ネコとトラ

「うおぉ……遂に試合……。」


練習試合とはいえ、新1年生を3人も含めた新チームでの初試合。


次々とユニフォームに着替える皆を見ていて、何故か私が緊張してきた。


「…?どうしたんすか、苗字さん。」


「え?いや、なんでも……ってうわぁ!?」


「!?」


「ふ、服!!ユニフォーム!!着て!!」


「あ……すんません。」


振り返れば半裸の影山くん。なんで!?!?


「っはははは!!!何キョドってんだよ名前!!」


「そうだそうだ!!俺らの着替えなんて見飽きるぐらい見てきただろ?」


「そ、そこまで見てきた訳じゃないし!!」


いや、見てきたなたぶん。そしてそれに慣れていた自覚すらあった。


しかし、常日頃から端正な顔立ちをしている好きな人こと影山くん。そんな影山くんの半裸は皆の半裸とは格が違うのだ、ごめんよ田中くん、ノヤっさん、格が違うんだ。


パタパタと顔を仰ぎながら、顔の熱を冷ます。


「音駒高校来ました!」


潔子さんの声で、我に返り急いで椅子の準備に取り掛かる。


「手伝います。」


「ありがとう!!これお願い!」


先程まで真っ赤になっていた相手の影山くん、大体こうして仕事をしていると手伝いに来てくれる、優しい。


「苗字さん手伝います!!」


駆け寄ってくる日向くん。彼もいつも手伝ってくれる優しい良い子だ。


「ありがとう!これ、お願いします!」


彼らに椅子を渡して自分も持ち、指定した場所に並べて貰う。


すると、大地さんからの集合の声。


音駒高校、どんな学校なのだろうか。初めましての学校なので、ちょっとドキドキしてしまうな。





「完敗、だな。」


あはは……と苦笑いを浮かべる先生とコーチ。


結果が記されたノートには烏野側にバツが沢山ついていた。


もう1回!!と叫ぶ日向くんをコーチが押さえつけ、全員で片付けに入る。


私もドリンクやタオルをまとめて、持ち上げようとした所、


「おい!苗字!」


「……?どうしたの、田中くん。」


「た、田中くん……だとっ……!?女子に君付けで呼ばれてんのかお前……!?」


呼ばれてそちらを見ると、田中くんとその後ろには音駒のウイングスパイカーの人。モヒカンの人。


「ははは!!こいつは潔子さんとはまた違って良い奴だ!!同い年だし、話しやすいだろう!」


「は、話しやすいってお前……こ、この人も相当な美人じゃねぇか……!?」


「まぁ苗字は顔だけだ!!大丈夫大丈夫!!」


ビクビクと怯えるモヒカンさん。と言うかいつの間に仲良くなったんだ……?


しかも田中くんよ、顔だけって何?


「あの…?」


「は、はいいい!!!」


!?


身を固めて、怯えたように声を発するその姿。


まるで、私が見知らぬ男の子に話し掛けられた時のリアクション、そのままじゃないか……!?


「ふふふ……苗字、親近感が湧くだろう。こいつは武虎。トラで良いってよ!お前と同じで異性に中々話しかけられない族だ。」


「……!!苗字名前です、よろしくお願いします、トラくん…!!」


「う、あ、よ、よろしく……!!」


お互いに恐る恐ると言った感じで握手をする。


私もトラさんも緊張感はあるものの、お互いのビビり具合を見て笑ってしまう。


「……本当だな、苗字は話しやすい!!」


「だろー?こいつは顔だけなんだって!!」


だから顔だけって何?


「苗字さん。」


「はい!」


振り返れば影山くん。


「これ、片付けますか?」


「あ、うん!今から片付けようとしてた所、」


「手伝います。」


「え、いいの?コートの方は終わった?」


「もう終わるんで、大丈夫です。」


「…じゃあお願いしようかな、…またね!トラくん!」


「おう!またな苗字!!」





「音駒のウイングスパイカーの人と仲良くなったんすか?」


「そうなの、すっごい親近感湧いちゃって!」


「………モヒカンに憧れが?」


えぇ…?とでも言いたげな顔をする影山くんに噴き出して笑ってしまう。


「ち、違うよ…あはははは!!」


「じゃあ親近感って?」


「あはは……異性に話しかけるのが苦手って所。」


「あぁ……なるほど。」


すぐに影山くんが納得するぐらいには、私が異性が苦手だと言うのは明白らしい。


「でも慣れたら結構話せますよね。」


「うん、慣れたらね。……影山くんに対しても最初はビビり倒してたなぁ。」


「……そうでした?」


「うん、最初見た時なんかもう凄くて、」


「凄い?」


「うんうん、うわ!何あの子かっこいい!!って思っちゃって、」


思っちゃって、


思っちゃってぇ


「……かっこいい? 」


「うわあああああ!!!」


「!?」


何言ってんだ私は!!!わざわざ一目惚れしましたって言う気か馬鹿野郎!!!


「わ、忘れて!!!」


「いや、それはちょっと、」


「忘れてぇ!!!」


「う、うす。」


真っ赤になって顔を覆い隠し、しゃがみ込む。


余りに必死と言うか、とにかく喚いている私にドン引いた影山くんは頷いてくれた。忘れてくれ。


「……何も聞いてないよね?」


「……何も聞いてないっす。」

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