「常波高校…。」
「あんまり、名の知れてない高校ですね。まぁ初戦だしそういうの多いでしょうけど。」
「……今日も解説ありがとう。」
もはや振り返らずともわかる、月島くんだ。
「苗字さんは、ベンチにも来れないんですよね。」
「うん、マネージャーは1人しか入れないからね。」
「よし!!アップ入るぞー!!」
大地さんの声がする、月島くんは今日も気だるそうにコートへ向かった。
いよいよ初戦。変わり始めた烏野バレー部の初戦だ。
◇
常波高校に勝利を収め、次の伊達工業に意識が向く。
「旭さん。」
「苗字……。」
「今の烏野は、違います。……その、上手く言えないけど、気負い過ぎないで下さい。」
なんと声をかけたら良いのかわからず、こんな言葉しか出ない。
「……あぁ。ありがとうな。」
それに対して、いつものように優しい笑顔を浮かべる旭さん。
この笑顔は好きだけど、無理をしていないか心配になる。
「旭、行くぞ。」
「…おう。…応援頼むな、苗字。」
「……はい。」
冷えた指先を擦り合わせる。あの鉄壁が怖くて仕方ない。
どうか、挫けて帰ってきませんように。
そう、願って鼓舞して、声を張り上げることしかできない自分が無力に感じた。
◇
無事伊達工業に勝ち、迎えた2日目。
今日は青葉城西。以前月島くんに聞いた通り、強豪校だ。
応援団も伊達工業同様迫力あって、少し萎縮してしまう。
そして、この高校には影山くんの先輩がいる。
及川さん、と呼ばれる人だ。黄色い声援を沢山浴びてるあの人。
練習試合では最後の最後で出てきて、強烈な印象を叩きつけた。
コートの中に目を向ける。
少し緊張気味の影山くんに、心配になる。
大抵冷静で、プレーにもムラがない凄腕プレーヤーの影山くん。
そんな彼が、セッターが冷静さを欠いたら、と思うと肝が冷える。
なんて思っていると、こちらを見上げる影山くん。
うわ、へ、変なこと考えてたのバレたかな…なんて思うほどのタイミング。
じーっ。とこちらを見つめる影山くん、何を考えているの。私はただただ恥ずかしいんですけど…。
思わず私が視線を逸らすと、軽く笑った影山くん。
そしてそれを見た田中くんやノヤっさん。日向くんにからかわれている。
良かった、いつも通りの影山くんに戻った。そう安心して、試合開始の笛を聞いたが、
中盤の影山くんの焦り、読まれ続ける攻撃。
そして何より及川さんのサーブ、青葉城西の安定したプレーに翻弄され続け、
烏野高校は青葉城西に敗北した。