと言えなかった願いを口から零した。
「…………も、一度…………会いた、……なぁ……。」
パキィッ
その音に驚き、周囲を見ると、私とヴィランの間に築かれた氷壁。
……轟くんの、
「大丈夫ですか、怪我は……出血もしてますね、意識はしっかりしてますか。」
駆け寄ってきた轟くん、顔を起こせない。だめだ、泣きそう。こんな情けない姿で会いたくなかった、こんな、こんな形で、また助けられて。迷惑になりたくなかった。
それに、こんな状況でも彼の声に存在に喜んでしまっている自分にも、泣きそうになった。
「……あの、大丈夫ですか?聞こえますか?」
ぽんぽんと肩を叩かれる。ヴィランの方は他の人が対応してるのか、轟くんはひたすらに私の対応してくれている。
「…………はい、聞こえます。意識も、あります。」
「良かった、立てますか?」
「……はい。」
攻撃された鳩尾を抑えながら、なんとか立ち上がる。いったい……。
そして私の状態を伺う轟くん、私はこれ以上私に時間を掛けてもらう訳にはいかない。そんな気持ちで、もはやそう考えないと動けないほどには顔を見せたくなかったが、
唇を噛み締め、彼に向けて顔を上げた。
「………………え、」
「出血は、大したことありません。殴られたり蹴られて擦り傷を負った程度です。……鳩尾は最後に殴られて、少し痛みが引いていますが、自分で歩けます。」
「…………な、んで、ここに、」
「それじゃ、」
「っ苗字!!!」
肩を掴まれ、名前を呼ばれる。
その声に、周りがざわざわし始める。…………ん?
「は!?苗字!?」
「嘘!?苗字さん!?」
「名前ちゃん!?あなた名前ちゃんなの!?」
「苗字さん!?ど、道理で……交戦しに行く民間人ってどんなって思ったけど……そういう事だったのか……!!」
うわ、うわうわ、うわぁ……。
同窓会でもやってたの?と思う程に周りは元1-Aのクラスメイト達ばかりで、どんどん顔が青ざめる。
「ったく、……民間人の癖して、しゃしゃり出てんじゃねぇよ。」
爆豪くんの言葉に、俯く。そうだ、私はヒーローじゃない。個性を使ってないとはいえ正当防衛の域を超えていた。
ごめんなさい。そう謝ろうとして、顔を上げると頭の上に乗せられた手。
ぽんぽん、そう繰り返されると爆豪くんの手は離れていった。
それはどこか、よく頑張った。そう言われたような気がして、堪えた涙が溢れ出す。
私はヴィランから離れるように歩き出した。
「苗字、無理するな。俺が守っておくからここに、」
轟くんの優しさを胸に染み込ませながら、私は皆に向かって振り返り、息を吸う。
「……っヴィランは2名!!1名は銀行内に侵入中!!……っ人質等は全て解放済み、目の前にいるヴィランの個性は腕を触手のように伸ばすこと!」
皆は真剣な表情で私の言葉を聞いてくれる。状況報告としては、なんとも端的で拙いが。
零れる涙もそのままに、私は彼らにお願いする。
「……お願いします、……助けて、ヒーロー。」
彼らは力強く、私の言葉に頷き応えてくれた。