見えなくたって
「そ、そうだったんだ……。」
私は雄英を退学した後、県外の高校の普通科へと編入し、卒業後現在の編集長の元で働かせて貰うようになった。
「編集長とはたまたま学校で出会って。ヒーローについて多少知識がある所を見込まれて出版社に入ったんだけど、これが、まぁ……全く知らない世界だったから、大変で。1人前と認めてもらうまで時間かかったな。」
とは言え厳しく優しく、愛のある指導のお陰で私は今も元気に働かせて貰えている。本当に編集長には感謝しかない。
「でもほんと、先輩の書く記事って密かに人気なんですよ!ヒーローについて詳し過ぎるし、かなり細かくまとめてあって先輩のファンだって日本全国にいますよ!」
「大袈裟だって。」
「へぇ……なんて言う雑誌!?俺、月刊HEROなら読んでるんだけど、」
「え。」
切島くんの言葉に固まる、え。よ、読んでるの。
「……え?その反応は……えぇ!?マジかよ!!」
「俺も月刊HERO好きだぜ!!毎月買ってる!!」
「ぼ、僕も!!」
「私も!」
「えぇ……そうだったんだ。」
「……俺も、毎月買ってる。」
「え!?轟くん、雑誌なんて読むの、」
「月刊HEROだけな。……以前、八百万との熱愛報道で助けられたから。…………でもおかしいな、あの時礼を言いたくて会わせてくれって言った相手は苗字、って名前じゃ無かったけど。」
「あぁ…………そ、それは………………わ、私じゃない人が書いた記事だったんじゃ」
「えぇ!?そんな訳ないじゃないですか!!うちの特にヒーロー関係の所はほとんど先輩が、」
「……どういう事だ、苗字。」
「…………………………バレるかも、なんて思ったから偽名を……使ってまして…………。」
「……はぁ、そんなの見つからない訳だ。」
轟くんにため息をつかれて、縮こまる。本当にすいません、隠れに隠れて生きてました……。
「それにしてもあの記事苗字が書いてんのかぁ!!これからより読むのが楽しくなるな!」
「いやぁ、私は書きづらいよ……。」
「え?なんで?」
「皆が読むのかと思うと、緊張してしまって。変なこと書いてないかなって心配になっちゃうや。」
「んな事気にすんなよ!お前の思う俺らを書いてくれよ!」
まるで編集長の様なことを言ってくれる彼らに、胸が暖かくなる。
「…………うん。ありがとう。」
「さて!!今までの先輩、今の先輩については話せましたね!……あと私が知りたいのは、過去の先輩についてなんですけど、」
「そんなのもういいじゃん、聞きたいことあるなら私が話すから。」
「だから!先輩からじゃなくて、皆さんから聞きたいんですよ!先輩淡々と話すだけで面白くないし!!」
「うぐっ……。」
なんともどストレートな後輩だ、酷い。
「ふふっ、面白い後輩だな。」
「面白い?…………面白い、かなぁ……?失礼ではあるけど。」
「うむ!!後輩くんがそう言っていた為、特別な物を持ってきた!!」
「特別な物?」
「えぇー?なんですか!?」
「ジャジャーン!!雄英高校時代の苗字くんや我々を残した映像だ!!」
「え!?そ、そんなのどこで手に入れてきたんだよ飯田くん!?」
「実は、相澤先生に会ってきたんだ。」
「先生に!?」
「それで苗字くんが映った映像とか無いか聞けば、雄英での訓練は復習が出来るよう全て録画されているらしく、その映像を特別に貸して頂けた!!」
「え、えぇ……。」
「流石先生!!!」
「また今度礼言いに行こうぜ!!」
「あと、苗字くんに伝言だ。」
「え?」
「お前も俺の教え子だ。いつでも帰ってこい。……だそうだ。」
教え子。その言葉に目頭が熱くなった。……先生。
また今度、必ず会いに行こう。雄英を出る最後まで守り抜き、私の未来を案じてくれた先生に。
