俺のです

「お、苗字。」


悲鳴や倒れる音が聞こえる、…………皆ごめん。


「と、轟くん……。」


あれからと言うものの、轟くんは約束した日もしてない日も変わらず、定時頃になると現れる事が増えた。


そしてその度…………特に私と目が合った時に嬉しそうに苗字。と呼ぶので、それを見てしまった編集部の面々は日々やられている。イケメン凄い……。


「今日はもう帰るか?」


「うん、もう帰るけど…………いつも来なくて良いんだよ?轟くんも忙しいだろうし……。」


「………………苗字、」


轟くんは周りに聞こえないよう近づき、耳元で


「好きな人に会いたくて仕方が無くなるんだ。……来たら迷惑か?」


なんて言ってきた。あああ、絶対今轟くん笑ってる、真っ赤になった私を見て笑ってる。


「もう!!轟くん!!」


「あははは!!」





「……そう言えば、写真撮られた。」


「へ?」


今日もまた一緒にご飯を食べていると、そんな事を言われて首を傾げてしまう。


「なんの?」


「八百万と俺だけ切り取られた写真。」


「うわぁ、また?」


「……また。」


しつこいなぁ、大体どこの出版社かは目星がつくが、なんともしつこい。


「だから、その、先に言っておこうと思って。」


「……あぁ!ありがとう、大丈夫。またうちは私が記事書くだろうし、煽るような文言は、」


「…………違ぇ。」


「え?」


「……………………妬いたり、とか。」


……………………え、あ、そ、そういう、


なんとも言いにくそうにした轟くんを見ると、やはり恥ずかしいのか首元まで赤くなっている。


「ご、……ごめん、変な勘違いしちゃって、」


「いや………………俺が自惚れてた。」


「え?う、自惚れ?」


「……苗字が、熱愛報道とか見たら嫉妬するかなって……。」


悪い、そんな訳ねぇよな。なんて言って笑った轟くんに、私は胸が痛くなった。


「……するよ?」


「………………え?」


「嫉妬、するよ。たぶん。」


今回は先に教えて貰ったからしないだろうけど、今までは、少なくとも八百万さんとは違うってわかっていても、仲良さそうに2人が歩いている写真を見るだけで、辛かった。


あれは嫉妬だったのか、それとも仲の良さを見せつけられて悲しかっただけなのかわからないけど、少なくとも私は轟くんが誰か他の女性をいるところを見るのは好きじゃない。


「…………私だけ見てれば良いのに、とか、思ったりも……してます。」


気づけばそんな気持ち悪い事を口走っていて、


「ななな、なんてね!!あははは!!き、きもいね私、」


慌てて誤魔化すけど、轟くんの表情を見て固まってしまう。


そんな、隠しようがないほどに緩んだ顔を見せられたら、黙ってしまう。


「……嬉しい、ありがとう苗字。」


「うっ…………な、何が?」


「お前の気持ち教えてくれたから。……心配しなくても、俺はお前の事しか見えてねぇよ。」


ぎゅんっ!!!


そんな殺し文句、そんな綺麗過ぎる顔で言わないで……。


「なぁ、苗字。」


「…………な、なんでしょ。」


「今度俺たちの熱愛写真載せてくれよ。」


「………………………………お?」


何言ってる??


「八百万とじゃなくて、俺の本命。勘違いばかりしてる奴らに教えてやりたい。」


「まま、待って、そんなの轟くんが凄い軽い男みたいに見られておしまいだよ。」


「別に良い。それに、俺が好きなのは苗字なんだ、それは変わらない。……変わらずずっと一緒にいれば、結果誰のことに本気だったのかなんていつか伝わる。」


な、駄目か?なんて小首を傾げる好きな人に狼狽える。


そうは言っても一時的に人気が落ち込んでしまう可能性だってあるし、本当に遊び人だとか女遊びが激しいとかそんな事を言われるかもしれない。


…………でも、私自身は彼の言葉に既にやられてしまっていて。


轟くん自身が、私のことが好きなんだって伝えたいと言ってくれてる。そんな思いを踏みにじれるほど、私は他人を慮れる人間ではないのだ。


「……へ、編集長に聞いてみる。」


「!ほんとか、ありがとう。」


あぁ、編集長になんと言われることやら。雑誌を自分の思い通りにしようだなんて、100年早いわ!!とか言われるかな。


キレ倒す編集長を想像して、ほんの少しため息が出た。

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