前を向いて

コーチに連れられ入ったご飯屋さん。


促されるがまま食べ始める皆。誰も、何も言わないが、皆ぼろぼろと目から涙を流している。


そんな皆の隣で、私も涙が零れそうになる。


しかし、何故か、泣いてはいけない気がして。私が泣くのはいけない気がして、堪えた。


ご飯の味は覚えていない。温かかったという事しか覚えていない。





翌日、部活はお休み。


しかし、真っ直ぐ家に帰る気なんて起きなくて。


気づけば足が体育館に向かっていた。


近づく体育館。すると、聞こえる奇声。


なんだろう、と思って覗くと日向くんと影山くん。


悔しさからか、叫びながら駆ける2人。


体の中に抑えきれない感情から動く2人。


そんな2人を見ていたら、昨日堪えた涙がぼろぼろと零れた。


「…もう、謝んねぇといけないようなトスをあげねぇ…!!」


影山くんの声が聞こえる。


強くなろう、皆で。もう泣くような謝るような結果なんていらない。


体育館の中にいる2人の元へ行く前に、私はしゃがみ込んでしまい、動けなくなった。


「……名前ちゃん。」


凛とした声。ハッと顔を上げると潔子さん。


「……ありがとう。」


優しく頭を撫でられる。なにが、なにがですか。


「……奇声が外まで聞こえた。」


「え!?」


「潔子さん!!」


「あと、名前ちゃんに心配かけさせないで。」


いつの間にか来ていたのか、田中くん達の声もする。


それより、潔子さんの言葉にビクッと体を震わせた。


「え……苗字さん、どこに?」


「ここにいる。……2人のこと、ずっと見てたの?」


「………はい。」


ズビッ、鼻水を啜りながら頷く。潔子さんの後ろから顔だけ出すと、いたんですか!!と声を上げる日向くんと目を見開き固まる影山くん。


「あ、あの!3年生も春高行きますよね!?変わらないですよね!?」


春高。次の舞台、3年生が行かない……?そんなわけないよね……!?


「やべぇ!!遅刻だぞ!!……っておわぁ!?」


「どうした、スガ……うわぁ!?」


「え、何……うわあああ!!?苗字こんなとこで何してんだよ!?」


地べたに座り込み、泣いてる私を見て驚く3年生。


「……ちわっすぅ……。」


「ええええ!?どうしたんだよー!誰に泣かされたんだ!?」


「おい!!苗字泣かせたの誰だ!!」


「大丈夫かぁ……?なんか嫌なこと言われたのか…?」


よしよし、と旭さんに頭を撫でられながら、違いますと首を横に振る。しかし、潔子さんは


「日向と影山が泣かせた。」


「え!?」


「ちょっ!?」


「お前ら……。」


しれーっとそんな事を言って、大地さんを触発した。


な、なんで!?と潔子さんを見上げると、楽しそうな笑顔。


「いつもあの二人に振り回されてるでしょ。今日ぐらい振り回してやりなよ。」


にぃ、と笑う潔子さんに良い性格してるよなぁ…と苦笑いを浮かべるスガさんと旭さん。


大地さんの前に正座している2人には悪いが、それを見て笑う皆を見て思った。


皆、前を向いている。


私も下ばかり向いていられない。次の舞台も近いんだ。


ここからまた、始めるんだ。

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