涙が零れそうになり、俯く私の背を轟くんが優しく撫でた。
「苗字、少し表に出よう。……酔い覚ましたい、付き合ってくれ。」
「……うんっ…。」
気を利かせてくれた轟くんに縋る形で立ち上がり、外へと連れ出された。
◇
「あの……しょ、と、轟さんと先輩って本当にただ仲良かっただけなんですか?」
「そ、それって苗字さんが言ってたの?」
僕が聞けば頷く後輩さん。
「私は元彼だったんですか、って聞いたら違う!!って全否定されましたけど……実際どうなんです?」
「実際っつっても俺達も苗字とは再会したばっかでわかんねぇけど…………轟の方は確実、だな。」
切島くんの言葉にほぼ全員が深く頷く。
「え?……やっぱそうなんですか!?じゃあ轟さんの片想い?」
ひゃああ先輩凄いなぁ!!と言いながらはしゃぐ後輩さんに、
「いやでも、雄英時代も名前ちゃんは轟ちゃんの事それなりに気があるように見えたわ。」
「見えた見えた!!轟の方があからさまだったけど。」
「でも今はわからへんなぁ……後輩さんから見たらどうなん?」
「え?……轟さんの事はそもそも関わりがあったって知ったのが最近なのでなんともですけど……ショートとしてであれば、絶対、ぜーったい全てのヒーローの中で1番好きですよ、先輩。」
「え!?そうなの!?」
「はい!!だって、ショートに関するニュースは全部網羅してるし、表紙務めた雑誌とかはなんやかんや言い訳しながら全部買ってるし。コラボ商品とかも話を振るといつも知ってて。先輩情報早いですね!なんて言うと仕事だから!!って誤魔化すんですけど、絶対それだけじゃあ無いですよ!」
どやぁ!と語った後輩さんの言葉に、僕達は少なからず安堵した。
どうやら想いあって離れてしまった2人の恋路は明るいようで、どうか幸せになって欲しい。そう思う僕達は彼らの未来を想像しては、笑みを浮かべた。
「……なるほど?お二人の恋を皆で応援してる感じですか?」
「え!?す、……鋭いね……。」
「よく先輩にも言われます!でも、そうですねぇ……先輩がショートとしてじゃなくて、轟さんとして好きなのかはちょっとわかんないです。」
「え?でもショートの情報集めてるって。」
「それは確かにそうなんですけど、先輩の言う通り仕事といえば仕事だし。特にデク、ショート、ダイナマイトは知名度も高く話題性に富んでいるので、情報を仕入れておいて損は無いんです。」
「なるほど……。」
「それに、……こんな事話したって言ったら先輩に怒られそうですけど…………元雄英1-Aの皆さんの情報はいつだって追ってますよ、先輩。」
「…………え?」
「それもとっても幸せそうな顔して。私は暫くお気に入りのヒーローが沢山いるからかな。なんて思ってましたけど、今思えばウラビティやフロッピー、グレープジュースやチャージズマなど。ここにいる皆さんの情報はとても楽しそうに追ってます。」
だから、轟さんだけが特別なのかはわかりません。と締めた後輩さん。
しかし僕達はそこよりも、苗字さんが離れている間も僕達のことを考えていてくれて、……活躍を幸せそうに見てくれていた。その事実が嬉しくて嬉しくて。
「……なんでしょう、今すぐにでも苗字さんと沢山お話したいですわ。」
「わかる、轟にばっかり独占させてられねぇな!」
「どうしよ梅雨ちゃん……泣きそう……。」
「ハンカチよ、使ってお茶子ちゃん。」
「……ふふ、先輩って愛されてるんですね。」
「……そうだね、愛されてるよ。」
「短い時間しか共に出来なかったのに愛された先輩の活躍。飯田さん!!見せてください!!」
「あぁ!待っててくれ!!」
飯田くんは意気揚々とDVDプレーヤーを持ち出し、僕達は懐かしい映像に声を弾ませた。