コーチに連れられ入ったご飯屋さん。
促されるがまま食べ始める皆。誰も、何も言わないが、皆ぼろぼろと目から涙を流している。
そんな皆の隣で、私も涙が零れそうになる。
しかし、何故か、泣いてはいけない気がして。私が泣くのはいけない気がして、堪えた。
ご飯の味は覚えていない。温かかったという事しか覚えていない。
◇
翌日、部活はお休み。
しかし、真っ直ぐ家に帰る気なんて起きなくて。
気づけば足が体育館に向かっていた。
近づく体育館。すると、聞こえる奇声。
なんだろう、と思って覗くと日向くんと影山くん。
悔しさからか、叫びながら駆ける2人。
体の中に抑えきれない感情から動く2人。
そんな2人を見ていたら、昨日堪えた涙がぼろぼろと零れた。
「…もう、謝んねぇといけないようなトスをあげねぇ…!!」
影山くんの声が聞こえる。
強くなろう、皆で。もう泣くような謝るような結果なんていらない。
体育館の中にいる2人の元へ行く前に、私はしゃがみ込んでしまい、動けなくなった。
「……名前ちゃん。」
凛とした声。ハッと顔を上げると潔子さん。
「……ありがとう。」
優しく頭を撫でられる。なにが、なにがですか。
「……奇声が外まで聞こえた。」
「え!?」
「潔子さん!!」
「あと、名前ちゃんに心配かけさせないで。」
いつの間にか来ていたのか、田中くん達の声もする。
それより、潔子さんの言葉にビクッと体を震わせた。
「え……苗字さん、どこに?」
「ここにいる。……2人のこと、ずっと見てたの?」
「………はい。」
ズビッ、鼻水を啜りながら頷く。潔子さんの後ろから顔だけ出すと、いたんですか!!と声を上げる日向くんと目を見開き固まる影山くん。
「あ、あの!3年生も春高行きますよね!?変わらないですよね!?」
春高。次の舞台、3年生が行かない……?そんなわけないよね……!?
「やべぇ!!遅刻だぞ!!……っておわぁ!?」
「どうした、スガ……うわぁ!?」
「え、何……うわあああ!!?苗字こんなとこで何してんだよ!?」
地べたに座り込み、泣いてる私を見て驚く3年生。
「……ちわっすぅ……。」
「ええええ!?どうしたんだよー!誰に泣かされたんだ!?」
「おい!!苗字泣かせたの誰だ!!」
「大丈夫かぁ……?なんか嫌なこと言われたのか…?」
よしよし、と旭さんに頭を撫でられながら、違いますと首を横に振る。しかし、潔子さんは
「日向と影山が泣かせた。」
「え!?」
「ちょっ!?」
「お前ら……。」
しれーっとそんな事を言って、大地さんを触発した。
な、なんで!?と潔子さんを見上げると、楽しそうな笑顔。
「いつもあの二人に振り回されてるでしょ。今日ぐらい振り回してやりなよ。」
にぃ、と笑う潔子さんに良い性格してるよなぁ…と苦笑いを浮かべるスガさんと旭さん。
大地さんの前に正座している2人には悪いが、それを見て笑う皆を見て思った。
皆、前を向いている。
私も下ばかり向いていられない。次の舞台も近いんだ。
ここからまた、始めるんだ。