インハイ予選

「常波高校…。」


「あんまり、名の知れてない高校ですね。まぁ初戦だしそういうの多いでしょうけど。」


「……今日も解説ありがとう。」


もはや振り返らずともわかる、月島くんだ。


「苗字さんは、ベンチにも来れないんですよね。」


「うん、マネージャーは1人しか入れないからね。」


「よし!!アップ入るぞー!!」


大地さんの声がする、月島くんは今日も気だるそうにコートへ向かった。


いよいよ初戦。変わり始めた烏野バレー部の初戦だ。





常波高校に勝利を収め、次の伊達工業に意識が向く。


「旭さん。」


「苗字……。」


「今の烏野は、違います。……その、上手く言えないけど、気負い過ぎないで下さい。」


なんと声をかけたら良いのかわからず、こんな言葉しか出ない。


「……あぁ。ありがとうな。」


それに対して、いつものように優しい笑顔を浮かべる旭さん。


この笑顔は好きだけど、無理をしていないか心配になる。


「旭、行くぞ。」


「…おう。…応援頼むな、苗字。」


「……はい。」


冷えた指先を擦り合わせる。あの鉄壁が怖くて仕方ない。


どうか、挫けて帰ってきませんように。


そう、願って鼓舞して、声を張り上げることしかできない自分が無力に感じた。





無事伊達工業に勝ち、迎えた2日目。


今日は青葉城西。以前月島くんに聞いた通り、強豪校だ。


応援団も伊達工業同様迫力あって、少し萎縮してしまう。


そして、この高校には影山くんの先輩がいる。


及川さん、と呼ばれる人だ。黄色い声援を沢山浴びてるあの人。


練習試合では最後の最後で出てきて、強烈な印象を叩きつけた。


コートの中に目を向ける。


少し緊張気味の影山くんに、心配になる。


大抵冷静で、プレーにもムラがない凄腕プレーヤーの影山くん。


そんな彼が、セッターが冷静さを欠いたら、と思うと肝が冷える。


なんて思っていると、こちらを見上げる影山くん。


うわ、へ、変なこと考えてたのバレたかな…なんて思うほどのタイミング。


じーっ。とこちらを見つめる影山くん、何を考えているの。私はただただ恥ずかしいんですけど…。


思わず私が視線を逸らすと、軽く笑った影山くん。


そしてそれを見た田中くんやノヤっさん。日向くんにからかわれている。


良かった、いつも通りの影山くんに戻った。そう安心して、試合開始の笛を聞いたが、


中盤の影山くんの焦り、読まれ続ける攻撃。


そして何より及川さんのサーブ、青葉城西の安定したプレーに翻弄され続け、


烏野高校は青葉城西に敗北した。

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