落ちていく

「大丈夫か?」


「うん……落ち着いてきた。ごめんね。」


「何が?」


「連れ出してもらっちゃって。」


「いや……俺が酔い覚ましたかっただけだ。」


なんてさらりと言ってしまえるのは、良い男だからなのだろうか。単純な私の胸はきゅん。と鳴ってしまう。


「そろそろ戻る?」


「…………もう少し。」


そう言った轟くんは、私の手にするりと手を重ねて、絡ませた。


「っ!」


恋人繋ぎ、し、してる。それを感じ取りビクッと身体を強ばらせると、


「……嫌か?」


困ったように眉を下げて顔を覗き込まれて、イケメンのそんな顔、しかも、ず、ずっと追ってきた、雑誌越し、テレビ越しに見てきたショートの顔で、嫌ですなんて言える訳もなく。


「……嫌、じゃない。」


私も大概だ、と愕然としながら、手にぎゅっと力を込めた。


すると嬉しそうに微笑んだ轟くん。……もう、もう!!かっこいいんだよ、一つ一つが。心臓持たない。


「なぁ、苗字。」


「な、何?」


「……退学した日のこと覚えてるか?」


「…………うん、轟くんが追いかけてきてくれたよね。」


「あぁ。……あの時、先生からお前がいなくなるって聞いて、衝撃が大きすぎて軽くパニックになってた。」


「……ごめんね。」


「でも、いざ苗字を追いかけて姿を見たら、何を言えば良いのかわからなくて、気づけば何より伝えたい言葉だけ言いそうになってた。」


「…………………………。」


あれ、待ってよ。あの日って轟くんが走ってきて、いやそもそも爆豪くんの爆破音に気を取られて、轟くん来て、……話して………………。


段々と顔が青ざめる。酔いが覚めるなんてレベルじゃなく血の気が引く。


「でも、言わせて貰えなかったんだ。お前に伝えようとしたら」


「ああああの!!轟くん!!!」


「お前キスしてきたもんな。」


「うわあああああ!!!」


手を繋いだまましゃがみ込む。完全に忘れてた…………忘れてたって言うか、忘れたかったのかな。いやもうどっちでも良いけど、うわ、も、最悪。思い出すタイミング最悪過ぎる。


「その後お前、俺に何言ったか覚えてるか?」


「………………はい。」


「なんで敬語なんだよ。」


ふはっ、とあの頃のように笑った轟くん。ごめん、私は笑えない。ほんと、あの頃の自分よ。もう二度と会わないと思ってやらかしたと思うが、残念だったな。会ってるよ!!!数年越しに会っちゃってるよ!!


「俺、嬉しかったんだ。お前に……大好きだよって言って貰えて。……お前も同じ気持ちでいてくれてたんだって。」


「………………うぐ。」


「だから諦めなかった。諦められなかったんじゃねぇ、諦めなかった。」


「…………え、轟くん?」


「なんだ。」


その言い方だと、まだ私の事好きみたいに聞こえてしまって、


「か、彼女とか、……いないの?」


「いねぇよ。…………お前以外に考えられない。」


ぎゅ、胸を鷲掴みにされる。


「今度はちゃんと言わせてくれ、苗字。」


私を立ち上がらせ、正面からその綺麗過ぎるお顔を見せられる。


「…………好きだ、苗字。俺と付き合ってくれ。」


息が止まってしまうほど、綺麗な言葉と綺麗な声。


どうしようも無く胸が暖かくて、ドキドキし過ぎて苦しくて倒れてしまいそうだ。


でも、


「ふんっ!!」


「!?」


繋いでない手で自らの頬を張り手する。感情に飲まれてはいけない、彼を誰だと思ってる?超人気ヒーロー、ショートだぞ?私みたいな民間人がお付き合いするには、格が違いや過ぎんか。


それに、


「…………私、今の轟くん知らない、から。」


「え?」


「昔の轟くんと、ショートは知ってる。……でも、今のありのままの轟くんは知らないことばっかり、だから。」


単純に、ただただ純粋に、


「もっと轟くんの事が知りたい。……返事はそれからじゃ、駄目かな。」


こんなイケメンの告白にこんな返事をしておいて、罰当たりかもしれない。それでも私の知ってる轟くんは、こんな言葉を返して怒る訳もなく


「……あぁ。いつまでも待つ。俺の全部を見せるよ。」


そう言って笑ってくれる人なんだ、だから私は、あの頃の私も、今の私も、


「……ありがとう、轟くん。」


轟くんに恋をしたんだ。

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