足りない時間

「えっと、……?」


「……怪我、平気か。」


「え、う、うん!!ほんと軽い傷ばっかりで。」


「そうか、」


そう言うと、轟くんは近づいてきて、私の腕を優しく掴んで引き寄せた。


「…………え!?」


そして腕を背中に回され、肩に頭を埋められる。


「……悪い、余裕とか、……ねぇんだ。」


「よ、余裕?」


「……ずっと探してた。」


「え……。」


「ずっと、会いたくて。…………でもいざ目の前に現れると感情が溢れすぎて、どうしたら良いのかわかんねぇ。」


そう言ってぐりぐりと私の肩に頭を埋める轟くんは、高校生の時よりずっと大きくなっているのになんだか子供のようで、笑ってしまった。


「……なんだ。」


「っふふ、なんか、らしくないなって。」


「なんだ、らしくないって。」


「……今まで見てきたヒーロー、ショートはこんな余裕の無い所見せてこなかったから。」


「……今の俺は、ヒーローじゃねぇ。…………ただの轟焦凍だ。」


「うん、そうだね……ふふっ。」


なんだか今まで会いたくなかったのが馬鹿らしく思えてくるぐらい、私達の間に流れる空気はあの頃と変わらなくて、居心地が良くなる。


「なぁ、沢山話したい。」


「うん、話そう。」


「沢山会いたい。」


「ふふ、会おう。」


「今まで会えなかった時間埋めるぐらい、苗字と一緒にいたい。」


それはどんなつもりで言ってるのか、ただ寂しさから言ってるのかな、それとも。なんて考えてしまって、それは私の願望だ。と考えを打ち消す。


「……うん、轟くんが納得いくまで一緒にいよう。」


「…………ん。もう、逃げないでくれよ。」


「……うん。」


「絶対逃げんなよ。」


「う、は、はい。」


「次逃げたら指名手配するからな。」


「しょ、職権乱用!!」


「っははは!!」


笑った轟くんはあの頃と変わらなくて、でも見た目は皆の憧れるショートで。


……こんな人がずっと私の事探してくれてたなんて、信じられない。


夢かな、と思った私は自らの頬を抓り、感じた痛みに口角を上げた。





「あ!おはようございます、先輩!!!もー聞きたいこと沢山あって、」


「お、おはよう。朝から元気だね。」


「元気も何も!!もう!!私に色々隠してましたね!?」


「貴方に、と言うかほとんどの人に隠し事してるよ私は……。」


「え!?そうだったんですか!?……すいません、大声で騒いじゃって。」


「ううん。……黙っててごめん、お昼休憩の時にでも全部話すから。」


「ホントですか!期待してます!!」





「……それで、な、何が聞きたいの?」


「うーん……あり過ぎますね…………でも1番気になるのは、」


「うん?」


「先輩、ショートの元カノとかだったんですか?」


「!?げほ、げほっ!!」


「うわ!大丈夫ですか!?」


食べていたサンドイッチが喉に詰まり、噎せる。な、何を……なぜそんな壮大な勘違いが……!?


「ち、違うよ……。」


「え?違うんですか!?だって昨日皆さん先輩とショートだけ置いて……。」


「…………それは、高校生の時私が轟くんと仲良かったからで、」


「轟くん?」


「あっ…………ショートの本名、轟くんって言うんだけど、だから皆轟くんが1番私と話したいからって、」


「え?なんで今まで会ってこなかったんですか?と言うか高校……?先輩雄英だったんですか!?しかも昨日のメンバーって1-A……え!?雄英のヒーロー科だったんですか!?先輩!?聞いてないですけど!?」


あぁ…………目の前で暴走している後輩を眺めて溜め息が出てしまう……。


もう何から話せば良いのかわからないぐらい、私は彼らとの縁を見せてこなかった。そのツケが今になってやってきて、


「もう!!全部聞くまで仕事戻りませんからね!?まずは、なんで雄英に!?」


うわ、そんな昔のとこからかよ。なんて顔を引き攣らせながら私は、むかしむかしの、母を亡くした母に憧れた私の話から始めた。


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