「うおぉ……遂に試合……。」
練習試合とはいえ、新1年生を3人も含めた新チームでの初試合。
次々とユニフォームに着替える皆を見ていて、何故か私が緊張してきた。
「…?どうしたんすか、苗字さん。」
「え?いや、なんでも……ってうわぁ!?」
「!?」
「ふ、服!!ユニフォーム!!着て!!」
「あ……すんません。」
振り返れば半裸の影山くん。なんで!?!?
「っはははは!!!何キョドってんだよ名前!!」
「そうだそうだ!!俺らの着替えなんて見飽きるぐらい見てきただろ?」
「そ、そこまで見てきた訳じゃないし!!」
いや、見てきたなたぶん。そしてそれに慣れていた自覚すらあった。
しかし、常日頃から端正な顔立ちをしている好きな人こと影山くん。そんな影山くんの半裸は皆の半裸とは格が違うのだ、ごめんよ田中くん、ノヤっさん、格が違うんだ。
パタパタと顔を仰ぎながら、顔の熱を冷ます。
「音駒高校来ました!」
潔子さんの声で、我に返り急いで椅子の準備に取り掛かる。
「手伝います。」
「ありがとう!!これお願い!」
先程まで真っ赤になっていた相手の影山くん、大体こうして仕事をしていると手伝いに来てくれる、優しい。
「苗字さん手伝います!!」
駆け寄ってくる日向くん。彼もいつも手伝ってくれる優しい良い子だ。
「ありがとう!これ、お願いします!」
彼らに椅子を渡して自分も持ち、指定した場所に並べて貰う。
すると、大地さんからの集合の声。
音駒高校、どんな学校なのだろうか。初めましての学校なので、ちょっとドキドキしてしまうな。
◇
「完敗、だな。」
あはは……と苦笑いを浮かべる先生とコーチ。
結果が記されたノートには烏野側にバツが沢山ついていた。
もう1回!!と叫ぶ日向くんをコーチが押さえつけ、全員で片付けに入る。
私もドリンクやタオルをまとめて、持ち上げようとした所、
「おい!苗字!」
「……?どうしたの、田中くん。」
「た、田中くん……だとっ……!?女子に君付けで呼ばれてんのかお前……!?」
呼ばれてそちらを見ると、田中くんとその後ろには音駒のウイングスパイカーの人。モヒカンの人。
「ははは!!こいつは潔子さんとはまた違って良い奴だ!!同い年だし、話しやすいだろう!」
「は、話しやすいってお前……こ、この人も相当な美人じゃねぇか……!?」
「まぁ苗字は顔だけだ!!大丈夫大丈夫!!」
ビクビクと怯えるモヒカンさん。と言うかいつの間に仲良くなったんだ……?
しかも田中くんよ、顔だけって何?
「あの…?」
「は、はいいい!!!」
!?
身を固めて、怯えたように声を発するその姿。
まるで、私が見知らぬ男の子に話し掛けられた時のリアクション、そのままじゃないか……!?
「ふふふ……苗字、親近感が湧くだろう。こいつは武虎。トラで良いってよ!お前と同じで異性に中々話しかけられない族だ。」
「……!!苗字名前です、よろしくお願いします、トラくん…!!」
「う、あ、よ、よろしく……!!」
お互いに恐る恐ると言った感じで握手をする。
私もトラさんも緊張感はあるものの、お互いのビビり具合を見て笑ってしまう。
「……本当だな、苗字は話しやすい!!」
「だろー?こいつは顔だけなんだって!!」
だから顔だけって何?
「苗字さん。」
「はい!」
振り返れば影山くん。
「これ、片付けますか?」
「あ、うん!今から片付けようとしてた所、」
「手伝います。」
「え、いいの?コートの方は終わった?」
「もう終わるんで、大丈夫です。」
「…じゃあお願いしようかな、…またね!トラくん!」
「おう!またな苗字!!」
◇
「音駒のウイングスパイカーの人と仲良くなったんすか?」
「そうなの、すっごい親近感湧いちゃって!」
「………モヒカンに憧れが?」
えぇ…?とでも言いたげな顔をする影山くんに噴き出して笑ってしまう。
「ち、違うよ…あはははは!!」
「じゃあ親近感って?」
「あはは……異性に話しかけるのが苦手って所。」
「あぁ……なるほど。」
すぐに影山くんが納得するぐらいには、私が異性が苦手だと言うのは明白らしい。
「でも慣れたら結構話せますよね。」
「うん、慣れたらね。……影山くんに対しても最初はビビり倒してたなぁ。」
「……そうでした?」
「うん、最初見た時なんかもう凄くて、」
「凄い?」
「うんうん、うわ!何あの子かっこいい!!って思っちゃって、」
思っちゃって、
思っちゃってぇ
「……かっこいい? 」
「うわあああああ!!!」
「!?」
何言ってんだ私は!!!わざわざ一目惚れしましたって言う気か馬鹿野郎!!!
「わ、忘れて!!!」
「いや、それはちょっと、」
「忘れてぇ!!!」
「う、うす。」
真っ赤になって顔を覆い隠し、しゃがみ込む。
余りに必死と言うか、とにかく喚いている私にドン引いた影山くんは頷いてくれた。忘れてくれ。
「……何も聞いてないよね?」
「……何も聞いてないっす。」