変わらぬ気持ち

やっっっと終わった…………。


すいません、すいません!!と頭を下げてくる後輩に大丈夫だよ。と声をかけて会議室を出る。


まずい、轟くんとの時間過ぎてる。もう来てるかも……。


急いで会議室を出ると、


「お、苗字。」


「!?!?!?!!?」


「ほ、ほんとに苗字さんと知り合いなんだ……。」


「凄い…………どんな関係……。」


ざわつく編集部の中で、ただ1人轟くんだけが嬉しそうにこちらを見ていた。


「と、轟くん!!」


「ん、お疲れ様。」


んんんんんんん!!!かっこいい!!じゃなくて!!!


「あ、ありがと……じゃなくて、なんでここに!?」


「仕事が早く片付いたから少し早くここについて、そうしたら後輩さんが出てきたから話してたら、ここで座って待ってたらどうだと言ってくれた。」


なんと………………。


「そ、……うなんだ。…………その、なんか色々質問されたりとかしなかった?大丈夫?」


「ん?……ここの人達か?チラチラ見られてはいたけど、好きなだけいてくれって言ってくれたし……良い職場だな。」


ズギュュン!!!、なんて音が各方面から聞こえる気がする。編集長まで胸を抑えて悶えてる。さ、流石…………甘いマスクは伊達じゃない……。


「うん、良い人ばっかりでね……ごめんね待たせて。仕事が終わらなくて。」


「あぁ、後輩さんから聞いた。仕事優先して貰って良い、待たせて貰えたしな。」


こんなとこで待っていても楽しくないだろうに。なんてことない顔してそう言ってくれるもんだから、本当に優しい。


「じゃあ帰り支度してくるから、もうちょっと待っててもらっても良い?」


「あぁ、急がなくていいぞ。」


「ありがとう!」


とは言われても急ぐに決まっている、あぁ、本当はトイレで化粧直しでもしたかったけれど、そこまでの時間は無い。私は泣く泣く1日かけてヨレてしまった化粧のまま、彼の前に戻った。


「お待たせしました!!」


「ん、じゃあ行くか。」


「うん、じゃあおさきにしつれ」


「苗字ちゃん、ちょっといい?」


「え!?あ、ちょ、編集長!?」


不思議そうな顔をする轟くんを置いて、少し離れたところで編集長が耳打ちしてくる。


「……………………付き合ってんの?」


「!!!………………ま、まだ、です。」


「まだ、ねぇ…………じゃあまぁこうして彼がここに来る事も増えるわけだ。」


「いや、私が遅刻しなければそんなことは、」


「ショートが、ここに、沢山、来てくれる訳だ??」


「へ、編集長……?」


「頼むよ苗字ちゃん、私は今日だけでマイナス5歳肌よ。だから、これからもいつでもここで時間潰して良いですからねってショートに言っといて。」


「じ、自分で言えば良いんじゃ……。」


「む、無理無理!!仕事ならまだしも、今のショート、プライベート!!めっちゃ私服!!かっこよすぎでしよ、無理よ話せない。」


いやまぁその気持ちもわからんでもないけど、いやでも私はコスチュームもかなり好きなのでどっちも…………ってそうじゃない。


「わかった??頼むわよ??……お疲れ様。」


「う、は、はい…………お先です……。」


「用事は済んだか?」


「う、うん、ごめんね。行こっか。」





「え?いいのか、そんなの。」


「いやむしろ………………ううん、編集長は優しいからそう言ってくれたみたい。」


先程された話をご飯屋さんで彼に伝えれば、少し嬉しそうに目を瞬かせた。


「そっか…………じゃあいつでも会いに行けるな。」


「で、でも大体私は仕事してるから、あんまり来てもつまんないよ?」


「大丈夫。苗字が仕事してる姿とかも見てみたい。」


「えぇ?つまんないよ、轟くんみたいにかっこよくないし。」


「…………………………。」


「え?」


突如黙り込んでしまう轟くん。え?


「…………か、…………かっこいいとか急にやめろ……。」


よく見れば赤くなった頬。口元から頬を手で隠して顔ごと逸らされた。…………て、


「照れてるの?」


「…………あぁ。照れるだろ、そりゃ。」


……好きな奴に褒められたら。なんて言われしまってこちらまで貰い事故。顔が熱くなってくる。


「…………ふふ、照れてんのか?」


「………………うっ。……照れてます。」


机に頬杖をついた轟くんは、照れて顔を逸らした私をじっと見ている。


「な、何?」


「……いや、可愛いなって思っただけだ。」


「…………もう!!」


「っははは!!」


また私が照れるって分かってて、そんな事を言うなんて意地悪だ。


それに気づいて怒れば、楽しそうに笑う轟くん。


あぁ、やっぱりここにいるのは轟くんなんだ。


雑誌の中の笑わないショートでも、災害現場で活躍するかっこいいショートでもなく、


こんな些細なやり取りで、本当におかしそうに笑う。これが私の知る轟くん。


…………何も、変わってない。


それがどれだけ嬉しいことか。ヒーローへの道から外れた私は、皆に心身ともに置いていかれたような気持ちだった。


けれどそれは被害妄想で、案外皆は変わらず無邪気なまま強さを持って人を助けている。


今の轟くんが知りたい、なんて言って彼を見ていて気づいてしまった。


昔も今も、私の恋した轟くんは


「うん?……どうしたんだ?」


私の事を、こんなにも愛おしそうに見つめる人だったって。

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